160 / 356
160. 花嫁はマイペース
しおりを挟む進行がハチャメチャとなった結婚式は、その後もやや強引に押し切って無事に終了。
そして控え室に戻ると───
「フルールよ。振り返ってみればとってもとってもとってもフルールらしい結婚式だった……」
「そうでしょう? お兄様!!」
「くっ! 出た、その無垢な笑顔! いいか? だがな見ているこっちはハラハラなんだよ!」
「ハラハラ……」
思った通り、控え室に入ると同時にお兄様がハチャメチャ進行となった結婚式について「前代未聞じゃないか!」と言って来た。
ふふん、さすが私!
お兄様のこと分かっているわ! と嬉しくなってニコニコしていたら、お兄様がぐぁぁぁと頭を抱える。
「進行もやり方もハチャメチャだったのに、結婚式としてやるべきことはきちんと全て……しかも時間内に行ったお前たちが俺は本当に本当に本当に怖いよ……」
「愛の誓いの言葉も誓いのキスも指輪の交換も結婚式用の誓約書へのサインもバッチリ行いましたわ!」
私はえっへんと胸を張る。
「その通り過ぎて何も言えない……!」
「あ、そうですわ! お兄様もオリアンヌお姉様との結婚式で私みたいに自由に───」
やったらどうです?
そう言おうと思ったのにお兄様がギョッとして慌てて遮ってくる。
「フルール! 待っ……よ、余計なことを言うと……」
「え? 余計?」
私が首を傾げると焦ったお兄様が言う。
「オリアンヌとフルールは好きなこととか似ているんだぞ!? そんなことを言ったらオリアンヌが……!」
「…………やりたい!」
「そう! そう言い出すかもしれないんだ! だから──……」
「アンベール! 私もフルール様みたいに型にとらわれず自由にやってみたいわ!」
「ん?」
お兄様が服をツンツン引っ張られて、おそるおそる後ろを振り向くと、そこにはキラキラの目をしたオリアンヌお姉様。
大好きなお肉を前にした時と同じくらいキラキラ目が輝いている。
「オ、オリアンヌ……?」
「ね? アンベール!」
「う、うう……」
キラキラのお姉様に迫られて、たじたじになっていくお兄様。
私はその光景をクスクス笑いながら見ていた。
「すごいや────これは、新たな流行が生まれるかもね?」
「え?」
そう言って後ろから私を抱きしめてきたのは愛する夫、リシャール様。
私は後ろを向きながら聞き返す。
「流行り、ですか?」
「そうだよ。自分たちらしい結婚式を───って」
リシャール様が面白そうだと笑う。
「なら、その際の演出のお手伝いを出来る場があると素敵ですわね!」
「え?」
「だって、皆が皆アイディアが浮かぶわけでもありませんし──……」
私がそう言うとリシャール様がじっと私の顔を見た。
「旦那様?」
私の言葉にピタッと一瞬動きを止めたリシャール様がニンマリ笑う。
その顔は何かいいことを思いついたという時の顔。
「うん、これは交渉してみるのもいいかなってね」
「交渉? あ、ところでベルトラン様はどうでした?」
リシャール様は式に参列していたベルトラン様の様子を見に行っていた。
戻って来たということは無事に会えたのかしら?
「ああ、この世の終わりみたいな顔をしていた」
「この世の……人の結婚式でそんな顔をするなんてなかなか失礼ですわね」
「自業自得だよ。どん底状態の自分との差をまじまじと見せつけられたショックは、かなり大きそうだった」
「……お嫁さん、来なさそうですものね」
私がポツリと呟いた言葉にリシャール様は無言で頷いた。
せっかく首の皮一枚繋がった伯爵家だけど跡取りがいなくてはこの先は……
「───さて、フルール。あんな男のことはもう忘れよう! この後は僕らの結婚パーティーだ」
「はい!」
私は笑顔でリシャール様の手を取った。
─────
場所を移動し、結婚パーティーが開始した。
挨拶を終えるなり夫のリシャール様は多くの人に囲まれてしまった。
(さすが、リシャール様!)
夫が人気者なのは妻としても大変嬉しいこと。
私はリシャール様から離れて、お兄様とオリアンヌお姉様と談笑していた。
少しして、肉への欲求が我慢出来なくなったお姉様が美味しいお肉を求めてお兄様を引き摺って料理を取りに行ってしまったので私は一人になってしまう。
(お姉様……お強いわ)
感心して二人を見送っていると、
チラチラチラチラ……チラッ……チラチラ……
こんな感じで何故か遠くからチラチラされている視線を感じる。
(皆、照れ屋さんなのかしら?)
主役だろうと何だろうとぼっちの私がパーティー会場ですべきことは一つ!
私も私であの美味しそうな料理をこの胃袋に収めること!
と、いうことで私は料理が並んだテーブルの方へと歩き出した。
(お茶、ジュース、果実水、コーヒー、紅茶……)
すごいわ!
お兄様から聞いていたけれど、パーティー会場内のどこを見渡してもアルコールが無い!
そのあまりの徹底ぶりに私は感心した。
(花嫁と追いかけっこするわけにはいかない、ということね?)
