王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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78. パーティーの始まりよ!

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 そして翌日、パーティーの当日。


「───オリアンヌ様!  準備はいかがですか?」
「ばっちりです」

 そう言って支度を終えて部屋から出て来たオリアンヌ様はとても美しくて思わず息を呑んだ。

(素敵……やっぱり、お姉様とお呼びしたいわ……)

 ちなみに恥ずかしくてお姉様とは呼べていない。
 それよりもこんなにも綺麗な人を悪役令嬢と呼んで婚約破棄を言い渡した貧弱王太子の目は大丈夫なのかしらと言いたい。

「セルペット侯爵家の人たちや貧弱王太子たちの驚く顔が楽しみですわね?」
「ええ、そうですね」

 これから、今日のパーティーで起こるであろうことを想像して私たちは微笑み合った。


────


「フルール!」

 私はリシャール様のエスコートを受けて会場に向かうので、お父様やお兄様たちとは別行動となる。
 そうでなくてもお兄様はオリアンヌ様を影から支える役目があるので別行動せざるを得ないわけだけど。

「リシャール様!  本日はよろしくお願いします」

 迎えに来てくれたリシャール様に笑顔で挨拶するとなぜかそのまま黙り込んでしまう。

「リシャール様?」
「フルール、今日も可愛い……」
「ありがとうございます。リシャール様も素敵ですわ」

(素敵じゃない時を知らないけれど!)

 私の全身を見たリシャール様の頬が少し赤く染まる。

「どうしました?」
「いや、今日の僕たちは衣装を合わせただろう?」
「ええ」

 前のダンスパーティーの時には間に合わなかったけれど、私たちはお揃いの衣装を作っていた。
 そして今日はそれを着てパーティーに参加する。
 私は自分とリシャール様の衣装を見比べた。
 誰が見てもペアだと分かる色使いに刺繍。
 リシャール様は顔を赤くしたまま、手でパタパタと顔を仰ぐ。

「言い出したのは僕なのに……なんだか照れる」
「ふふ、私もです」

 私たちは顔を見合せて微笑み合った。

「さて、行こうか?」
「───はい!」

 そして、リシャール様の手を取り馬車に乗り込んだ。



 王宮に向かって出発した馬車の中、向かい側に座ったリシャール様が私に訊ねる。

「───準備は万端?」
「ええ、オリアンヌ様はとても美しかったですわ」
「そうか。彼女が会場に現れたら侯爵家の人々は驚くだろうね」
「見ものですわ」

 リシャール様の話だと、侯爵家は昨日、オリアンヌ様は体調不良によりパーティーは不参加と伝えて来たそうだ。
 万が一のことを考えて今日まで行動して来たけれど、やはり“オリアンヌ様”のことをきちんと見て来なかった人たちは秘密裏に探し出すことは出来なかったらしい。

「まあ、そもそも元気でも婚約破棄の件でオリアンヌ嬢は参加する気持ちになんてならないだろって意見が圧倒的多数だったけどね」
「ふふ、噂好きの令嬢たちの中ではオリアンヌ様と男爵令嬢の対決を見たがる声が多いようですけれど」

 どちらにせよ、オリアンヌ様の登場にはみんな驚くことは間違いない。

「ちなみに、昨日から王宮は例の件で大騒ぎだよ」
「……お妃教育の試験を合格したからですか?」

 例の件───それは、エリーズ嬢がお妃教育の試験をクリアした、ということ。
 もちろん、これはまだまだいくつかある試験の一つにすぎない。
 けれど、あれだけ課題や勉強から逃げ回っていたはずの彼女の合格───
 騒がれないはずがない。

「そう。あれだけ絶望視されていたのに……真実の愛って実は凄いのかもなんて話も出て来た」
「単純な人たちばかりですわね」

 シルヴェーヌ王女とベルトラン様の時と同じじゃない。
 王女殿下はリシャール様を捨て、ベルトラン様は婚約者だった私の存在を空気にしたにも関わらず会場は祝福の嵐だった。

「……貧弱王太子のご様子は?」
「大変、浮かれていたよ。こうなることは分かっていた!  私の選んだ彼女は素晴らしいだろう?  と」
「まあ!」

 ふふっと思わず笑みがこぼれる。

 ギリギリとはいえ、男爵令嬢が合格を掴み取ったことで貧弱王太子が喜ぶ気持ちは分かる。
 妃教育と試験に手を出せない貧弱王太子は、彼女ならやれると信じ続けた甲斐があった。 
 きっと、そう思っている。
 だから、何も知らない彼は、やはり自分たちの愛は本物───真実の愛で結ばれているからこそなし得たことなのだとはず。

