王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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217. 国宝は昔から国宝です

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 ん?  どうしたのかしら?
 メリザンド様からすごい視線を感じる。
 とっても熱く見つめられているわ。

「……」

(はっ!  実はメリザンド様もこれを食べたいのね!?)

 でも、きっと私に遠慮しているのだわ!
 そんな必要ないのに。
 食べたいものは食べたい時にお腹に入れなくては駄目よ。
 後悔してからでは遅いのよ!

「メリザンド様もいかがですか?  これ、辛味がとっても美味しいですものね」
「───わ、私は大丈夫。あ、ありがとう」

 私がそう訊ねるとメリザンド様はハッとした顔で笑顔のまま首を横に振る。
 そして苦いお茶をグビッとまた飲み干していた。

(食べたそうにしていたのは勘違いだったのかしら?)

「フルール?  そんなに辛いの…………って、ああ、確かに辛そうな色をしている」

 リシャール様が私が手に持っているお菓子をのぞき込む。

「このピリピリが最高ですわ!」
「そんなに辛そうなのに満面の笑顔……相変わらずだ。まあ、フルールは辛味に慣れているし」

 優しく微笑みながらそう口にしたリシャール様の言葉をメリザンド様が拾う。

「───慣れている?」
「ああ、フルールには兄がいるのですが……この兄妹。どうも子どもの頃からゲームと称して色々面白いことをしているんですよ」
「……面白いこと?」

 リシャール様が私の代わりに説明してくれる。
 わたしも二個目のお菓子を平らげたあと補足する。

「激辛味大当り対決というのも、よくやっていましたの」
「げ、げきからあじ……たいけつ……」

 メリザンド様が目を丸くしている。
 そうですわよね。
 公爵令嬢はこういった遊びはしませんわよね……
 私がそう考えていると、横からリシャール様が私の肩を突っついた。

「……フルール。爵位は関係ないよ?  貴族だろうと平民だろうとそんな過激な遊びはしないんじゃないかな?」
「え!」
「少なくとも、日常的にはやらないと思う。フルールたちが特別」
「とく……」

 特別という言葉が嬉しくて口もとが緩む。

「───コホッ……そ、そのゲームで夫人は辛味に強くなったということ?」

 私がニマニマしているとメリザンド様が訊ねてきた。
 うーんと首を捻る。

「あまり深く考えたことなかったですけれど、そうなのかもしれません」
「……」
「不思議と高確率で兄より私の方が激辛を当てていましたから!」

 私はえっへんと胸を張る。

「不思議だ。聞けば聞くほど正解を引き当てた方が罰ゲームとしか思えないんだよなぁ……でも……」
「私の完全大勝利ですわ!!」

 リシャール様はククッと笑うと優しい手付きで私の頭を撫でた。
 メリザンド様はそんな私たちをなにか言いたそうな表情で見ている。

「メリザンド様?」
「……っ! い、いえ……なんでもありませんわ」
「……」

(気のせいかしら?  急に元気がなくなってしまったような……) 

 そこで私はハッとする。
 激辛味大当り対決……楽しそう!  私もやってみたい……そう思ったのね!?
 名探偵フルールの野生の勘が閃いた。

「メリザンド様!  実は以前、私が懇意にしている人たちで第一回激辛味大当り対決を開催しましたの!」
「……は、い?」

(白熱したわ!)

 激辛を引き当てる度に部屋の中に響く大親友の歓喜の悲鳴。
 あの日のアニエス様の勘は冴え渡っていましたわ。

「第二回を開催する時はメリザンド様もぜひ、参加してください!」
「……え」

 ニコレット様は今いないので、またメンバーを変えて開催するのもきっと楽しいですわ!
 私はそんな想像をしながらニンマリ笑った。

「ふ、夫人。あの……」

 メリザンド様が私に向かって何かを言いかけたその時、部屋の扉がノックされる。
 誰かと思えば、そこに現れたのは王弟殿下だった。

「お父様?」
「仲良くやれているか?  メリザンド、昨夜ニヤニヤと嬉しそうにしながら、モンタニエ公爵夫妻へのもてなしのお茶や茶菓子を選んでいたからなぁ」
「……!」
「これなら絶対(喜んでもらえるはず)!  と、意気込んでいただろう?」
「……!!」

