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202. 公爵夫人ですわ
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私は魔性の女、エリーズ嬢がポカンとしている間に部屋へと入り込んだ。
(……強引過ぎたかしら?)
でも、仕方ないわよね。
こんな隙をつかないと絶対に部屋の中になんて入れてくれないもの。
そうして私が部屋の中に入ると、部屋の中にはメイドの格好をした女性が一人。
こちらも口をパクパクさせながらポカンとした顔で私を見ている。
(知らない人……でもきっと、お仲間よね)
私はそのメイドにもにっこり笑顔を向けておいた。
「ど……して?」
すると、私を見てポカンとしていたエリーズ嬢が戸惑った声をあげる。
もう! ちゃんと説明したのに!
仕方がないので私はもう一度説明しようと口を開く。
「ですから、エリーズ様に大事なお話が───」
「そ、そうではなくて!!」
「エリーズ様?」
私の言葉を遮ったエリーズ嬢の顔色がどんどん悪くなっていく。
「な、な、なんで……あ、あなたがここ……この国にいる、の……」
「なんでって……」
あらら?
もしかして、エリーズ嬢は私が殿下とイヴェット様の結婚式のためにこの国に来ていたことをご存知ない……?
(これは説明が必要ですわね!)
私は満面の笑みを浮かべて大きく胸を張って説明する。
「もちろん! 結婚式の参列のためですわ!」
「───は? 結婚……式……!?」
エリーズ嬢ったら、説明したのに全然分かってくれない。
(これは、“結婚式”という行事そのものの説明から必要ってことですわね!)
仕方ないわ。
そう思った私は結婚式というものを説明するために口を開く。
「えっとですね、結婚式というのは、結婚した二人が大勢の前で愛を誓い合う大事な儀───」
「なっ! ───ちょっと! さっきからあたしをバカにしてるの!? そうじゃない、わよ!」
「え?」
「まさか、あたしが結婚式も知らないおバカだと言いたいわけ!?」
するとエリーズ嬢が怒り出した。
これが魔性の女の本性なのかしら、口調がだいぶ乱れているわ。
「あたしは! なんで貴女が結婚式に参列するの、って言っているのよ!」
「え?」
「王太子殿下の結婚式に参列するのは、バルバストル国からやって来た公爵とその夫人でしょーー!?」
じろっと睨まれながらそう言われた。
───ええ!
これは最強の公爵夫人(予定)フルールの外交デビューの場ですわ!
なので私もえっへんと大きく胸を張る。
だって、私とリシャール様は、バル……バルバル…………バ……我が国の顔ですもの!!
「───その通りですわ!」
「うっ!?」
ついつい気持ちが昂ってしまったからか声が少し大きくなってしまい、エリーズ嬢がビクッと肩を震わせる。
「私、あれから結婚しまして……」
「へ?」
「フルール・シャンボン改め……モンタニエ公爵夫人……フルール・モンタニエとなりましたの!」
ばばーんと更に大きく胸を張る。
エリーズ嬢は丸い目をさらにまん丸にした。
「…………へ?」
「公爵夫人ですわ」
私はにっこり笑う。
「う……」
「公爵夫人ですわ」
二度目の宣言。すると、エリーズ嬢の顔はみるみるうちに引き攣っていく。
そして、震える手でおそるおそる私を指さした。
「けっ……」
「公爵夫人ですわ」
「こ……」
「公爵夫人ですわ」
「……っ」
驚きすぎたのかエリーズ嬢が頭を抱える。
「ふ、ふふふふ……」
混乱してしまっているのか、エリーズ嬢はひたすら笑っている。
私も同じように笑い返しておく。
「ふふふ」
「…………チッ! そ、そんなことより! 何でここに……」
エリーズ嬢の目線が私の背後へと移る。
ああ、そうでしたわね。
これは確かに驚くはずですわ。
(私の愛する夫、リシャール様は国宝ですもの!)
