王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

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257. バラしたのは──

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「旦那様!  今の聞きました!?」
「え、う、うん……?」

 大親友からの寄せられた信頼が嬉しかった私は、緩んだ頬を両手で押さえながらリシャール様に訊ねる。

「私、(こんなに信頼されて)嬉しいですわ……!」
「え……?  フルール?  なにか企んでる!  とか、結構すごい言われようだよ?」
「そうですわね……ですが、さすが私の大親友・アニエス様ですわ……!」
「うん……?」

 リシャール様が不思議そうに首を捻る。

「アニエス様こそ、今日の私の訪問の目的を見抜いていたに違いありません!」
「え……?」
「ですから、今、色々なことを懇切丁寧に私に教えてくれましたわ……!」
「いや、どこからどう聞いても取り乱しているからね?  それから、何か危険人物がしれっと紛れ込んでいるから!」

 あら?
 リシャール様の顔が少し引き攣っている?

「危険人物?」
「ほら、あそこの彼……フルールは例えで口にしていたのに“本物”の暗殺者だって言っていなかった?」

 リシャール様のちょっと震えた指の視線を追うと、先程の使用人がナタナエル様の前に跪いている。
 その光景を見た私は息を呑んだ。

「……!」
「フルール?」

(あれは…………主従関係というやつですわ!!)

 ナタナエル様はあの暗殺者?  を生け捕りにしたとアニエス様が言っていましたわ。
 つまり、暗殺者を生け捕りにするとあのような自分に忠実な人物が出来るということ……

(何だかかっこいい!)

 私の目の奥がキラッと輝く。

「旦那様……私も欲しいです」
「え?  な、何を……?」
「もちろん、暗殺者ですわ!!」
「あ……!?」

 リシャール様がギョッとした目で私を見る。

「旦那様!  暗殺者を生け捕りにすれば、私の“最強公爵夫人”の座がグンッと近付きますわ!」
「え、なんで!?  フ、フルールさん?  帰って来て……?  い、意味が……」
「どこに行けば生け捕りに出来ます?  闇の組織?  あそこの彼に聞いたら闇の組織の一つや二つ、どこにあるか知っているかしら?」
「フルール!?」

 ロ……なんとかという名の使用人の元に向かおうとしたら、リシャール様が真っ青な顔で私を止めようとする。

「待ってくれ!  頼むから、お、落ち着いて?」
「え?  落ち着いていますわよ?」
「いや…… フルールの目はどう見てもキラキラで興奮しているし、どう聞いても、闇の組織を見つけ出して潰すつもりだよね!?」
「旦那様……」

 私はえっへんと胸を張る。

「大丈夫です!  パーティーの時に約束しましたから、変な組織に乗り込む前にはちゃんと旦那様に相談しますわ!」
「……言ったけど!  確かに言ったけど…………え、あれは何か危ないことをする前には相談してって意味で……」

 リシャール様が頭を抱える。

「旦那様?」
「フルール……はあの言葉……をそのままの意味で捉えていた……?  そうしたら、あの使用人に刺激を受けて……また新しい何かに目覚め…………え?  ええ!?」

 リシャール様が苦悩の表情を浮かべたその時、父親の伯爵に羽交い締めにされていたアニエス様がまたまた元気いっぱいに叫んだ。

「ほら!  物騒なこと言っているじゃないのーー!」
「アニエス!  落ち着くんだ!」
「お父様も聞こえていたでしょう!?  フルール様、あののほほん顔で暗殺者が欲しいって言ったわよ!?」
「…………き、聞こえた……が」

 パンスロン伯爵親子の視線が私に向けられる。
 そっくりなお顔ですわ、さすが親子!

「やっぱり、その謎の嗅覚でナタナエルの秘密とロランのことを嗅ぎ付けたのよ!  そして何か企んでいるのよーー!」

 大変!
 アニエス様がかなり興奮状態ですわ。
 さすがに少し落ち着かせないと……と思い、アニエス様に向かって安心してもらおうと思って私はにっこり微笑んだ。

「ひぃっ!?  出た!」

(……何が?)

 私は首を傾げながら口を開く。

「アニエス様、大丈夫ですわ。私が何かを企んでいる?  全くそんなことはありませんわよ?」
「……そんなの嘘よーーーー!」
「嘘ではありませんわ?  ちょっと色々と思考は迷子と寄り道しましたけど」
「は?」

 アニエス様が怪訝そうな表情になる。

「と、いうわけで一旦、道を戻りますわね?」
「……は?」

 闇の組織と暗殺者の生け捕りの件は後回しにすることにしますわ。
 まずは本来の目的を達成しないといけませんもの。

「そもそも本日、私がこちらにお邪魔したのは……」
「し、したのは?」

 プルプル震えているアニエス様に向かって私はニンマリ笑う。

「ナタナエル様が王弟殿下一家とお会いするつもりがあるか否かの意思確認に参りましたのよ!」
「……ちょっ!?」

 私がそう口にしたら、目の前のアニエス様が途端に慌てだす。
 父親の伯爵様も目を大きくかっ開くとその場に固まった。

「待っ……え?  お、お、王弟殿下って……あの……王弟殿下……よね?」

 アニエス様が震える声で確認してくる。
 あのって言われましても……

「アニエス様?  私の知る限り、今、この国でそう呼ばれている方は一人しかいませんわ?」

 もうすぐ陛下になりますけど。
 そうなれば王弟殿下と呼ばれる方はいなくなりますわね……?
 などとぼんやり考えていたら、アニエス様が真っ青な顔を俯けながらポソリと言った。

