王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

文字の大きさ
159 / 356

159. 愛を誓う日 ②

しおりを挟む


(思っていたより人が多いわ)

 式場内に足を踏み入れた時、真っ先にそう思った。
 キョロキョロと目線だけを動かして参列者を確かめてみた。

(すごいわ。見知った顔がたくさん!)

 すぐに目に入ったのは、もちろん大親友のアニエス様だった。
 ヴェールのお礼……言いたいな。
 でも、照れてそっぽ向かれちゃうかも。

 そんな大親友アニエス様の隣にいるのは───ニコレット様!
 ニコレット様は今日のために領地から出て来てくれた。
 時間がギリギリと聞いていたけれど間に合ったみたいで良かったわ。

 それから、それから……

(これだけ参列者が多いのは、やっぱりモンタニエ公爵───リシャール様効果よね?)

 やっぱり私の夫はすごい人だわ!
 私は目を輝かせた。

「フルール、どうかした?」

 参列者に目を奪われている私にリシャール様が横からコソッと訊ねてくる。

「人が多くて驚きましたわ。さすがリシャール様の結婚式だなって思っ……」
「違うよ、フルール」
「違う?」

 リシャール様が静かに首を振る。

「僕じゃない。皆、今日はフルール目当てで集まっているんだよ?」
「え、私?  ……あ!  なるほど、花嫁のウェディングドレスが見たくて、ですか?」
「いや?  中にはそういう人もいるかもしれないけど、そうじゃないよ」

 私の返答にリシャール様は苦笑した。

「分かってる?  ───あの真実の愛による婚約破棄騒動の時からフルールはとっても有名人なんだ」
「真実の愛……」 

 何だかもうすでに懐かしい。
 そう思ってクスッと笑った時、私の視界の端っこに見覚えのある顔が映った。
 肩身が狭そうでものすごく居心地悪そうで、唇を噛み締めて苦い顔をしたその人は───……

(えーー!?)  

 私はびっくりして思わず声を出してしまう。

「……ベルトラン様?」
「え?」
「リシャール様、ベルトラン様が式場の隅っこでしれっと参列していますわ……」

 そう告げたけれど、リシャール様は全く驚かなかった。
 むしろ、ゾクッとする冷たい微笑みを浮かべた。

「へぇ、来たんだ?」
「リシャール様?」
  
 その反応に私は首を傾げる。

「フルール……あれはね、来れるものなら来てみろと僕が呼んだんだ」
「え?」
「だってさ、皆の前で宣言した王女殿下との真実の愛があっけなく壊れて、高額慰謝料を支払って破滅寸前にまで陥ったあげく、社交界では笑い者にされてかなり肩身の狭い思いをして過ごしているけどさ……それだけじゃ罰が足りないと思ったんだ」
「ば、罰?」

 ベルトラン様の近況を一息で言い切ったリシャール様は、にこっと微笑む。
 だけど、すぐにニヤリと悪い顔になった。

「自分が捨てた婚約者が幸せいっぱいになっている姿を見ることが、何もかも失って落ちぶれた彼には一番の屈辱なんじゃないかなって」
「あ、悪どいですわ」

 リシャール様は優しいけれど敵に回すと怖い人だと思う。

「そう?  でも、僕はちゃんと選択肢を与えたんだよ?  来ることを選んだのはベルトラン自身だ」
「リシャール様ったら……」

(そして、そのちょっと悪い顔もゾクゾクするわ!)

「あの男は元々、フルールに一目惚れして婚約を申し込んだんだろう?  それなら今日のこんなに可愛いフルールのウェディングドレス姿を見て今頃後悔しているはず───ざまぁみろ、だ」
「……!」

 リシャール様もそんな言葉を使うのね?
 そう思ったらクスッと笑ってしまう。

「ですけど、万が一、ベルトラン様が式をめちゃくちゃにするという可能性は考えなかったのですか?」
「万が一に備えてはおいた……けど、権力という権力を使ってたっぷり脅しておいたから、今の彼にそんな度胸はないと思うけどね」
「権力!」

 リシャール様はこれまた悪い顔でニンマリと笑った。

「せっかく首の皮一枚繋がった状態の伯爵家を潰したくはないはずだからね」
「……!」

(胸……胸のキュンキュンが止まらないわ!)