……いつも記憶がないので、実際どんな規模の追いかけっこが行われているのか私には全く分からないのだけれど。
そんなことを思いながらどんどん料理を皿に盛っていく。
(ん~~! あれも美味しそう! いや、こっちも捨てがたい……いえ、やっぱ、こっち!)
何だか先ほどとは違って、チラチラではなく今度はザワザワする視線を背中に感じながらも、ここぞとばかりに片っ端からパーティー会場の美味しい料理を食べて回った。
飲み物もアルコールが排除されているようなので遠慮なく飲める幸せ。
そこで、ふと思い出す。
(記念すべきアニエス様との初めての会話もこんな時だったわ───……)
その時だった。
「ちょっと! フルール様! ────本日の主役の花嫁がこんな所でそんなにガツガツとはしたない! ……あなたはやっぱりコロコロになりたいんですか?」
その言葉にハッとして私は後ろを振り返る。
懐かしい感じのするその言葉!
思った通り、そこには大親友のアニエス様が呆れた顔で立っていた。
「まあ! アニエス様!」
「……くっ! なぜ満面の笑顔を向けるの…………コホッ……まあ! ではありません、フルール様! その山積みのお皿は何ですか!」
「え? もちろん、私の胃袋に収まった料理の数々のお皿ですわ!」
私が自信満々に答えると、アニエス様は積み上がったお皿の山を見て苦しそうに胸を押さえる。
「む、胸焼けが………………け、結婚パーティーの主役の花嫁が各テーブルの料理を制覇している光景なんて、は、初めて見ましたわ」
「えっと、つまり皆さんは恥ずかしがって遠慮されてしまっている、と。美味しいのに勿体ないですわね?」
「───違うでしょっっ!」
アニエス様が真っ赤な顔で怒鳴る。
「遠慮ではなく! こういう時は胸がいっぱいで、食事は喉を通らないものなのです!」
「まあ! 不思議ですわね? 私は逆に食欲が盛り盛りですわ!」
今ならなんだって食べられる気がするわよ!
「~~っ! ……ふっ、そうよね……わたしの目の前にいるのはフルール様。そもそも世間一般の話が通じるはずがなかったのよ……! ふふ、ふふふ……」
何かを悟ったような遠い目をするアニエス様。
「アニエス様?」
「ふっ……ですが! ウェディングドレスは無事に乗り越えたからと言って油断なさらないことね! このままコロコロになればフルール様に対する世間の目は……」
「やはり、フルールからコロールに改名しろと強く言われる! のかしら?」
私は真剣な顔でアニエス様に訊ねる。
「──は?」
「ですが皆、いつも改名はやめなさいって止めてくるのですけど……」
「そんなの当たり前でしょう!? どうしてそういう発想になるのですか!」
アニエス様は、本当に分からない! 全くその思考回路が分からない! と頭を抱える。
(はっ! それよりお礼……ヴェールのお礼を言わなくちゃ!)
私は勢いづけてガシッとアニエス様の両手を掴んだ。
「───アニエス様!」
「ひぃっ!? な、ななななななに!? あなたのその目は怖いのよぉぉぉーー」
297
あなたにおすすめの小説
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります
秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。
そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。
「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」
聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」と蔑んだ元婚約者へ。今、私は氷帝陛下の隣で大陸一の幸せを掴んでいます。
椎名シナ
恋愛
「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」
ーーかつて私、エリアーナ・フォン・クライネルは、婚約者であったクラウヴェルト王国第一王子アルフォンスにそう蔑まれ、偽りの聖女マリアベルの奸計によって全てを奪われ、追放されましたわ。ええ、ええ、あの時の絶望と屈辱、今でも鮮明に覚えていますとも。
ですが、ご心配なく。そんな私を拾い上げ、その凍てつくような瞳の奥に熱い情熱を秘めた隣国ヴァルエンデ帝国の若き皇帝、カイザー陛下が「お前こそが、我が探し求めた唯一無二の宝だ」と、それはもう、息もできないほどの熱烈な求愛と、とろけるような溺愛で私を包み込んでくださっているのですもの。
今ではヴァルエンデ帝国の皇后として、かつて「無能」と罵られた私の知識と才能は大陸全土を驚かせ、帝国にかつてない繁栄をもたらしていますのよ。あら、風の噂では、私を捨てたクラウヴェルト王国は、偽聖女の力が消え失せ、今や滅亡寸前だとか? 「エリアーナさえいれば」ですって?
これは、どん底に突き落とされた令嬢が、絶対的な権力と愛を手に入れ、かつて自分を見下した愚か者たちに華麗なる鉄槌を下し、大陸一の幸せを掴み取る、痛快極まりない逆転ざまぁ&極甘溺愛ストーリー。
さあ、元婚約者のアルフォンス様? 私の「穀潰し」ぶりが、どれほどのものだったか、その目でとくとご覧にいれますわ。もっとも、今のあなたに、その資格があるのかしら?
――え? ヴァルエンデ帝国からの公式声明? 「エリアーナ皇女殿下のご生誕を祝福し、クラウヴェルト王国には『適切な対応』を求める」ですって……?
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました
ほーみ
恋愛
その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。
「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」
そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。
「……は?」
まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。
〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。
藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。
そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。
私がいなければ、あなたはおしまいです。
国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。
設定はゆるゆるです。
本編8話で完結になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる