王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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137. やり直し

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 たくさん寝てスッキリし、お腹も満足したその後の私はいつも通り元気いっぱいだった。
 屋敷の中を公爵家のメイドたちに案内してもらいながら私は訊ねる。

「そういえば旦那様は?  姿を見かけないけれど、出かけているの?」
「はい。奥様が眠っている隙に出かけるのは気が引ける……と言いながらも、急いで行かないといけない所があったそうで」
「かなり、切羽詰まった顔をしていましたよ」
「そうなのね」

 結婚してもやっぱりリシャール様は忙しそう。
 夜は妻としてたくさん癒さなくちゃ……と思う。

 歩きながらそんなことを考える。

(ふふふ、妻という響きがとても新鮮……そして何だかやっぱり照れてしまうわ)

 私は自分の頬を手で押さえる。
 頬は、ほんのり熱を持っていた。

(そうだわ、せっかくだから聞いてみよう!)

「ところで、お疲れの旦那様を癒す方法といったら何があるかしら?」
「え?  癒す、ですか?」
「奥様がご主人様を?」

 不思議そうに聞き返してくるメイドたち。
 その様子にあれ?  と思う。
 シャンボン伯爵家ではお母様がお疲れのお父様を癒している光景をよく見たけれど、公爵家では違ったのかもしれない。

(まあ、前当主はあんな最低な人だったし仕方ないのかも)

「そうですわ!  今夜……疲れて帰って来るであろう旦那様を私が癒したいの!」

 残念ながら私には男性を癒す方法があまりよく分からない。
 出来ることといえば、肩のマッサージくらいだけど……

「私、肩のマッサージや肩叩きなら得意なのだけど、きっとそれだけでは足りないわよね?」

 そう訊ねるとメイドたちは顔を見合せてうーんと首を傾げた。

「あ!  ですが、ご主人様は今朝、肩をお辛そうにされていましたよ?」
「そうそう!  痛いんだ……と言いながらもどこか、嬉しそうだったので少し不気味でしたけど」
  
 肩が辛い?
 それは肩のマッサージをするチャンスだわ!
 私の目がキラリと輝く。
 他にも何がいいかしら、と考えていたら、メイドたちが私の顔を見ながら言った。

「奥様は本当にご主人様のことがお好きなのですね」
「大好きというオーラが身体中から溢れています」

 そう言われたので、私は満面の笑みで答えた。

「当然ですわ!」

 私が胸を張って答えるとメイドたちはホッとしたように笑った。

「ご主人様が選んだ方がフルール様のように明るい方で良かったです」
「どういうこと?」

 私が聞き返すとメイドたちは顔を見合せ、悲しそうに目を伏せた。

「奥様もご存知のようにご主人様は荒れていたモンタニエ公爵家の当主の座を前当主の父親から力づくで奪い取りました」
「そうね」

 追放されたはずのリシャール様は見事に返り咲いたわ!

「ご主人様は、当主に返り咲いた後、散り散りになった使用人たちも探し出して、父親から守れなかったことの謝罪と、もしもまだ新しい仕事場を探しているなら戻って来て欲しいと頭を下げたのです」
「……!」

 知らなかった。
 だけど、それはリシャール様らしい行動だと思った。

(そういう所も大好きだわ)

「私たちはこの方が新しい当主になられるなら……そんな思いで戻って来ることにしました」
「信じてみようと思ったのです」
「そんなご主人様は私たちに言いました。すぐにでも結婚したい令嬢がいる───と」

 私のことね?

「そうしてやって来た奥様は……」
「ご主人様の言うように見た目は可愛らしいのに、とてもパワフルで」
「肉食だとも今日、判明しましたね」

 メイドたちは私を見ながら次々と色々な話をしてくれた。
 当主になってからのリシャール様は、確かに忙しそうだけど楽しそうで笑顔が増えた、と。
 そう話すメイドたちの顔も嬉しそう。

(さすが、リシャール様!  みんなに愛されているわ!)

 最強の旦那様よ!  と、私も嬉しくなる。

「ご主人様があれだけ笑顔なのは、きっと奥様と出会えたからですね!」

 その言葉が一番嬉しかった。


────


「────と、いうわけで、今日一日で私は改めてリシャール様が大好きだと思いましたわ!」
「え?  フルール!?」

 その夜。
 寝支度を終えて寝室に入ると、すでに先に部屋で待っていた旦那様にそう告げた。
 リシャール様はびっくりした顔で私を見つめる。

「……僕のことを大好き?」
「はい!  とっても大好きですわ!!」

 そう言いながら私はリシャール様の胸に思いっきり飛び込んだ。 
 私を抱きとめたリシャール様は照れ照れと顔を赤く染めると、どこか恥ずかしそうにしながら言う。

「……フルールって、そういう所も直球……だよね」
「もちろんですわ!」
「……」

 リシャール様がそこまで言ったあとじっと私の目を見つめる。
 そして、国宝級の笑顔を見せた。

「───フルールのそういう所、僕も大好きだ」
「!」

 国宝の美しい顔と愛の言葉に私の胸がキュンとなった。
 そしてリシャール様は私の頬を優しく撫でながら顔を近付けてくる。
 その顔にうっとりしながら、私は瞳を閉じた。



 私たちはチュッチュッとたくさんのキスを交わす。
  
(──甘い)

 リシャール様とのキスはとにかく甘い。
 ──チュッ

「フルール……」
「んっ」

 そして先ほどから耳元で名前を囁かれる度に腰が砕けそうになる。

 私がマッサージをして旦那様を癒す予定だったのに! 
 旦那様はその隙を全く与えてくれない。
 おかげで、もうすっかり私の方が頭の中がトロトロよ……

「フルール」
「……旦那様?」

 旦那様がじっと私を見つめる。

「今夜こそ───……」
「え?」

 今夜こそ……の先をなんて言われたのかがよく聞こえなかった。

「今、なんて言ったのですか?」

 聞き返すとリシャール様はフッと小さく笑う。

「───初夜のやり直しだ」
「しょ……」

 リシャール様はそのまま私をベッドに押し倒す。
 そして私たちの目が再び合った。

「……フルール」
「ん!  ……は、い?」

 また耳元で甘く囁かれる。

(───耳元は反則よ!!)

「今夜も寝不足になるかもしれないけど……我慢してね?」
「え?」

 私が目をパチパチさせているとリシャール様はまた微笑んだ。

「───フルール、愛しているよ」

 愛しそうに大事そうに私の名前を呼びながら、リシャール様がそっと私に覆い被さって来た。

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