王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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163. 私たちの幸せ

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「か、覚悟……?」
「そうだよ」
「……っ!」

 どうしましょう!  私の旦那様……リシャール様がとってもかっこいいわ!

(しかも、この声……いい!  ……耳がとろけそう)

 盛大にはしゃぎながら私の顔が一気に熱を持って真っ赤になっていく。

「あれ、フルールが照れた?  うん、やっぱり照れたフルールも可愛い」
「それはっ!  だ、旦那様が……!」

 私がリシャール様のせいですよ!
 そう抗議しようとしたら、リシャール様がニンマリと笑った。

「フルールは本当にこの声のトーンに弱いんだなー……いいことを知ったよ」
「!」
「あ、こら!  フルール、暴れたら危ないから!!」

 ますます真っ赤になった私が、抱きかかえられた体勢のまま暴れたら、さすがのリシャール様も慌て出す。

「全く……分かってる?  フルールが望んだんだぞ?  冷たい声で罵って、と」
「そ、それはそうですけども!」

(だって思っていた以上に破壊力が凄かったんですもの……!)

「フルール」
「?」

 私は顔を上げてリシャール様を見つめる。
 目が合ったリシャール様は今度は表情まで冷たくして再び私の耳元で囁いた。

「───じゃあ、この続きはベッドでね?」

(む、無理ーーーー)

 私の脳内は一気に爆発した。


❇❇❇❇❇


(あ、フルールがパンクした)

 動揺して真っ赤になったフルールもやっぱり可愛いなとしみじみ思う。

 しかし、思っていた以上に“冷たい僕”はフルールに対して効果があるようだ。
 いつもとんでもないパワーで僕を振り回すフルール。
 そんな振り回される時間もすごく好きだけど。

(でも……たまには僕がフルールを振り回したっていいだろう?)

 そう思った僕はパニック中のフルールを見ながら微笑む。
 さて、このまま放心状態のフルールを部屋へと運んで今夜は……

「───あ、兄上……」
「ん?」

 色々とこの後の妄想しながら歩き出したところで弟が声をかけてきた。
 昨日のフルール追いかけっこ祭りで自分の手に負えない人だと理解して、ようやくフルールのことは吹っ切ったようだったが……

(何の用だろう?)

「兄上!  誤解しないでください!  べ、別に僕はもう……えっと、その、さっきは……」
「……」

 ああ、フルールと二人で話していた所に少し強引に割り込んだから僕が怒っていると勘違いしたのか。

(───本当にしょうがない奴だなぁ)

 僕は小さくため息を吐く。

「分かっているよ」
「兄上!」

 弟の顔がぱあっと明るくなる。

「それに、だ。もし、お前が諦めていようといなかろうと関係ない」 
「か、関係ない!?」

 弟がショックを受けた顔になる。
 しまった……こいつ、早とちりする傾向が昔からあるんだった。
 僕はやれやれと肩を竦めた。

「誤解するな。今のはお前がダメだとか劣っているとかそういう意味じゃない」
「え?  ち、がう?」
  
 僕は頷く。

「周りは関係ない。この先、どんなことがあってもやっぱり僕が一番!  そう思って貰えるように僕自身が努力を続けるからだ」
「兄上……」

 弟でなくても他の男が横恋慕してこようとも僕は絶対に負けないし、フルールを手放すつもりは一切無い。
 他の誰よりもフルールがかっこいいと思ってくれる男に僕がなればいい。

 そんな僕の決意を聞いた弟が苦笑する。

「はは、二人は本当にお似合いですね」
「……」

(……全く)

 僕は抱えているフルールを落とさないように気を付けながら、弟の頭に手を伸ばす。
 そしてわしゃわしゃと頭を撫でた。

「うわっ!?  あ、兄上!?」
「───どこかにいるよ、お前とお似合いの人」

 僕の言葉に弟が目を丸くする。

「僕……にも?」
「ああ。もう僕はお前のしたことを責めるつもりはない。だから、いつまでもオドオドしていないで顔を上げて前を見てみろ」

 その声で弟はおそるおそる顔を上げる。

「それから、もう少し体力をつけろ。昨日のフルールとの追いかけっこでのお前の体力は使用人以下だったぞ?」
「うっ……」

 そこまで言った時、僕の視界にちょうど、ドーファン辺境伯令嬢が目に入った。

「そうだ!  この場にはドーファン辺境伯家の令嬢も来ているぞ?  いっそのことフルールみたいに弟子入りでもして来たらどうだ?」
「え!?」

 僕は辺境伯令嬢の方に視線を向けながら言った。
 さっきから辺境伯令嬢は体力の無さそうなヒョロっとした男たちを狙ってその輪に突撃している。
 理由は分からないが、あれはきっと“弟子”が欲しいのではないだろうか?

「弟子入り……」

 少し興味を持ったのか弟の目が少し輝いた気がした。

「それじゃ僕はもう行く。愛する妻……フルールとの時間は邪魔するなよ」
「あ……」

 何か言いたそうな弟を置いて僕はフルールを抱きかかえて会場を後にした。

(それにしてもフルール……静かだなぁ)

 僕の可愛い妻は妄想の世界に旅立っていそう。そんな気がした。



❇❇❇❇❇



「……フルール、愛してるよ」
「はっ!」

 再び耳元に聞こえたリシャール様の声でハッと意識を取り戻した。

「だ、旦那様!?」
「あ、目が覚めたかな?」

(えっと……?)

 リシャール様の冷たい顔と声にゾクゾクさせられて耳元が蕩けそうになった辺りくらいまでしか記憶がないわ!

(い、いつの間にパーティー会場から移動したの?)

 いまいち事態が飲み込めていない私の目の前には国宝リシャール様の美しいドアップ。
 そんなリシャール様は私の上に覆い被さって美しい瞳で私のことを見下ろしている。
 その肩越しには天井が見える。

(下……背中はふっかふっか)

 つまり!
 私は押し倒されている!!!!

 ようやく現状を理解した。



「フルール、ずっと静かだったけど、もしかして妄想の世界にいっていた?」
「……想像の世界ですわ」

 私がそう返すとリシャール様はクスリと笑った。
 誰のせいだと思っているの!
 あれもこれも全部リシャール様が、かっこよすぎるからなのに!

「フルール……」

 リシャール様は優しく私の名前を呼びながら頬に手を添える。
 そして顔を近付けてチュッと軽くキスをした。

「…………どんな世界だった?」
「……」
「フルール?」

 私は腕を伸ばしてリシャール様の首に回すとギュッと抱きしめる。

「私とリシャール様……旦那様がずーーっと仲良く過ごしている世界でしたわ」
「そっか。確か───子供は三人だっけ?」
「孫がいましたわ!」

 私が笑顔でそう言うとリシャール様はとても嬉しそうに笑った。

「それは賑やかで楽しそうだ」
「ええ、とっても……」
「……フルールは可愛いお婆さんかな?」
「旦那様はかっこいいお爺さんでしたわ」
「……」
「……」

 私たちは目を合わせてふふふと笑い合う。
 そして、また互いに顔を近付けると唇を重ねて甘い甘いキスをした。



 そんな甘いキスの時間を終えるとリシャール様はまた私の耳元で囁く。

「よし!  ───フルールの見たという俺たちの幸せそうな世界を現実にすべく、まずは孫の前に…………」
「え!」

 ボンッ!  
 と私の顔は再び真っ赤になった。

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