王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

文字の大きさ
173 / 356

173. 大会当日

しおりを挟む


 当日はとってもいい天気だった。
 朝、目が覚めてベッドから出て窓の外を見上げた私はメラメラと気合を入れる。

「ふっふっふ、やるわよーー!」
「フルール。いや……今はメラール、かな?」
「旦那様?」

 リシャール様がフワッと優しく後ろから抱きしめてくる。

「──フルールのことだから、あんまり心配はしていないけど」
「まあ!  ありがとうございます」

 その言葉が嬉しくて微笑む。
 お兄様なんてずっと、心配だ……心配だ……何をやらかすつもりなんだ……って呟いていたというのに。
 これが夫婦の間の信頼関係というやつね!?

「どんな大会になるのかなぁ……」
「参加ではなく観戦希望の方もいらっしゃいますから、皆に楽しんで貰えるといいのですけど」
「僕も頑張るよ」
「ええ!」

 この腕相撲力比べ大会の開催のお知らせを流したところ、思っていた以上に反響があった。
 そして令嬢や夫人が参加だけでなく、大会の様子を見たい、参加する婚約者や夫を応援したいというので観戦するだけの人も招いている。
 思っていたよりも多かった参加希望者は圧倒的に男性が多く、男女の力の差も考えて試合は男女別の勝ち抜き戦とすることにした。

「闘いの組み合わせはクジで決まるとはいえ……三強と当たった女性は気の毒としか言えないよ」
「さんきょう?」

 私が聞き返すと、リシャール様はなぜか苦笑する。

「よく分からないですけど、最強の夫婦を目指して頑張りましょうね!」
「ははは!」

 リシャール様は楽しそうに笑いながらギュッと強く抱きしめてくれた。


──────


 開始、時刻が近付くと、続々と人が集まり始めた。
 公爵家の使用人たちと、有難いことに手伝いを申し出てくれたシャンボン伯爵家の使用人たちとで皆様をお出迎えする。

「────モンタニエ公爵夫人、ごきげんよう」
「お招きありがとうございます」
「さすが、モンタニエ公爵家のお屋敷……とても広いですわね」

 そんな中で数名の高位貴族の夫人たちに私は囲まれた。
 この方たちはもちろん参戦……などするはずもなく高みの見物だ。

「こちらこそ、本日はようこそいらっしゃいました」

 私が挨拶するとその中の一人の夫人がクスッと笑った。

「公爵夫人は、なかなか破天荒な方だと耳にしておりましたけど、その通りのようですわね?」

 その言葉に同調するように他の夫人方も口を開く。

「てっきり、お茶会やパーティーを開くものと思っておりましたのに」
「まさか、腕相撲?  などという野蛮……いえ、なんとも荒々しい空気を感じる変わった催しを開催すると聞いて大変驚きましたわ」
「さすが、伯爵家ご出身な夫人なだけありますわねぇ?」
「本当に……わたくしではとても考えつけません」

 なるほど、なるほど。
 私は夫人方の話に耳を傾けながら内心で大きく頷く。

(こんなに褒められると照れてしまうわ……)

 つまり、型通りのつまらないお茶会やパーティーばかりで飽きていたから、今回の変わった催しに驚いてわざわざ皆様でお礼を言いに来てくださったのね?

(さすが!  なんて礼儀正しくて律儀なのかしら?)

 これは、ぜひ私も見習わないと!

「ありがとうございます!」

 私が満面の笑みでお礼を告げると、夫人たちはなぜか顔を見合わせる。
 どうしてそんな顔……?
 あっ!  きっと観戦中のお茶菓子の心配をしているのね?  と、私は気付いた。

「ご安心ください!  観戦者の皆様のために、あちらにお茶とお菓子もたくさんご用意しておりますわ。ぜひ、ゆっくり楽しみながら観戦して下さいませ!」
「え……」
「は?  多っ!」
「山!」

 夫人たちはますます困惑気味に顔を見合わせる。
 遠慮されているのね?  そんなことは気にしないでも構わないのに。
 だって今日のお菓子は───

「ちょっと待って……え?  このお菓子ってド・ヴィルパンお手製のお菓子……!?」
「どうしてここに!?」
「え?   ド・ヴィルパンって、とんでもない堅物で王族にしか卸さないから王家主催のお茶会でしか食べられないはずではないの?」
「嘘っ!  モンタニエ公爵家って王族との縁続きではなかったはず」

 さすが、高位貴族のご夫人方!
 一目でド・ヴィルパンのお菓子だと気付くなんてさすがだわ。

「この大会の話を耳にした王家からの差し入れですの」

 私がそう説明すると夫人方の目の色が変わった。

「王家からの差し入れですって!?」
「な、なんで……」

 皆様が驚かれる中、その中の一人の夫人がハッと何かに気付く。

「いえ、落ち着きましょう皆様──と言っても、おそらくこれは退位する陛下からの差し入れでしょう?  それなら、ほら」
「ああ、そうね、夫人とは色々ありましたものね、そう色々……」

