王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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218. 浮気? 不貞? 名探偵フルールの名推理

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(えっと……これは?)

「メ……メリザンド!  何をしている!?」
「えっ……あ、お父様!   ち、違うの!」

 私が声を上げるよりも早く、横に並んで一緒に部屋に入った王弟殿下が驚きの声を上げた。

「違うだと?  何を言っている!  公爵は既婚者だぞ!?  何で抱き合って……」
「えっと、わ、私たちは……そんな不適切な関係じゃなくて……その、もっと純粋な……」

 メリザンド様が慌てて父親の王弟殿下に説明しようとした。
 そして、リシャール様も私を見て何かを言おうと口を開きかけた。
 なので、待ったをかけて私の方が先に口を開く。

「───旦那様!  大丈夫ですわ!」
「え、夫人?」
「……えっ?」

 えっ、と驚きの声を上げたのは王弟殿下とメリザンド様。
 私は二人に向かってにっこり笑いかける。

「王弟殿下、落ち着いてくださいませ」
「……だ、だが……メリザンドと公爵が……め、目を離した隙に、あ、明らかな不貞の行動を……」
「いいえ!  あれは不貞ではありませんわ!」

 私は王弟殿下の顔を見てキッパリと言い切る。
 そして次にリシャール様とメリザンド様に視線を向ける。
 私と目が合ったメリザンド様の目は、大きく見開かれ驚愕していた。

(───大丈夫ですわ、メリザンド様!  ご安心を)

 せっかく帰国したばかりの貴女にとっては、この私がすぐに晴らして差し上げますわ!
 ───名探偵フルールの名にかけて!
 そんな気持ちで彼女に向かって私は微笑んだ。

「……ひぃっ!?」

 私と目が合ったメリザンド様が嬉しそうな悲鳴を上げる。
 ──応援ありがとうございます。名探偵フルール頑張りますわ!

 私は気を取り直すと、王弟殿下に向かって言った。

「殿下、テーブルの上をよく見て下さいませ」
「ん……?」
「テーブルクロスが大きくずれています。それにお茶のポットやカップも倒れてお菓子も散乱していますわ」
「言われてみれば……そ、そう……だな?」

 王弟殿下は目を凝らしてテーブルの上に視線を向ける。

「これは私たちが部屋を出るまでには起きていなかったことです」
「あ、ああ」
「つまり、これらはここまでの間に起きたことであるのは明白ですわ!」

 私が自信満々に語ると王弟殿下は眉をひそめた。
 そして、怪訝そうな表情で口を開く。

「しかし、夫人。それがなんだと言うんだ?」
「はい?」
「確かにテーブルの上は乱れているようには見えるが、それは……こう二人がいい感じの空気になり、盛り上がって興奮した結果、勢い余ってぶつかっただけ……とかではないのか?」

 王弟殿下のその言葉に私は首を横に振る。

「いいえ、殿下。テーブルの上をよーーーーく見てくださいませ」
「……?  すまない、夫人。ここからだと遠くてよく見えぬのだが」

(……老眼かしら?)

 さすがの王弟殿下も歳には勝てないので仕方がありませんわね!
 私は、はりきって説明する。

「乱れたテーブルの上に食べかけのお菓子が転がっているのです」
「食べかけ……?」
「はい!  それは先程、メリザンド様が私たちへのおもてなしの為に用意してくれた特別な激辛お菓子ですわ」
「…………激辛?」

 何故か王弟殿下の表情がますます怪訝そうになる。
 もしかしたら、辛いものが苦手なのかもしれない。

「や……なんで言っちゃう……の……」

 とたんにメリザンド様が焦った顔をする。
 どうやら特別仕様のお菓子を用意していたことを父親に知られたのが恥ずかしかったようですわね!

(そんなこと気にしないでも、大丈夫ですわ!)

 安心して欲しくて私はメリザンド様に向かってにっこり微笑む。
 ホッと安堵したらしいメリザンド様はグッと黙り込んだ。

「あー……コホッ、それでそのお菓子が食べかけで転がっていたからなんだというのだ?」
「私たちが部屋を出る前までは食べかけのお菓子はありませんでしたの」

 つまり、あれは私たちが部屋を出て行ってから手に取り口に運ばれた激辛お菓子!
 リシャール様は私に付き合って激辛もよく口にするから、あのお菓子を口に入れたからといって驚くことはありません。
 よって、あのお菓子はメリザンド様が口にしたものと推測出来るのですわ!