「ほら、やっぱり……フルール様の口走っていた“秘密”ってそれだったんだわ……」
「ええ。まさかお菓子のつまみ食いが発覚するなんて驚きましたわ」
「わたしもよ!!  まさかナタナエルが───」

 アニエス様がパッと顔を上げて叫んだ時だった。

「アニエス?  今、俺のことを呼んだ?」
「やっと来たわね、ナタナエル!!  あなた、こんな時に何を呑気な顔と声を出しているの!」
「え?  呑気?  いつも通りだよ~?」

 にこにことナタナエル様は笑いながら、アニエス様の頭を撫でている。

「ちょっと!  聞こえていたんでしょう!?」
「え?  ああ、アニエスが元気に叫んでいたところ?  もちろん、聞いていたよ?  アニエスって話をまとめるの上手いよね~すごいなぁって感心してた!」
「そんな褒め言葉求めていないわよーーーー!?」
「え~?」

 アニエス様に詰め寄られているナタナエル様はとっても嬉しそう。
 デレデレですわ。

「フルール様はナタナエルの出世の秘密を嗅ぎ付けて脅しに来ていた!  呑気な顔していられる話じゃないのよ!」

(あら?)

 アニエス様ったら……早とちりしてしまっていますわ。
 私は意思確認に来たのであって脅しに来たわけではありませんのに!
 いったい何がどうしてそんな結論に辿り着いてしまったの!?

「え?  脅しだったの?」

 ナタナエル様もびっくりしている。

「そうよ!  どこで知ったか知らないけど、王弟殿下にナタナエルの存在をバラされたくなかったら……って企んでいるのよ!  これはもう脅しよ!」
「え?  王弟殿下に……俺のことをバラす?」

 ナタナエル様の顔が一瞬、曇った。
 なんだかアニエス様がまた元気いっぱいにヒートアップしそうだったので私は慌てて否定する。

「アニエス様、違いますわ!」
「は?  違う?  どこがですか!  フルール様がどこでその情報を仕入れたのかは知らないけれど───……」
「だって!  王弟殿下はもう知っていますもの!」

 アニエス様の動きがピタリと止まる。
 そして驚愕の表情で私を見た。

「知って…………いる、ですって!?」
「はい!  “ナタナエル”という名前もご存知ですわ」
「……なっ!?  名前も!?」

 アニエス様とナタナエル様が顔を見合わせる。
 ナタナエル様がうーんと首を傾げた。

「……ねえ、アニエス……もしかして俺、知らないうちに王弟殿下に挨拶していたのかなぁ?」
「は?  バカ言わないで頂戴!?」
「うん、でもさ、騎士団で人に挨拶されれば誰彼構わず挨拶を返していたし……?」
「挨拶は礼儀だものね!  でもね?  さすがに、その中に王弟殿下が居たらいくら呑気なナタナエルでも気付くでしょう!?」

 ナタナエル様はもう一度考え込んで、うーんと首を傾げる。

「ちょっと!  そこは、はっきり返事しなさいよ!?  不安になるじゃない!!」
「自信がないなぁ……」
「ナタナエル!」

 アニエス様がナタナエル様を大きく揺さぶる。

「どうしてなの?  確かに、いつかはそんな日がくれば……そう思ってはいたけれど…………これは早すぎるわよ!  いったい、どこの誰がバラしたのよ!?」
「はい!」

 私は手を大きく上げた。
 すると、アニエス様が眉間に皺を寄せて私を見る。

「なに、フルール様?  わたし今、大事な話をしているの」

 コクリと私は頷く。

「これは重大なことなの!  ナタナエルの存在を王弟殿下にバラした人間がいるのよ?  わたしはそれが誰なのか見つけないといけないの。だから、少し静かにしてもらえるかしら?」
「はい!」

 私はもう一度大きく手を上げる。

「だーかーらー!  その無駄に元気のいい返事を控えて!  とわたしは言っているの!!」
「はい!」

 なかなか伝わらない。
 だから今度はもっと大きく前のめりで手を上げてみた。

「~~~っ!  フルール様!?  あなたね、いい加減に───」
「ですから、私ですわ!  さっきから手を上げて返事をしていますのに……」
「……」
「……」
「…………は?」

 ピタッと動きを止めるアニエス様。

「王弟殿下の前でうっかり口を滑らせたのは私ですわ、アニエス様」
「……!?  んぇえぇえぇぇ!?」

 その瞬間、アニエス様はとっても可愛いらしい叫び声を上げた。

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