王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

文字の大きさ
89 / 356

89. やっぱり大親友

しおりを挟む


「やりたくなさそうなんだって」
「え?」
「だから、説得するしかないって空気になっている」

 リシャール様がため息と共に言った。

(や、やりたくなさそう……って)

「前にさ、今回の真実の愛の始まりは陛下だって話をしただろう?」
「ええ」
「いくら、ヴァンサン殿下やシルヴェーヌ殿下のように公の場で婚約破棄を宣言しなかったからと言っても今の王妃を選んだ陛下に何もお咎めがなかったわけじゃないらしいんだ」

 そう言われてみれば……
 げっそり王子と悪役王女の婚約者だったお姉様やリシャール様のことを思うと、パワーバランスや家柄、個人の能力を踏まえてかなり慎重に候補を選んでいる様子… …
 それは陛下も同じだったのかもしれない。
 そんな“誰もが認める相手”と婚約解消するとなれば──……

「慰謝料請求されちゃったり?」
「ははは!  それもあったかもしれない……それで当時、王太子交代させようという話もあがったらしいけど、王弟殿下の方がきっぱり断ったそうだ」

 そんなに王様やりたくなかったのね……

「妹の王妹殿下は?」
「当時の王妹殿下も自分には荷が重いと断ったとか」
「なるほど……なかなか上手くいかないものなのですね」

 今も二人があまり表に出て来ない理由が何となく分かった気がした。
 昔からやる気がないのに、今回、あんな面倒事ばかり残した兄陛下たちの後始末なんて進んでしたいとは思わないわよね……
 そう思った私は呟いた。

「……もう、それならいっそ王政なんて廃止しちゃえばいいのに」
「え?」

 リシャール様がびっくりした顔で聞き返してくる。

「だって、私が想像した血みどろ椅子取りゲーム、玉座には誰も着いていませんでしたわ」
「……」
「それって、もうこの国の王に相応しいなり手はいない!  そういう意味だったりして───……リシャール様?」
「……」

 何故かそこでリシャール様が真剣な顔をして考え込むように黙り込んでしまう。

「リシャール様?」
「…………あ、いや。そういう考え方がフルールらしいな、と思って」
「私らしい、ですか?」

 リシャール様はうんっと頷いて笑うと、そのままギュッと私を抱きしめた。

「もし、フルールと同じことを考えていても声に出す度胸のある人ってそうそう居ないからね」
「あら、そうなんですか?」
「そうだよ」

 リシャール様がコツンと額を合わせてくる。

「この間もさ、あの場で王太子に“金払え”って堂々と言えるのはフルールくらいだよ」
「いえ!  あれは正当な権利ですから!!」

 私がきっぱり告げるとリシャール様がフッと小さく吹き出した。
 そして、熱っぽい目で私を見つめる。

「───フルールのそういうところ、大好きだよ」
「……んっ」

 そのままリシャール様が愛の言葉と一緒に私の頬にチュッとキスをした。
 ちょっと擽ったくて笑ってしまう。
 とりあえず、これは褒められてるのだと思うことにした。


────


 そうして、過ごしているとそろそろ帰らなくてはいけない時間になった。
 帰宅のため部屋を出た私はリシャール様と手を繋いで馬車の待機所まで一緒に廊下を歩く。

(……すごい見られているわ)

 その間、私には王宮内にいる人たちからの視線が突き刺さっていた。

(お姉様が言っていたのはこういうことかしら?)

 皆、私を見てあれが噂のシャンボン伯爵家か……などと言っている。

(噂とは?)

 また、声をかけたいけれど、どこか躊躇ってる……そんな視線も感じる。

(これは……もしかして!)

「リシャール様!  すっかり私も有名人みたいです!」
「うん。チラチラ見られているね」
「私、思ったのですがこれってきっと……」
「これって?」

 私はリシャール様に向かってにんまりと笑う。

「───目標とする最強令嬢に私がまた一歩近づいたという証拠ですわ!」
「え?」

 リシャール様がきょとんとした目で私を見る。
 そして目を何度もパチパチさせたあと、ぷはっと吹き出した。

「なぜ、笑うのです?」
「いや……本当にフルールが可愛いくて、可愛いくて……」
「?」

 私が首を傾げているとリシャール様が少し寂しそうな声で言った。

「このまま帰したくないな。フルールを家に連れ帰りたい……」
「!」

 その言葉に胸がキュンとなる。
 私だって可能ならこのまま公爵家に……でも。

「残念ながら外泊はお兄様が認めてくれませんの」
「アンベール殿は、その辺はしっかりしていそうだもんな……」
「はい。結婚するまでは、あれもまだしてはいけない、これもダメと色々制限を言われていますわ」

(ですから、子守唄も冷たい視線で罵ってもらうことも全部、結婚後の楽しみとして取ってありますわよ!)

「そうか……アンベール殿はずるいな、自分だけちゃっかり同じ家で愛を育……」
「え?  お兄様がずるい?  リシャール様?  それはどういう──」

 リシャール様に聞き返そうとした時だった。

「あーら、もしかしてその冴えない後ろ姿はフルール様ではありません?」
「──!」

 私はハッとする。

(───この声は!)