「───メリザンド様は、やはり好奇心が疼いて疼いて我慢出来ず、美味しそうな激辛お菓子をこっそり食べることにしたのですわ」
「いや……メリザンドは辛いものが苦手なはずなんだが?」
「しかし!  あのお菓子はきっとメリザンド様の予想を超えた辛さだったのでしょう!  メリザンド様は咄嗟に目の前の飲み物に手を出します!  ────ですが!!」
「な、何だ……?」

 王弟殿下が息を呑み、ゴクリと唾を飲み込む。

「しかし、手に取った飲み物は……苦~いお茶でしたの!」
「苦いお茶だと!?」

 苦いお茶と聞いて王弟殿下が目を丸くしている。
 私はにっこり笑顔で頷いた。

「はい!  メリザンド様が用意してくれた留学先での特別なお茶です。苦くてとっても美味しくて癖になる味わいですわ」
「ま、待て。な、なぜ、そんなお茶を……??」
「なぜ?  メリザンド様のおもてなしですわ?」
「!?」

 何だか王弟殿下が変な顔をしているけれど私は気にせず話を先に進める。
 名探偵フルールの大推理はここからが本番よ!

「メリザンド様は咄嗟にあの苦いお茶を手に取って一気にグビッと飲んでしまったのだと思われます」

 私はふぅ、と息を吐く。

「激辛味と苦味……もはや、何味なのかも分かりません。メリザンド様のお口の中は一瞬で大変なことになったと思われますわ」
「え……待ってくれ。なぜ、お茶を一気飲みしたと分かる?」

 私はスッとテーブルの上のカップに向かって指をさす。

「あちらに倒れているカップの中身が空っぽだからですわ」
「…………なぁ、夫人。さっきも思ったのだが、君はこの距離でそんな細かい所まで見えるのか?  私にはカップが倒れていることくらいしか分からないのだが」
「ばっちりです!  なんならカップの柄までここから見えますわ!」
「……」

 私は大きく胸を張る。
 王弟殿下はギョッとして私を見た。
 何か言いたそうにしているけれど、今は名探偵の推理中なので先に進むことを優先させてもらう。

「メリザンド様のお口の中は大惨事。あまりにも新しいマリアージュに耐え切れず、椅子から立ち上がったメリザンド様ですが……勢い余ってよろけてしまいます。テーブルクロスがずれているのは、その時に咄嗟に掴んだからでしょう」
「……」
「そんなメリザンド様の危険を察知して咄嗟に助けたのが私の愛する夫ですわ!」

 だって、私の愛する国宝リシャール様の危険予知は凄いんだから!

「夫は慌てて立ち上がってよろけたメリザンド様を支えて───と、今はちょうど体勢を立て直したところですわね!」
「…………えっと、つまり?  夫人に言わせるとこの状況は……」

 私は王弟殿下に向かってにこっと笑う。

「メリザンド様がうっかりさんを発動して混乱したところを夫が助けた状態……ですわ!!」
「……こ、この一瞬で夫を疑う……ではなく、そこまでの判断を!?」

 王弟殿下が何故か頭を抱えた。

「え、ちょっ……──わ、私がうっ……うっかりさんですって!?」
「はい!  メリザンド様はうっかりさんですわ」

 ふっふっふ!  親子がそっくりの顔で驚いてくれているわ。
 さすが、名探偵フルール!
 私はすっきり満足して大きくうんうんと頷く。

「ふ、ふふふ夫人?  あ、あなたは私たちが事故ではなく、故意にこうしていたとは思いませんの?」
「え?」

 メリザンド様が名探偵フルールの推理に感動して声を震わせながらそう訊ねてきた。

「全く思いませんでしたけど?」
「ど、どうして!?」
「どうしてって……」

 私はうーんと首を捻る。

「あ!  旦那様の抱きしめ方が違いますわね!」
「は、はい?  違……う?」

 メリザンド様が目を丸くしたので、私はニンマリと笑って答える。

「私たち毎日……いえ、毎朝毎晩お互いをたくさんギュッてしているから分かりますの。今の旦那様……手つきとかその時と全然違いますわ!」
「────んぇっ!?」

 私が大きく胸を張って説明すると、メリザンド様が目をまん丸に大きく見開いて固まった。
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