王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

文字の大きさ
223 / 356

223. 貢がれる女

しおりを挟む


「メリザンド様は……国宝……リシャール様を狙っていたんですの?」 
「そうよ、そう言っているじゃない」
「……」

 確かに王弟殿下のお話から、リシャール様のあの美貌のファンなのね?  とは思ったけれど……
 他にもそういう方は沢山いるし、何より子どもの頃のお話だとばかり。
 まさか……メリザンド様が国宝泥棒を企むような方だったなんて!

(泥棒ダメ、絶対!  それは犯罪ですわ!)

「全く……あんなに沢山の贈り物……少し考えれば誰でも分かることよ?  フルール」
「……誰でも?」
「そう。あれは決して善意でもお詫びとやらの心からの贈り物などではなく……単なる嫌が……」
「──ええ、ええ。なるほど!  よーーく分かりましたわ、お母様」
「フルール?」

 お母様の言葉を遮って私は大きく頷く。
 そういうことだったのね?
 なんて私は鈍かったのかしら……
 あのたくさんのお詫びと称したメリザンド様からの贈り物の数々……
 あれは───
 !!

 リシャール様の為なら、私はこれくらい美味しいものをたくさん用意出来ますわよといういい女アピール!!
 お金に余裕がある家のメリザンド様だからこそ出来るアピールですわ……!

「おそろしいです。お母様……さすがメリザンド様は公爵家のご令嬢ですわね?」
「フルール…………公爵夫人が何を言っているのよ」
「だって、お母様!  私には(貢ぐなんて)出来ません!!」

 なぜなら私は一方的に貢ぐより……一緒に仲良くお腹に入れながら美味しいね、と微笑み合って食べたいんですもの!

「そうよね、(嫌がらせなんて行為)あなたには無理でしょうね、フルール」
「はい……無理ですわ」

 さすがお母様。
 私のことをよく分かっているわ。
 しかし……

(なんということでしょう!)

 あんなにたくさんの貢物を貰えるリシャール様。
 さすが国宝。
 なんてなんてなんて羨ましい…………ではなく!

「やはり、国宝リシャール様の魅力は凄いということですわ」
「そのようね……だって、そのお嬢さんはリシャール様に色仕掛けもして来たのでしょ?」
「色仕掛け……?」

 私が首を傾げて聞き返すとお母様もあれ?  と首を傾げた。

「リシャール様、国宝泥棒を企むそのお嬢さんと抱き合っていたのではなかったの?」
「あのうっかり事故のことですわね?」

 私がそう答えるとお母様が天を仰ぐ。

「フルールったら……あれは事故を利用したあなたの夫への色仕掛けよ?」
「え!」

 色仕掛け……という言葉に私はパチパチと目を瞬かせる。

「あのぼんくらポンコツ王子の娘ということは、それなりに綺麗な人なのでしょう?」
「そうですわ!  お綺麗で高貴な香りがしましたわ!」

 私は満面の笑みで肯定する。

「何をにこやかに……とにかく!  そういう自分に自信がある人は色仕掛けを使ってくるものなのよ!」
「色仕掛けをして国宝を盗むんですの?」
「そうよ!  あれは誰かに目撃させるつもりだったというより、リシャール様自身への色仕掛けが目的だったのよ!!」

 お母様はまるで見てきたことかのように言う。
 そこであれ?  と不思議に思った。

「……なぜ、お母様がそのことを知っているんですの?  私、その話したかしら?」

 先ほど、お兄様たちとはその話になったけれどまだ、お母様はその場にいなかったはずですわ。

「なぜ?  ああ、ぼんくら王子が、娘がリシャール様に失礼なことを働いた、申し訳ない、乗り込んでくるのは勘弁してくれ、と謝罪の手紙と報告を寄越して来たのよ」
「ぼん……王弟殿下がわざわざお母様に……ですの?」
「そうよ。あの人、昔から私の前ではビクビクしてそうなるのよ……確かに昔、何度か乗り込んだことはあるけどね。向こうは王族なのにね。変な人よ」
「そう、ですか」

 なんだか不思議な関係ですわね……と思った。

「とにかく……まあ、旦那様の方が素敵だけど、リシャール様はあれだけの美貌だものね。アプローチされるのも当然と言えば当然なのよねぇ」

 お母様のその言葉にハッとする。

「当然……つまり、リシャール様は(貢がれることに)慣れている……?」

 今更ながらその事実に気付く。
 お母様は眉をひそめた。

「…………慣れているもなにも、フルール?  これまでは散々あなたが無邪気に蹴散らし……」
「私、何も知らなかったですわ……!  こんなの(羨ましくて)嫉妬してしまいます!」
「嫉妬!?  フルールが!?」

 なぜか、珍しくお母様が動揺している。

「……お母様、私だって嫉妬しますわよ?」
「そう、よね。さすがのフルールだって(夫が狙われれば)そうなるわよね……てっきり気にしてないのかと」
「いいえ、これは(羨ましくて)嫉妬しますわ……」

 私は考える。
 どうやったら私も、リシャール様のように貢がれる女になれるのか、と。
 答えは一つ!

「───お母様!  ここはやはり私がもっともっともっといい女にならなくてはなりませんわよね?」

 私が貢がれる程の魅力溢れる女になって、メリザンド様に、妻である私には敵いません、とリシャール様を諦めてもらうのよ!

「え?」
「えっ……て、違いますの?」
「いえ、それは間違ってはいないけれど……何かしら……何かが……」

 メラッ……
 ふっふっふ!  これは燃えますわ!