 もっと……もっとその顔を……!
 これから皆の前で愛を誓う私の最愛の夫はとーーっても黒かった。



 そんな盛大な胸キュンを繰り返していたら、いつの間にやら愛の誓いを述べる祭壇の前に到着していた。
 そこで立ち止まった私たちは向かい合う。

(確か、ここで名前を呼ばれて愛を誓いますか?  と訊ねられてハイと返事を……)  

「フルール」
「リシャール様?」

 頭の中でこの後の段取りを復習していたら、何故かリシャール様が私にお礼を言った。

「……フルール、改めてありがとう」
「何がです?」

 何のお礼か分からず私が聞き返すとリシャール様はとびっきりの笑顔を見せた。

(……っ!)

 くっ!  眩しいわ!  国宝がキラッキラに輝いている!

「もちろん───あの日、王女殿下に婚約破棄されて捨てられた“悪役令息”の僕を拾ってくれたこと、だ」
「ふふ、あれは人生で一番の拾いものでしたわ!」

 だって拾ったのはまさかの国宝級の美男子だったんですもの!
 その後、美女も拾いましたけど! 

「……フルール」
「リシャール様……」

 リシャール様が両手を広げてくれたので、私はリシャール様の胸に思いっ切り飛び込んだ。
 本来の結婚式にそんな作法はないので式場内が大きくザワついた。

(えっと……なんだったっけ?  そうだわ。愛を誓うのよね?)

 なんて考えていたら、リシャール様はそのまま私を高く持ち上げる。

「!」

(───もう!)

 私はリシャール様を見下ろしながらとびっきりの笑顔で言った。

「リシャール様───私、これからもずーーっと、あなたを愛していますわ!」
「フルール、僕もだよ。これからもずっと君を愛してる」

 互いに愛を誓って見つめ合った私たちは微笑み合うとそっと唇を重ねる。
 愛の誓い方も誓いキスの流れももうめちゃくちゃだった。

 これまで見たことの無い愛の誓い方にすごく式場内はザワザワしている。

 これはあとでお兄様が、段取りめちゃくちゃの前代未聞の結婚式じゃないかーー!
 と、言ってくる姿が想像出来てしまうわね。

(ふふふ!  でも、これでいいの!)

 だって、これがいつだって型にとらわれず、自由でのびのびしている私らしい結婚式だと思うから───……

しおりを挟む
感想 1,477

あなたにおすすめの小説

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」と蔑んだ元婚約者へ。今、私は氷帝陛下の隣で大陸一の幸せを掴んでいます。

椎名シナ
恋愛
「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」 ーーかつて私、エリアーナ・フォン・クライネルは、婚約者であったクラウヴェルト王国第一王子アルフォンスにそう蔑まれ、偽りの聖女マリアベルの奸計によって全てを奪われ、追放されましたわ。ええ、ええ、あの時の絶望と屈辱、今でも鮮明に覚えていますとも。 ですが、ご心配なく。そんな私を拾い上げ、その凍てつくような瞳の奥に熱い情熱を秘めた隣国ヴァルエンデ帝国の若き皇帝、カイザー陛下が「お前こそが、我が探し求めた唯一無二の宝だ」と、それはもう、息もできないほどの熱烈な求愛と、とろけるような溺愛で私を包み込んでくださっているのですもの。 今ではヴァルエンデ帝国の皇后として、かつて「無能」と罵られた私の知識と才能は大陸全土を驚かせ、帝国にかつてない繁栄をもたらしていますのよ。あら、風の噂では、私を捨てたクラウヴェルト王国は、偽聖女の力が消え失せ、今や滅亡寸前だとか? 「エリアーナさえいれば」ですって? これは、どん底に突き落とされた令嬢が、絶対的な権力と愛を手に入れ、かつて自分を見下した愚か者たちに華麗なる鉄槌を下し、大陸一の幸せを掴み取る、痛快極まりない逆転ざまぁ&極甘溺愛ストーリー。 さあ、元婚約者のアルフォンス様? 私の「穀潰し」ぶりが、どれほどのものだったか、その目でとくとご覧にいれますわ。もっとも、今のあなたに、その資格があるのかしら? ――え? ヴァルエンデ帝国からの公式声明? 「エリアーナ皇女殿下のご生誕を祝福し、クラウヴェルト王国には『適切な対応』を求める」ですって……?

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました

ほーみ
恋愛
 その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。 「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」  そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。 「……は?」  まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

処理中です...