王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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64. 悪役令嬢を拾いました!

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 それから、数日後。
 王太子殿下は真実の愛のお相手と悪役令嬢扱いして捨てた元婚約者のオリアンヌ・セルペット侯爵令嬢と共に帰国された。

 そして、話に聞いていたように、それからのリシャール様は本当に忙しくなってしまい、なかなか会う時間が取れない。
 なので、宣言した通り今日は私の方からリシャール様に会いに行った。
 リシャール様との時間を堪能し、今はその帰りの馬車の中───……


「なるほど。それでリシャール様が最近、忙しそうなのか」

 リシャール様に会いにいくと言った私の為に護衛と称して着いて来てくれたお兄様が呆れた声で言う。

「しかし、まさか、王太子殿下までとは」
「本当に……またしても真実の愛だなんて、王家はどうなっているんですの!」

 私はまたまた憤慨する。

 どうも詳しく話を聞くと、王太子殿下も留学先の国で開かれていた何かのパーティーでそんな宣言をしたのだという。
 パーティー……つまり、公の場。
 あの時のリシャール様や私と同じ思いをした人がもう一人いる───……

 膝の上で私はギュッと両拳を握り締めた。

「国を背負う王太子ならもっとご自分の立場というものを考えて頂きたいですわ……!」
「……フルール。一見、未来の公爵夫人らしく国のことを思ったかのような発言しているが……その本音は?」

 お兄様がじとっとした目で私を見てくる。
 私はドンッと胸を叩いた。

「もちろん!  浮気者のくせにリシャール様を巻き込むなんて最低!  よ、ですわ!」

 フルールは本当にブレないなとお兄様は笑った。

「しかしそれで、中々会えなくなったリシャール様の元をいそいそと訪ねて差し入れをするとか健気な面があるじゃないか……リシャール様、泣いて喜んでいたんじゃないか?」
「……えっ!?」

 お兄様の言葉につい過剰に反応してしまう。

「そ、そうね!  リシャール様、泣いて喜ぶ……ええ。それはとてもとても、コホッ」
「……フルール」
「な、何かしら?  お兄様?」
「……」

 私が精一杯誤魔化そうとしたら、またしてもじとっとした目で見られた。

「ふむ……なるほど。リシャール様の執務室を訪ねていってから戻ってくるまで妙に長いなと思ったが……」
「……そんなことはありませんわ?」
「何だか行く前と少し髪型が変わっているような気がしたんだが……」
「……気のせいですわ?」

 お兄様がどんどん名推理を働かせていく。

「───お前たち、ひたすらイチャイチャしていたな!?」
「当然ですわ!!」

 私はどーんと開き直った。

「リシャール様との出会いは道で倒れていた彼を拾ったからでしょう?  そのまま我が家で匿って過ごしてずっと近くにいたのでいざ離れてみたら……」
「なるほど。会えない時間が増えてより愛が激しくなったと…………くっ!  胸焼けがしてきた」

 お兄様が胸を押さえた。

「えっ?  大変です。お医者様、呼びます?」
「──いや、呼ばなくていい。俺が恥ずかしい」

 心配してそう訊ねたけれど大真面目な顔で拒否されてしまった。
 ───そんな時だった。
 馬車がガタンッと音を立てて急停止してしまう。

「な、なに?」
「びっくりしたな……」

 突然の急停止に私とお兄様がびっくりする。
 そしてふと思い出した。

(リシャール様を拾った時もこんな感じで馬車が急に停まったのよね?)

 そうしたら、道にボロボロな姿のリシャール様が倒れていて……
 私の野生の勘が働いて連れ帰ったのよね。

「すごく覚えのある光景だな──何があったのか確認してこよう」

 お兄様が馬車から降りて馭者の元に確認しに行こうとした時、先に扉がノックされた。

「若様、お嬢様──大変です、道に人が倒れています」

 私とお兄様は顔を見合わせる。
 きっと、今の私たちの気持ちは同じ。
 だって、リシャール様を拾った時と展開が似すぎている。

「……男性なのか?」
「いいえ、女性のようです。服装はどこかの屋敷の使用人のような格好で……」
「女性……」

 そう言われて、私は身を乗り出して、道で倒れているという使用人服の女性とやらを覗き見た。
 さすがにリシャール様の時とは違ってボロボロな姿ではなさそう。
 だけど……

(何かしらこの違和感……)

 パッと見た感じは、どこかの使用人の家の女性が力尽きて倒れているだけ……なのに。

 そう考えてマジマジと見て気付いた。
 ──どうして、手に何も持っていないの?  周りにも何も落ちていない。
 これから買い物だったから?  それとも盗まれた?
 いえ、でも……そもそも、ここは街とは逆の方向……

「……」

(うーん……何だか、この人も……そのまま放っておいたらいけない気がする)

 リシャール様の時と同じ。私の野生の勘がそう警告してくる。

「お兄様、あの方を保護しませんか?」
「は?  フルール、何を言い出した?」
「───野生の勘ですわ!」
「またか、おい!  ──フルール!」

 私は馬車から駆け下りて、倒れている彼女の元に向かう。
 そしてじっと視線を向ける。

「リシャール様の時とは逆なのね……」

 私がそう呟いた時、お兄様も後ろから駆け込んで来た。

「フルール!  全く!  先に行くなよ」
「ごめんなさいお兄様、血が騒ぎました」
「──知っている。それで?」

 お兄様もうつ伏せに倒れている女性に視線を向ける。

「どこの家の使用人なのだろうな?」
「……」
「フルール?  黙り込んでどうした?  はっ!  また、お前頬をペチペチするとか言い出すんじゃ……」

 リシャールの時の発言をお父様から聞いていたお兄様がじと目で私を見てくる。

「いえ、誘拐問題はお医者様を呼べば大丈夫と分かりましたから……ですが今回は料理人が必要ですわ」
「は?  料理人?」

 私は頷く。

「聞こえませんか、お兄様。この方の腹ペコなお腹の音を」
「え?  腹ペコ?」

 お兄様は耳を済ませるけれど、分からなかったのか顔をしかめた。

「聞こえん」
「そうですか?  おかしいですわね。ですが、断言します!」
「フルール?」
「この方の倒れている原因は───腹ペコ……空腹ですわ!!」

 ぐーきゅるる……

 ちょうどその時。まるで、自分のこの言葉に答えるかのように私のお腹の音が鳴った。

「……あら?」

 私はそっと顔を見上げてお兄様の顔を見る。

「……」

 お兄様の目は、それはお前のことだろう?  と言っていた。



「では、慎重に───」

 なんであれ、この人を一旦保護することに反対はなかったようで、お兄様と馭者と三人で彼女を運ぼうとする。

(確か、前はこの時に顔が見えて倒れていた人がリシャール様だと気付いて……)

「ん?」

 私はパチパチと瞬きをする。
 そうして、私はもう一度彼女の顔を見る。

(ええっ!?)

「……」
「フルール?  顔がなんとも面白……すごい表情になっているぞ?」
「だってお兄様……この方」
「ん?」

 私にそう言われてお兄様も彼女の顔をまじまじと見る。
 そしてハッと息を呑んだ。

「……え?  あれ?」  

 三度見したお兄様と私の目が合う。

「───お分かりいただけました?  これは間違いありませんわ、お兄様」
「あ、ああ」 
「倒れているのに気品溢れるこの美しさ……この方、オリアンヌ・セルペット侯爵令嬢ですわ!!」



 こうして私は悪役令息に続いて悪役令嬢を拾った。

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