「お母様!  これはもう悠長になどしていられません!  最強に魅力的な公爵夫人への道を急いで進めないといけませんわ!」
「魅力的な……?」

 私はお母様にグイグイ迫る。

「お母様、ありがとうございます!  私だけでは気付けませんでしたわ」
「そ、そう?  それで、フルール。あなたはまず、どうするつもりなの?」

 お母様がグイグイ迫る私を華麗に避けながら訊ねてくる。

「まずは?」
「そうよ。色々あるでしょう?」
「────そうですわね、まずは頂いた物は全て皆で分け合って美味しく頂きました、とお礼状を送るところからですわ」

 え?  とお母様が固まる。
 私も私で、え?  と首を傾げる。

「お母様?  お礼状を返すのは基本だと教えてくれたのはお母さまですわよね?」
「え?  え、ええ……そう、ね」
「私、手紙を書くのは得意なんですの!  頑張りますわ」
「……頑張……る?」

 私はお母様にニコッと笑いながら腕をまくった。



❈❈❈❈❈



「────と、いうわけで、お母様曰くメリザンド様は色仕掛けで国宝泥棒を企んでいるらしいのですわ!」

 フルールが戻って来た。
 てっきり母上にたくさん怒られ絞られたかと思えば、なんだかスッキリした顔をしている。
 不思議に思って、母上との話はどうだった?  と聞いた回答がこれだ。

 ────国宝泥棒ってなんだよ!?

 心の中でそう突っ込んでいたら、オリアンヌがなるほど……と頷いた。

「あれは誰かへの見せつけではなくリシャール様への色仕掛けだったのね……さすがお義母様。色仕掛けする側の気持ちなら手に取るようによく分かる……ということだわ」

(──なっ!?)

 オリアンヌの発言に絶句しているとフルールが不思議そうにオリアンヌに訊ねる。

「オリアンヌお姉様、どういう意味ですの?」
「ふふ、どうやらお義母様はお義父様にたくさんアプローチしていたという話ですから。中には色仕掛けで迫ったなんて話も……」
「まあ!」

(母上ーーーー!)

 そんな情報、息子としては知りたくない!
 だがフルールは気に止める様子もなく、なるほど。さすがお母様……と頷いている。

「メリザンド様はフルール様と王弟殿下がさっさと戻ってきて焦ってしまったのね。それで慌てて路線を変えようとしたけれど、それも撃沈」
「すかさず私の華麗な名推理が披露されたからですわね!」

 いや、フルール……なんでそんなに嬉しそうなんだよ……
 国宝泥棒ってことは、お前の大事な夫が狙われているんだろ?
 そんなお前の大事な国宝もこの話に驚いて呆然としているぞ!?

「フルール……お前はこれからどうするんだ?」
「どうする?  お母様と同じ質問するんですのね?」

 俺が訊ねるとフルールはきょとんとした表情を浮かべる。
 いつも通りの顔!  
 危機感!  危機感は無いのか!?

「ほら、推奨はしない……が、フルールは得意だろ?  乗り込んだり殴り込んだり壊滅させたり……」
「まあ!  お兄様ったら人聞きの悪いことを言わないで下さいませ!  そんなことはしませんわ」

 フルールが首を横に振る。

「……え?」

(フルールが大人しくしたまま……だと!?  王族クラッシャーなのに!?)

「ですが───もちろん、国宝は盗ませたりしません」
「なら……」
「ふふ、お兄様ったら……犯罪というものは未然に防いでこそ、ですわよ?」
「あ?」

 フルールはニンマリと笑ってそう言った。

しおりを挟む
感想 1,477

あなたにおすすめの小説

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」と蔑んだ元婚約者へ。今、私は氷帝陛下の隣で大陸一の幸せを掴んでいます。

椎名シナ
恋愛
「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」 ーーかつて私、エリアーナ・フォン・クライネルは、婚約者であったクラウヴェルト王国第一王子アルフォンスにそう蔑まれ、偽りの聖女マリアベルの奸計によって全てを奪われ、追放されましたわ。ええ、ええ、あの時の絶望と屈辱、今でも鮮明に覚えていますとも。 ですが、ご心配なく。そんな私を拾い上げ、その凍てつくような瞳の奥に熱い情熱を秘めた隣国ヴァルエンデ帝国の若き皇帝、カイザー陛下が「お前こそが、我が探し求めた唯一無二の宝だ」と、それはもう、息もできないほどの熱烈な求愛と、とろけるような溺愛で私を包み込んでくださっているのですもの。 今ではヴァルエンデ帝国の皇后として、かつて「無能」と罵られた私の知識と才能は大陸全土を驚かせ、帝国にかつてない繁栄をもたらしていますのよ。あら、風の噂では、私を捨てたクラウヴェルト王国は、偽聖女の力が消え失せ、今や滅亡寸前だとか? 「エリアーナさえいれば」ですって? これは、どん底に突き落とされた令嬢が、絶対的な権力と愛を手に入れ、かつて自分を見下した愚か者たちに華麗なる鉄槌を下し、大陸一の幸せを掴み取る、痛快極まりない逆転ざまぁ&極甘溺愛ストーリー。 さあ、元婚約者のアルフォンス様? 私の「穀潰し」ぶりが、どれほどのものだったか、その目でとくとご覧にいれますわ。もっとも、今のあなたに、その資格があるのかしら? ――え? ヴァルエンデ帝国からの公式声明? 「エリアーナ皇女殿下のご生誕を祝福し、クラウヴェルト王国には『適切な対応』を求める」ですって……?

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました

ほーみ
恋愛
 その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。 「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」  そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。 「……は?」  まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

処理中です...