 リシャール様がそっと私の頬に触れる。

「……まさか、本当にフルールの言っていた通りになるなんて」
「驚きました?」
「うん……」

 そう。私はリシャール様に忠告していた。
 ───男爵令嬢はきっとパーティーの前に試験に合格しますよ、それも多分ギリギリに、と。
 だから、そのことを念頭に置いて動くようにお願いしておいた。

「それで、あちらも私の言った通りでしたか?」
「ああ。最高に滑稽だったよ。愚かな奴らばかり。掃除するのに丁度いい」
  
 私が訊ねるとリシャール様は冷たくも美しい笑顔でそう口にする。

(───ああ、やっぱり素敵!  お願い、その笑顔で私も罵って!)

 私の胸は盛大に高鳴り、そしてうっとりしながらそう口にしたくなる。

「フルール?」
「あ、いえ……」

 それは結婚してからのお願いと決めているので今は我慢よ、と自分に言い聞かせた。

「そして、やはり余計な捜査をされないようにと前日の公表でしたわね」
「うん。フルールに言われてなかったら僕も間に合わなかったと思う」
「お役に立てて良かったですわ」

 私がにっこり微笑むと、頬に触れていたリシャール様の手が私の顎を持ち上げる。

「……あっ」
「本当に僕の愛する人は───最強だ」

 そう言って優しいキスが降ってくる。

「もう!  …………お化粧、口紅が落ちてしまいますわ」
「大丈夫、こんな時のためにフルールの家の使用人から塗り直す方法を伝授されたから後で直すよ」

 軽く抗議するとリシャール様がニンマリ笑う。

「え!?  いつの間に!?」
「シャンボン伯爵家の使用人は先読みが凄いよね。僕たちがこうしてイチャイチャすることは想定済み」
「~~~~っ!」 
「なので……」

 そう言った美しい笑顔のリシャール様の顔が近付いて来たので、私はそっと目を瞑った。



 そうして、馬車内で甘い甘い時間を過ごし、脳内が蕩けそうになりながらも、王宮に到着し会場へと入る。
 ペアの衣装で入場した私たちを見て少しザワついた。
 けれど婚約は公表しているし、何よりリシャール様が何時でもどこでも私への愛を隠さないので、じろじろ見られることは以前より減ったように思う。

「───まあ!  その顔で図々しくも婚約者と衣装をお揃いにするだなんてさすがフルール様ですね?」
「アニエス様!」

 そして、これまた当然のようにアニエス様もわざわざ褒めに来てくれる。
 いつも思うのだけど、本当にマメな方だわ。

「わたしには、恐れ多くてとてもとても……」
「ありがとうございます!  ですよね、実は私も最初は恥ずかしかったのですけど、リシャール様がどうしてもって……」

 最初に話を聞いた時は、私も驚いたし恥ずかしかったわ。

「え?  どうしても?」
「はい。リシャール様がこうすれば一目で相思相愛だと分かるし、離れていても虫除けになるしと仰ってくれましたの。確かに虫が寄って来ないのはいいことでしょう?」

 ほら、虫って気付くと血を吸っていて後々痒くなって困るのよね!

「そ、そう……自慢、自慢なのね!?  わたしには虫が寄ってこないからって!」
「いいえ?  虫は誰にでも……」
「誰にでも!?」

 何故かアニエスの顔が笑顔なのに引き攣っていく。
 虫の話のせいかしら?

「アニエスさ───」
「くっ……もう、結構よ!!」
「?」

 何故かアニエス様は怒ったような顔で行ってしまった。



「───フルール」
「あ、リシャール様」

 リシャール様が、くくっと笑いながら近付いてくる。

「何か面白いことでもありました?」
「いや、会話が噛み合っていないのに凄い撃退の仕方だなと……」
「何の話です?」

 聞き直したけどこっちの話だよ、と笑顔で言われてしまった。
 ちょうど、その時……
 貧弱王太子の入場を告げる音が聞こえた。
 私たちは顔を見合わせる。
 いよいよだ。

 メラッ……私の闘志に火がつく。

 ───さぁ!  貧弱王太子!  慰謝料の準備はいいかしら?
 オリアンヌ様の復讐パーティーの始まりよ!!

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