「ええ、とっても素敵でしょう? こちらが私の旦那様の────」
「うっるさい! それも気になっているけどそっちじゃない!」
「?」
うーん……さっきからエリーズ嬢は元気いっぱいですわ。
目をうるうるさせて皆さまを誑かしていた彼女は何処へ?
「な、なんでここに王太子殿下と…………王太子妃……が……いる……の」
「ああ! それは当然ですわ。だってイヴェット様と私のお茶の中に異物が混入される事件があったんですもの」
「!」
私が…………ご存知でしょう?
にっこり笑ってそう言うとエリーズ嬢が分かりやすく反応を示した。
「ですから、愛する妻……王太子妃イヴェット様に危害を加えようと企んだ方を一族諸共消し去るために、殿下が犯人捜索に加わるのは決しておかしなことではありません」
「ひっ!? け、けけけけけけ……」
「嫌ですわ。感動で笑っている場合ではありませんのよ、エリーズ様?」
あらあら……華麗な推理力を働かせてここまでやって来た名探偵フルールに感動している場合ではなくってよ!
だって貴女、この先一族諸共消されちゃうんだから!
「は? 感動!? あ、あたしは笑ったわけじゃ……」
「分かっていますわ。あの強力な即効性下剤入りのお茶をヒィさんに“お願い”して淹れさせたのはエリーズ様ですものね!」
「……!」
私が自信満々に言い切るとエリーズ嬢がハッと息を呑む。
「エリーズ様、ご存知です? あの下剤は無臭ですけど飲むと少し苦味がありますのよ」
「へ?」
「ですから、お茶の味が変わってしまうのですぐにバレバレなのです。まあ、一口飲んだだけでも絶大な効果を発揮する下剤なんですけども……」
「……」
何故かここでエリーズ嬢が驚愕の表情で私を見る。
「エリーズ様、どうかしました? そして、これは決して許されない重大な罪で──」
「え、いや、待って……え? ホワ……あ、あなたは……の、飲んだの……?」
「え? ええ、飲みましたわ。一杯だけでしたけど」
エリーズ嬢の目が限界まで大きく開く。
部屋の中にいたもう一人のメイドも同じような顔で私を見てくる。
「の、飲んだ……」
ポカン顔のエリーズ嬢が小さな声で呟く。
「まさか、懐かしの下剤が入っているなどとは夢にも思わず、グビッと一気にいかせていただきましたわ」
「一気! ……嘘っ、だってピンピンして……え? え?」
「ええ! おかげさまで私のお腹は絶好調ですわ!!」
私は満面の笑みを浮かべてポンッと自分のお腹を叩く。
「…………っっ!? ……っ? だって、あれ、は“どんな人にも必ず効く”って……」
「あら? そうだったんですの? それは大変ですわ」
このままだと、そのうたい文句は詐欺になってしまう。
これは急いで連絡しないといけないわ。
「なんで……なにこれ………………」
「エリーズ様? また、寝てしまいましたの?」
私はまたもや寝てしまったエリーズ嬢の前で手を振る。
「起ーきーてー? ですわ」
話している最中に寝てしまうなんて、とっても器用ですけど今は許しません!
「ダメですわ。しっかり起きてくださいませね? まだ話は終わっていませんから」
「……ひっ!?」
エリーズ嬢から返事が戻って来た。
(あ、目を覚ましてくれたようですわね)
私はホッと胸を撫で下ろすと、部屋の中にいたもう一人のメイドに声をかける。
「それから───そこのメイドのあなた……」
「ヒ、ヒィィッ!?」
「ふふ、元気いっぱいのお返事ありがとうございます」
私はニコッと微笑む。
その瞬間、私の背後からイヴェット様の声が聞こえた。
「あ、あなた……! 行方不明だった……わたくしの……」
「ヒッ!?」
そのメイドはイヴェット様を見て顔を青くした。
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