王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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174. 順調です!

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 初めての試み、腕相撲力比べ大会は……

「ウォォォーー」
「いけーー」
「負けるなー」

 男たちの熱く野太い声が響いたり、

「キャッ!」
「痛ーい」

 令嬢たちの可愛らしい声が響いたりと中々の盛り上がりを見せた。
 そして、私も私で順調に勝ち進んでいく。

(男性たちの方はかなり熱が入っているわ)

 女性側はどちらかというと、どんなものか興味本位で参加してみた、という感じの方が多いけれど、男性側は白熱していると言っても過言ではない。

(うーん、でも、せっかくなら……)

 なんて考えていた時だった。

「フルール様!」
「まあ、ニコレット様!」

 ご機嫌な様子のニコレット様が飲み物片手に私の元へとやって来る。

「ニコレット様、さすがお強いですわね」
「ふふ、ドーファンの名にかけて負けてはいられませんからね」

 当然、順調に勝ち進んでいるニコレット様。
 ここまでどの令嬢も秒殺で仕留めている。
 そんなニコレット様は笑顔で私に頭を下げた。

「───フルール様、ありがとうございます」
「え?」

 そして、突然のお礼。
 不思議に思っているとニコレット様はニッと嬉しそうに笑って会場のとある一角を指さした。
 そこでは、すでに敗者となった令嬢や夫人と男性たちが試合の様子を見ながら談笑している。

「?」
「あそこで談笑しているのは、早々に勝負に散った我が家の騎士たちなんです」
「え!  早々に?  それは辺境伯様、お怒りになるのでは……」
「まだ、数名戦っているからそれは大丈夫。それより───」
「それより?」

 私が聞き返すとニコレット様はまた、嬉しそうに笑った。

「どうやら、この大会が彼らにとっていい出会いの場になっているみたいで!」
「……え?」

 そう言われてもう一度、彼らの方を見る。

「確かに、仲良く令嬢たちと談笑されていますけど……?」
「私が領地にこもってばかりだったから、彼らは辺境伯領からあまり出てくる機会がなくて、これまで令嬢たちと知り合うきっかけが少なかったんです」
「……」

 ニコレット様は寂しそうに語る。

「しかも、彼らは日々、身体を鍛える訓練ばかりで、出会いの場としてパーティーを開いても慣れない場に緊張してしまって令嬢たちと話すどころではなく……」
「まあ!」
「───それが見てください!  今、彼らがあんなにも楽しそうに令嬢たちと会話しているんですよ!」

 寂しそうだったニコレット様の顔がパッと明るくなった。

「パーティーみたいに畏まった場ではなく、戦いの場ということが、かえって良かったのかもしれません!」
「あ、なるほど。目の前で白熱している試合について語れるから話題にも困らない?」
「そう、そういうことなんですよ、フルール様!」

 男女の出会いの場にもなる───大会を開催したいと考えた時、そんな考えは全く浮かばなかったわ。
 でもまさかそんな効果が生まれるなんて!
 そういえば……

(開催前も夫婦がいい感じに盛り上がっていたわね)

 まあ、逆に情けない姿を見せてしまって幻滅──なんて可能性も否定出来ないけれど。
 そういうことなら第二回も検討しても大丈夫かもしれない。

 そう思いながら試合に目を向ける。
 女性側は、ちょうどオリアンヌお姉様が開始数秒で対戦相手を沈ませていた。
 まさに瞬殺!
 そして、男性側は───

(ジメ男だわ!)

 なんだかんだで、ここまで健闘しているらしいジメ男が勝負の場に立っていた。
 そして、ニコレット様もジメ男に気付いたようではしゃいだ声を上げる。

「──あ、フルール様!  次の戦い、男性側はモンタニエ弟のようです!」
「ええ」

(ジメ男!  ニコレット様が見ているわよ!!)

