王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

文字の大きさ
139 / 356

139. 公爵夫人は今日もマイペース

しおりを挟む


「お兄様ったらこんなにもすぐに会いに来てくださるなんて……!  そんなに私に会いたかったのですか?」
「───違う!!」

 ───肉食夫人とは何事だ!
 そう言いながら勢いよく公爵家に乗り込んで来たお兄様。

「フルール!  ───最強の公爵夫人になる、はどうした!」
「もちろん目指していますわよ?  ついでに最強の旦那様と最強の妻である私……最強の夫婦も目指していますわ!」
「増えている!!  目指す最強が増えている!」

 お兄様がぐわぁぁと頭を抱えた。

「リシャール様は国宝ですからね、もう既に最強なのであとは私がひたすら頑張るだけですわ」
「フルール……」

 お兄様が何か言いたげな顔でフッと笑う。
 そして、私の頭に手を置くと豪快に撫でた。

「もう、お兄様ったら!  髪が乱れてしまいます」
「子どもの頃、“おにーさまに、あたまをなでられるの大すき!”と言っていつも俺に頭突きしてきていたのはフルールだろ?」
「……そ!  それはそうですけど」

 子どもの頃の話を持ち出されるのは何だか気恥ずかしい。
 確かに子どもの頃の私は、お兄様に頭を撫でられるのが大好きで、褒めて褒めて!  と事ある毎にお兄様に向かって自らの頭を突き出しては頭突きを喰らわせていた。

 これはかなり恥ずかしいので話題を戻すことにする。

「コホンッ……それで?  今日のお兄様は肉食夫人として私が有名になっていることを教えに来てくれただけですの?」
「いや……それもある、が、それだけじゃない」
「それだけじゃない?」

 私が聞き返すとお兄様が少し照れた様子で目を逸らしながら言った。

「───オリアンヌとの結婚が正式に決まった」
「まあ!」
「今日はどちらかと言えばその報告がメインのつもりだった……」
「ふふ、お兄様ったら」

 照れた口振りで話すお兄様の顔が赤い。
 お兄様もこんな顔をするのね、と思うと何だかとても新鮮な気持ちになった。

「おめでとうございます、お兄様!」
「……ありがとう。これから準備が始まるから結婚式はフルールたちよりも後になりそうだけどな」
「結婚式!  ふふふ、お姉様のウェディングドレス姿……想像するだけでも美しいですわ……」

 私がうっとりした顔でそう口にするとお兄様が苦笑した。

「……本当にフルールは、リシャール様やオリアンヌの顔が好きだな」
「ええ、大好きですわ!」

 私は満面の笑みで即答する。
 そんな私を見てお兄様はやれやれと肩を竦めた。

「全くフルールは変わらないな……だが!  いいか?  オリアンヌのいい所は顔だけじゃないんだ!」
「そんなことはもちろん知っていますわ!  それにリシャール様だってそうですわよ!」
「オリアンヌは──」
「リシャール様は───」

 私たち兄妹によるお互いの(美しい)パートナー自慢はそれからも延々と続いた。




「そうか!  アンベール殿も結婚を決意したんだ?」
「はい!」

 その日の夜、お兄様が結婚するという話をリシャール様にも報告する。
  
「お兄様が素敵な人と巡り会えて本当に良かったですわ」
「オリアンヌ嬢は、婚約破棄されたせいで激怒した家族から逃げ出し、お腹を空かせて倒れている所をフルールに拾われて幸せになりました───という感じか」
「旦那様?」

 リシャール様が凄いなと言いながらクスクスと笑う。

「フルールのその元気なパワーが、皆に幸せを運んで来てくれたんだろうなと思ってさ」
「旦那様……」
「だから───これからも、そのままのびのびしたフルールでいて欲しい」
「のびのび……分かりましたわ!」

 笑顔で元気よく返事をしながら私は改めてリシャール様と出逢えたことに心から感謝した。




 それからの私は、公爵家の女主人としての働き方をレクチャーされながら、息抜きに走り込みと身体を鍛えたり、最近はとうとうリシャール様が用意してくれたお庭での畑づくりにも着手し始めた。

 そんな充実した日々を送りながら最強の公爵夫人を目指して元気いっぱいに過ごしている私の元に手紙が届いた。

「まあ!  この字は!」

 手紙を受け取った私は即座に声を上げる。
 差出人名を見なくても分かるわ!  だって大親友だもの!
 この字は───アニエス様よ!

