王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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129. 愛しい人の誘惑?(リシャール視点)

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❇❇❇❇❇


「はぁ……───モンタニエ公爵、これでいいか?」
「ありがとうございます!」
  
 深いため息を吐いた陛下が僕に紙を渡す。
 僕は渡されたその紙を見て思いっ切り頬を緩ませた。

 陛下の許可はこれで完了だ───
 仕事終わりに僕は、数日後に控えたフルールとの結婚のため、婚姻許可証を受け取るため、陛下の元を訪ねていた。

(まだ退位前で良かったな)

 色々と面倒ごとを引き起こしてくれた国王陛下だったけど、この先、交代した後の新国王は絶対に忙しいから婚姻の許可証の発行は後回しにされてしまう。
 これ以上延期なんて耐えられるか!
 そんな思いもあって、フルールを見習って強引に交渉してみたわけだが……

(これでフルールと……ようやく結婚だ!)

 想像するだけで、さらに顔が綻んで締まりのない顔になってしまう。
 あとは、この許可証と誓約書を記入して提出するだけ。

 急がせたから結婚式は先になってしまうけれど……
 式だって最短で挙げる予定だ。

(フルールの花嫁姿は可愛いだろうなぁ)

 普段からとびっきり可愛いフルールだぞ?
 花嫁姿になったらもっともっと可愛いくなること間違いない。
 僕の花嫁は誰よりも可愛くて素敵な人だろう?  と皆に自慢して回るつもりでいる。

 そして、フルールを愛する伯爵とアンベール殿の泣く姿も想像出来───

「モンタニエ公爵……本当にあの娘と結婚するのか」
「何か問題でも?」

 僕は陛下を睨んだ。

「ぐっ……」

 せっかくのいい気分のところを邪魔されたので自然と言葉も声も冷たくなってしまう。
 陛下がフルールに苦手意識を持っていることは分かっている。
 まあ、それぞれの自業自得とはいえ、王女と王子が跡継ぎの座から引きずり降ろされ、自身の退位にも大きく影響を与えた人物なのだから仕方ないのかもしれないが。
 だからといってフルールを貶すのは許さない。

「それに、夜の部屋への訪問の許可を出したのはこっちだが……本当に毎晩毎晩毎晩あの娘の元に通っているそうじゃないか」
「当然でしょう?」

 そもそも、誰の尻拭いで結婚を延期したと思っている?
 そんな目でもう一度睨みつける。

「……くっ。本当にあの娘は何者なんだ……完全に骨抜きにされているじゃないか」
「フルールは誰よりも可愛いですから」
「……ベタ惚れではないか!」

 目を釣りあげて怒鳴る陛下。
 ベタ惚れ?  そんなの当然だろう!  惚れない方がおかしい!

「シャンボン伯爵はあんな恐ろしい令嬢をどうやって育て上げたのだ……恐ろしい男よ」
「以前、伯爵に聞きました……とにかく自由に、のびのびと。興味を持ったことは何でもやらせる。触れさせる。でも、間違った行動をした時はきちんと叱る……だそうですよ」
「なに?」

 陛下の顔が不思議そうな表情になる。そしてポソッと呟く。

「なんだ。案外、普通のことしかしていないじゃないか……」
「……」

 国王陛下この方は何も分かっていないな。
 僕はそう思った。

「そういう“普通”がとれだけ難しいか、分かっておられないようですね?」
「なに?」
「フルールは良くも悪くも“貴族”に全く染まっていません。とにかく真っ直ぐです」

 言うなれば無垢。
 だから皆、フルールの視点に……本来なら当たり前のはずの指摘にハッとさせられる。
 そして、フルールの本当に凄いところは思うがままの考え無しに突き進んでいるように見えて、ちゃんと超えてはいけない線を見極めていること、だ。

(あれが、野生の勘というやつなんだろう)

 僕は静かに微笑みを浮かべる。

「そんな真っ直ぐなフルールは現在、隣国の次期国王と王妃の微妙だった仲も取り持っていましたよ?」
「な……?」
「いえ、フルール本人は取り持ったつもりは全く無さそうなんですけどね」