 今こそ、かっこいいところを見せてニコレット様のハートを鷲掴みする絶好のチャンス!
 私は心の中でエールを贈る。
 ニコレット様にはあっさり負けていたけれど、ちゃんとそれなりに強くなっているらしいジメ男。
 今日はジメジメした様子もない。

「私との時はあんなに顔を真っ赤にさせていたのに…………今は真剣な顔!  ふふ」
「……」

 ジメ男を見ながらそう呟いたニコレット様の顔は何だか嬉しそう。
 そんなジメ男は苦戦しながらも何とか勝利をもぎ取っていた。



「───フルール」
「旦那様!」

 ニコレット様が勝利したジメ男の元に向かったので、その様子を微笑ましく見守っていたら愛しのリシャール様がやって来た。
 モテモテの旦那様は自分の試合もこなしながら人に囲まれていた。

「フルール、順調そうだね?」
「当然ですわ!!」

 少なくともオリアンヌお姉様やニコレット様と当たるまでは負けてなどいられません!
 私がえっへんと胸を張るとリシャール様は笑った。

「ははは、フルールらしい」

 その国宝級の笑顔にキュンとする。

「フルールたちが凄いのは分かっていたけど意外なのはパンスロン伯爵令嬢だね?」
「はっ!  ───そうなのですわ!」

 そう。アニエス様も順調に勝ち進んでいる。

「先程、アニエス様にすごいですわ、って言いに行ったら、“当然でしょう?  わたしを誰だと思っているの?”と言われて追い返されてしまいましたの。格好良かったですわ」

 私がうっとりしながらそう話すとリシャール様は苦笑した。

「いや、追い返されてるし……」
「次の勝負に集中したいそうですわ!!  さすがです!」

 大親友、アニエス様の強さに私は興奮していた。
 これなら、二人でカップ粉砕も目指せるかもしれない。

「弟も順調に勝ち進んでいるみたいだしね……でも意外だったな、もっとあいつは早くに敗退すると思っていたよ」
「……」

 ジメ男が聞いたら大泣きしそうなことをしれっと口にするリシャール様。

「それだけ本気なのですわ!」
「そっか」

 そんなジメ男はニコレット様に声をかけられて驚いていた。
 そしてニコレット様がジメ男の手を取って何かを話すと顔を赤くしてしどろもどろになっていく。
 なるほど、あれが恋する乙女──ではなく、恋する乙男というやつね?

(勉強になるわ!)

 私は満足そうに頷く。
 その横で辺りを見回したリシャール様がポツリと呟く。

「そういえば、アンベール殿も何だかんだで残っているね」
「はい!  どうもオリアンヌお姉様に少しでもかっこいいところを見せたかったようですわ」
「なるほど、愛しい女性が強いと自分も負けていられない、と」

 そこで言葉を切ったリシャール様がじっと私を見つめる。

「?」
「ははは、すごくよく分かる気持ちだ」

 そう言って頭を撫でられた。
 そこで私はさっき思い浮かんだ件を話してみることにした。

「それで、旦那様!  私、先程ふと思ったのですけど」
「う、うん?  ふと?」

 グイグイ迫る私に焦り出すリシャール様。

「近いっ!  ……そ、それからその顔!」
「顔?  顔は関係ありませんわよ?  それで、せっかくですので、最後の方は男女区別なしで行きたいと思いますわ」
「え?」
  
 目をパチパチさせるリシャール様に向かって私はニンマリと笑った。
  
「人数の多さと男女の力の差を考えて別々にしましたが、勝ち進んだ女性たちならいい勝負になると思いますの!」

 リシャール様は苦笑する。

「それ、情けない男が出来上がるだけじゃ……」
「そんなことありませんわ!  もちろん、手加減無用!  きっと盛り上がります!」
「いや、フルール……忘れてないか?  僕は君と一晩勝負して………」
「では現在、勝ち上がっている皆様にも意見を聞いてきますね!」
「あ、フルー……」

 そう言って私がリシャール様がの元から駆け出して話を聞いて回った結果……
 特に、ニコレット様とオリアンヌお姉様の目がメラメラになったので即採用が決定した。

 そのまま戦いの続きも白熱し───

「───と、いうわけでこちらが勝ち残った男女五名ずつですわ!」

 最後に戦うメンバーも無事に決定した。

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