 私は勢いよく後ろを振り返る。
 ───やっぱり!!
 そうよ。私がこの声を聞き間違えるはずないわ。だってだもの!!
 そう。
 そこに居たのは……

「アニエス様!」

 私はアニエス様に満面の笑みを浮かべながら駆け寄る。
 あのパーティー会場では、アニエス様は究極の照れ屋さんなのについつい名前を出してしまったから少し気にはなっていた。
 でも、良かったわ。声も姿も
 とっても元気そう!

「ひっ!  その眩しい笑顔はなに!?」
「アニエス様、ご無沙汰しておりますわ!  パーティの日以来ですわね」
「……!」

 私がパーティーと口にした瞬間、アニエス様の目がカッと大きく見開く。

「……パーティー!!  そうよ……パーティーよ……」
「アニエス様?」

 アニエス様は下を向いて、ふふ、ふふふ……と楽しそうに笑い出した。 

「そうよ……わたし、あのパーティーの日からどうしてもどうしてもフルール様に会いたいと思っていましたのよ!!」
「まあ!  それは嬉しいです!  それならいつでも訪ねて来て下さって良かったのに」
「……は?」
「もちろん、アニエス様ならいつでも我が家は大歓迎ですわ!」

 私は満面の笑みで答える。
 そんなに会いたいと焦がれてくれるなんて!  やっぱりアニエス様は私の大親友だわ!!

「大歓迎!?  ……くっ!  何を言っているのですか!  行けるわけないでしょう!」
「え?」

 アニエス様が恥ずかしそうに照れてしまっている。
 そんな悔しそうな顔までして……
 まさか恥ずかしくて我が家を訪ねられないだなんて!

 そんな照れ屋さんなアニエス様は、深く息を吐くと髪をかきあげ、私に言った。

「フルール様!  あの場での大親友とかいう発言はいったいなんだったのですか!」
「え?」
「わたしはそんなこと……頷いた覚えがありません!  迷惑です!」
「え……?」

 一瞬、冷たく突き放されたような気がしたけれど、すぐに私はそうではないと気付く。

(そうよ!  アニエス様はとても人気の高い方……!)

 よく、多くの令嬢を後ろに引き連れているものね。
 そんなアニエス様と私が友人だということは、他の令嬢たちももちろん知っていることではある……
 けれど、それが“大親友”とまでなると、何でお前だけが!  と、アニエス様を慕う他の令嬢たちの嫉妬を買ってしまう可能性があったということ。
 つまり!

(アニエス様は他の令嬢からやっかまれてしまうかもしれないからと、私のことを心配してわざと突き放そうと思ってそう言ってくれているのね?)

 ───ああ、本当にいつもながら、なんて優しい方なのかしら!

「アニエス様!!」

(もう一度、言うわ!  アニエス様、やっぱりあなたは私の大親友よ!!)

 私はアニエス様の手を取ってギュッと握ると、じっと彼女の目を見つめた。

しおりを挟む
感想 1,477

あなたにおすすめの小説

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」と蔑んだ元婚約者へ。今、私は氷帝陛下の隣で大陸一の幸せを掴んでいます。

椎名シナ
恋愛
「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」 ーーかつて私、エリアーナ・フォン・クライネルは、婚約者であったクラウヴェルト王国第一王子アルフォンスにそう蔑まれ、偽りの聖女マリアベルの奸計によって全てを奪われ、追放されましたわ。ええ、ええ、あの時の絶望と屈辱、今でも鮮明に覚えていますとも。 ですが、ご心配なく。そんな私を拾い上げ、その凍てつくような瞳の奥に熱い情熱を秘めた隣国ヴァルエンデ帝国の若き皇帝、カイザー陛下が「お前こそが、我が探し求めた唯一無二の宝だ」と、それはもう、息もできないほどの熱烈な求愛と、とろけるような溺愛で私を包み込んでくださっているのですもの。 今ではヴァルエンデ帝国の皇后として、かつて「無能」と罵られた私の知識と才能は大陸全土を驚かせ、帝国にかつてない繁栄をもたらしていますのよ。あら、風の噂では、私を捨てたクラウヴェルト王国は、偽聖女の力が消え失せ、今や滅亡寸前だとか? 「エリアーナさえいれば」ですって? これは、どん底に突き落とされた令嬢が、絶対的な権力と愛を手に入れ、かつて自分を見下した愚か者たちに華麗なる鉄槌を下し、大陸一の幸せを掴み取る、痛快極まりない逆転ざまぁ&極甘溺愛ストーリー。 さあ、元婚約者のアルフォンス様? 私の「穀潰し」ぶりが、どれほどのものだったか、その目でとくとご覧にいれますわ。もっとも、今のあなたに、その資格があるのかしら? ――え? ヴァルエンデ帝国からの公式声明? 「エリアーナ皇女殿下のご生誕を祝福し、クラウヴェルト王国には『適切な対応』を求める」ですって……?

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました

ほーみ
恋愛
 その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。 「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」  そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。 「……は?」  まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

処理中です...