 ホホホ……と高らかに笑い合う夫人たち。
 大変!
 何だか勘違いされている様子なので私は慌てて否定した。

「いいえ、もうすぐ退位する陛下からではなく……あちらは今度即位する王弟殿下からですわ」
「ホホ…………えっ!?」
「おうっ!?」

 夫人たちがギョッとした目で私を見る。

「王弟殿下は武道を嗜んでいたそうなので、腕相撲のこともご存知で以前から興味があったそうですわ」
「……え?」
「興……味?」

 夫人たちがポカンとしている。
 私はにこっと笑い返した。 

「本日は都合が合わず不参加ですけれど、第二回があれば、ぜひ参加したいものだ、なんてお茶目な伝言まで付けられてい───あら?」

 私が最後まで言い切る前に夫人たちは、自分たちの夫の元に全速力で走り出した。
 そして、ものすごい勢いで夫に詰め寄り、死ぬ気で頑張るようにと激励し始めた。

(ふふ、これは愛する妻からの激励で夫の皆様もやる気アップですわね!)

 ますます白熱が予想される大会を想像して、にこにこ見守っていたら後ろからまた声をかけられた。

「……フルール様」
「アニエス様! ようこそ!」

 大親友の登場に振り返った私は笑顔で出迎える。
 すると、今日もアニエス様は絶好調。
 いつもの調子で始まった。

「フルール様、何をそんな呑気な顔をしているのですか!」
「え?」
「あなたと夫人方とのやり取り、失礼ながら聞いてしまいました!」
「まあ!  そうでしたか。あ、ほら見てください、あちらの男性たちは夫人からの元気いっぱいの応援を受けていますわ!」

 満面の笑顔で答えるとアニエス様がカッと目を見開いた。

「お待ちなさい!  どう見ても目の色変えた夫人たちの勢いに首締められそうになっていて、今すぐ死にかけているでしょう!?」
「え?  そうなのですか?」

 私が首を傾げるとアニエス様が更に目をつり上げる。

「───もう、あなたって人はどうして!  ……いつも、そう……のほほん」
「のほほん?」
「うぅ……」
「アニエス様?」

 アニエス様が何を嘆いているのかはよく分からなかったけど、今日も元気いっぱいなことは分かった。

 その後も続々と参加者や観戦者が集まっていく。
 オリアンヌお姉様は今日も小躍りしながら現れ、お兄様がその後を必死に追いかけている。
 ニコレット様も上機嫌で騎士たちを引き連れてやって来た。



 開催に先立ち、リシャール様が代表で挨拶を始めると、その国宝級の美しさに思わずあちらこちらから感嘆のため息が漏れる。
 ジメ男もそんな兄の姿にうっとりしていた。
 男女問わずメロメロにするその姿……やっぱり私の旦那様は素敵!

(そんな旦那様の名前に恥じない素晴らしい大会にしてみせるわ!)


 こうして、ついに戦いの火蓋は切られた。

しおりを挟む
感想 1,477

あなたにおすすめの小説

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」と蔑んだ元婚約者へ。今、私は氷帝陛下の隣で大陸一の幸せを掴んでいます。

椎名シナ
恋愛
「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」 ーーかつて私、エリアーナ・フォン・クライネルは、婚約者であったクラウヴェルト王国第一王子アルフォンスにそう蔑まれ、偽りの聖女マリアベルの奸計によって全てを奪われ、追放されましたわ。ええ、ええ、あの時の絶望と屈辱、今でも鮮明に覚えていますとも。 ですが、ご心配なく。そんな私を拾い上げ、その凍てつくような瞳の奥に熱い情熱を秘めた隣国ヴァルエンデ帝国の若き皇帝、カイザー陛下が「お前こそが、我が探し求めた唯一無二の宝だ」と、それはもう、息もできないほどの熱烈な求愛と、とろけるような溺愛で私を包み込んでくださっているのですもの。 今ではヴァルエンデ帝国の皇后として、かつて「無能」と罵られた私の知識と才能は大陸全土を驚かせ、帝国にかつてない繁栄をもたらしていますのよ。あら、風の噂では、私を捨てたクラウヴェルト王国は、偽聖女の力が消え失せ、今や滅亡寸前だとか? 「エリアーナさえいれば」ですって? これは、どん底に突き落とされた令嬢が、絶対的な権力と愛を手に入れ、かつて自分を見下した愚か者たちに華麗なる鉄槌を下し、大陸一の幸せを掴み取る、痛快極まりない逆転ざまぁ&極甘溺愛ストーリー。 さあ、元婚約者のアルフォンス様? 私の「穀潰し」ぶりが、どれほどのものだったか、その目でとくとご覧にいれますわ。もっとも、今のあなたに、その資格があるのかしら? ――え? ヴァルエンデ帝国からの公式声明? 「エリアーナ皇女殿下のご生誕を祝福し、クラウヴェルト王国には『適切な対応』を求める」ですって……?

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました

ほーみ
恋愛
 その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。 「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」  そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。 「……は?」  まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

処理中です...