 まあ!  メリザンド様……そんなにも念入りに選んでくださっていたの!?
 やはり、おもてなしの心は大事ですものね。
 オリアンヌお姉様もそうだけれど、やはり生粋の高位貴族の令嬢からは学ぶべきことが多いわ。

「お、お父様……違っ……そう、じゃ……」
「メリザンド?」

 メリザンド様は王弟殿下に首を横に振りながら何かを訴える。

「ふ、夫人……ちょっと変わっていて……は、反応が……」
「変わっている?」

 王弟殿下が娘の訴えに不思議そうに首を傾げる。
 そして少し黙り込むと、ハッハッハと笑い飛ばした。

「───それはそうだろう。夫人はあのブランシュの娘だぞ?  普通のはずがない」
「え!  えっと……お父、様?」
「────“私、最強の舞姫を目指していますので”が、口癖だった人だぞ?」

(まあ!)

 私は初めて聞くお母様の話にびっくりした。
 すると、横でリシャール様がまたしてもククッと笑っている。

「……なるほど、フルールの“最強への道”へのこだわりは義母上譲りだったんだ?」
「そのようですわ」

 私たちがふふっと微笑み合っていると、メリザンド様が少し声を荒げた。

「お、お父様は何の用でいらしたの?」
「ああ、メリザンドの様子を見に来たのと───夫人、少し話が……いいだろうか?」

(……私?)

 王弟殿下は何故か私を指名したので立ち上がった。




「夫人。君は先日、隣国での件を報告してくれたが」
「は、はい」

 王弟殿下と別室に移動して話を聞いてみると隣国の話だった。
 頭の中を過ぎるのは、請求書という言葉とたった今話題に出たばかりのお母様の顔。

「───ヴァンサンの浮気相手を担ぎ上げていた集団を壊滅させたと報告を聞いたが」
「はい」
「別の者からの報告で、向こうの王宮の一室が大惨事になったらしいと聞いたのだが?  なんのことか分かるだろうか?」
「……」

 ───それは“歓喜の舞”を踊った結果ですわーーーー!!

「集団の闇を暴く際に……少々」
「……」

 王弟殿下が何か言いたそうな目で私を見る。
 私はにこっと笑顔を返した。

(お母様、報告、ダメ絶対!)

「────色々と気にはなる点はあるが、隣国からは感謝状が送られて来たくらいだから……大丈夫、なのだろう…………多分」

 王弟殿下は私に……と言うよりも自分に言い聞かせているみたいだった。


「───そういえば、お聞きしたかったのですが」
「なんだ?」

 リシャール様とメリザンド様の元に戻りながら私は王弟殿下に訊ねる。

「以前、メリザンド様から聞いていたという夫の話とはどんな話だったのですか?」
「────それはもうあれだ」
「あれ?  ですか」

 私が首を傾げると、王弟殿下は複雑そうに笑う。

「モンタニエ公爵は昔からあの美貌だったからな。美しいだの綺麗だのかっこいいだの……」
「まあ!」

(───やっぱり、国宝は昔から国宝!)

「ヴァンサンではなく公爵の方が断然王子様っぽいなどと言ってヒヤヒヤさせられたものだ……」
「そうだったのですね!」

(その気持ち……とーーーーっても、分かりますわ!)

 つまり、メリザンド様は国宝リシャール様のファンだった……
 そういうことですわね。
 さすが私の愛する旦那様。多くの人を魅了してメロメロにさせていますわ───……
 なんてことを考えながら、部屋に戻り扉を開けると……

「……あっ!」

 メリザンド様が小さな悲鳴を上げた。
 何事?  そう思って私は顔を上げる。

「え?  あら?」

 私は目の前の光景に驚いて目を瞬かせる。
 なぜなら、部屋の中では私の最愛の夫、リシャール様とメリザンド様がなぜか抱き合っていた。

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