「もしかして結婚を祝うお手紙かしら?  だとしたら嬉しいわ」

 あのお茶会以来、バタバタして会えていないのよね。
 今度ゆっくりと会いたいわ。
 そんなことを考えながら手紙を開封する。

「───フルール様へ   ご結婚されたとのこと。おめでとうございます。まさかフルール様が本当に結婚出来るなんて夢のようです…………うんうん、やっぱり結婚のお祝いの手紙みたいね!」

 私は頬を緩ませながら続きに目を通す。

「ふむふむ。フルール様が肉食夫人と呼ばれているという話も耳にしました───ええ!?  さすがアニエス様だわ!」

 ────いったい、何をどうしたらそんな呼び名が広がるのかしら?  ……もっと公爵夫人としての自覚をお持ちになったらどうです?  とアニエス様からの手紙は続く。
 さすが大親友!
 相変わらず、私のことをとても心配してくれているわ。

「ふふ、公爵家でも相変わらず沢山食べて食べて食べまくって、いっそコロコロになってしまえばいいわ!  なんてことも書いているけれど、これは要するに食べ過ぎには注意しなさいって、言ってくれているのよね?」

(確かに……結婚式前なのにウェディングドレスが入らなくなったら大変だものね)

 場合によってはフルールではなく、コロールに改名して式に臨まなくてはいけなくなるかもしれない。

(コロール・モンタニエ……)

「これは夜、旦那様に相談ね……!」

 私はうんうんと頷きながらそう呟いた。

「それにしても───……」

 本当にアニエス様は昔から変わらない人だわ。
 私は手紙を読みながらほっこりした気持ちになった。

 そんなアニエス様からの手紙がとても嬉しかったので、さっそく私は返信を書くことにした。
 しかし、あれやこれや書きたいことが多すぎてこれでもかと色々書き綴った手紙は、報告書並に分厚くなってしまう。
 もはや手紙なのか報告書なのか分からなくなったそれをパンスロン伯爵家に届けてくれた公爵家の使用人曰く……
 アニエス様は震える手で、
「手紙!?  あなたには“これ”が手紙に見えるというの!?」
 と、叫びながら受け取ったあと、嬉しさのあまりその場で卒倒したとか。

(喜んでもらえたみたいで嬉しいわ!)


 ちなみに、改名の件はリシャール様に相談したところ……
 たとえこの先、私がどんなにコロコロになってもコロールへの改名はやめてくれと懇願された。
しおりを挟む
感想 1,477

あなたにおすすめの小説

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」と蔑んだ元婚約者へ。今、私は氷帝陛下の隣で大陸一の幸せを掴んでいます。

椎名シナ
恋愛
「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」 ーーかつて私、エリアーナ・フォン・クライネルは、婚約者であったクラウヴェルト王国第一王子アルフォンスにそう蔑まれ、偽りの聖女マリアベルの奸計によって全てを奪われ、追放されましたわ。ええ、ええ、あの時の絶望と屈辱、今でも鮮明に覚えていますとも。 ですが、ご心配なく。そんな私を拾い上げ、その凍てつくような瞳の奥に熱い情熱を秘めた隣国ヴァルエンデ帝国の若き皇帝、カイザー陛下が「お前こそが、我が探し求めた唯一無二の宝だ」と、それはもう、息もできないほどの熱烈な求愛と、とろけるような溺愛で私を包み込んでくださっているのですもの。 今ではヴァルエンデ帝国の皇后として、かつて「無能」と罵られた私の知識と才能は大陸全土を驚かせ、帝国にかつてない繁栄をもたらしていますのよ。あら、風の噂では、私を捨てたクラウヴェルト王国は、偽聖女の力が消え失せ、今や滅亡寸前だとか? 「エリアーナさえいれば」ですって? これは、どん底に突き落とされた令嬢が、絶対的な権力と愛を手に入れ、かつて自分を見下した愚か者たちに華麗なる鉄槌を下し、大陸一の幸せを掴み取る、痛快極まりない逆転ざまぁ&極甘溺愛ストーリー。 さあ、元婚約者のアルフォンス様? 私の「穀潰し」ぶりが、どれほどのものだったか、その目でとくとご覧にいれますわ。もっとも、今のあなたに、その資格があるのかしら? ――え? ヴァルエンデ帝国からの公式声明? 「エリアーナ皇女殿下のご生誕を祝福し、クラウヴェルト王国には『適切な対応』を求める」ですって……?

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました

ほーみ
恋愛
 その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。 「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」  そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。 「……は?」  まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

処理中です...