 なぜなら恋心に疎いフルールだから。

「感謝の印に“王家秘蔵のワイン”を貰っていましたよ」
「な……なんだと!?」

 陛下の目がクワッと大きく見開かれる。

「……あ、あの王家秘蔵のワインを……伯爵家の令嬢に贈られた!?」

 陛下の動揺がすごい。
 気のせいでないなら、自分は貰えなかったのに、と聞こえたが……

(フルール……君が大事そうに抱えていたワイン……やっばり、かなりの代物だよ)

「…………っっ」

 陛下の顔色が悪いな。
 改めてフルールとは関わっちゃいけないとか思っているんだろうな。
 ちなみに悪い奴ほどフルールに対して怯える傾向があると僕は思っている。

「陛下、フルールがいればこの国は大丈夫ですよ」
「……うぐっ」
「ですから、あなたは王子や王女とどうぞゆっくり休んでください。我々のことはご心配なく───」

 僕のそんな言葉に陛下はがっくりと項垂れた。



────


 そして夜。
 寝支度を終えた僕は当然のようにフルールの元に向かう。

 初日はいい雰囲気のところを突然スヤスヤ眠られ、次の日は僕の方が疲れのせいで眠ってしまい、昨夜はお酒にやられた……

(だから、今夜こそ!)

 フルールとの甘い恋人の時間を!

「───フルール!」
「リシャール様!!」

 扉の外から声をかけると、満面の笑みを浮かべたフルールが勢いよく扉を開けて出迎えてくれた。

(ああ、癒しだ……)

 フルールのこの笑顔を見ているだけで疲れも吹っ飛ぶ。
 僕は無意識に腕を伸ばしてフルールを胸の中に抱き込む。

「お疲れ様です、リシャール様」
「フルールもお疲れ様」

 僕らは目を合わせて微笑み合う。
 そんな可愛いフルールに内心でデレデレしていたら、フルールから嗅いだ覚えのない香りがする。

「フルール、珍しいね?  今日は何か香るもの付けてる?」
「まあ!  さすがリシャール様ですわ」

 にこにこ顔のフルールが驚いている。
 そして、すぐにふっふっふ……と、何かを企んだような表情になる。
 ころころ変わる表情は可愛いし見ていて本当に飽きない。
 この表情の時は少しヒヤヒヤハラハラするけれど。

「実はイヴェット様から少し分けてもらいましたの」
「分けてもらった?  香水を?」
「なんと、この香りは男性をメロメロにする誘惑の香りだそうですわ!!」

 ゴホッ……!
 僕は思いっ切りむせてしまう。

「ゆ、誘惑!?」
「そうですわ。ですから、今夜はリシャール様を誘惑しようと思いましたの!」

 にっこにこな顔でそんなことを言うフルール。
 そんなものに頼らなくても、君の存在そのものが僕にとっては誘惑なのに……
 フルールがグイッと近付いてくる。

「リシャール様、私に誘惑されてくれますか?」
「~~~~っ」

(うぁぁぁ~!  なんで、そんな言葉をキラキラした目で言うんだ!!)



 もう、耐えきれなかったので、今宵もフルールを抱き抱えてベッドに運ぶ。

「フルール……」
「……ん」

 頬をほんのり赤く染めたフルールの柔らかい唇にそっとキスをして、着ているガウンを少しづつ脱がす。
 昨夜の酔っ払いフルールはその先も脱ごうとしていたけれど、今日は大丈夫のはず、だ。

(柔らかい……そして肌がスべ…………ん?)

 気のせいだろうか?
 何だかいつもより肌がスべスべしているような……?

「フ、フルール、今日の肌……」

 僕が訊ねると、フルールの顔がぱあっと明るくなる。

「気付かれました?  実は今日はいつもより肌をピッカピカに磨いてもらったのです!」
「え?」
「そ、その……ですから」

 フルールが可愛らしく照れている。
 もうこの顔と仕草だけで僕の理性が今にも剥がれそうなんだけど?
 でもキスより先は初夜まで我慢だ……!
 けれど、そんな僕の葛藤も知らず、可愛い可愛いフルールは───……

「───こ、今夜は思う存分、たくさん私に触れて感じてくださいませ!!」
「!!!!」

 無邪気なフルールの破壊力はやっぱり凄かった────

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