王女殿下に婚約破棄された、捨てられ悪役令息を拾ったら溺愛されまして。

Rohdea

文字の大きさ
329 / 356

329. 新しい家族・最強ベビーの誕生

しおりを挟む


 リシャール様が医者を呼んでいる間も、赤ちゃんは私のお腹を蹴っていた。
 ポコッ……ポコッ……

「まあ!  本当に今日は今までにないポコポコ具合ですわ!」

 ポコッ……

「ふふ、赤ちゃん。あなた、遂にお外の世界を見たくなりましたのね?」

 ポコッ……
 また、お腹が蹴られる。

「……」

 前々から思っていたけれど、赤ちゃんって凄いですわ。
 こうして、お腹の中でもちゃんと私との会話が成立しているんですもの。
 私、会話が出来るなんて知りませんでしたわ。

「分かりましたわ!  いいですか、お外の世界はね、楽しいことがいっぱいですのよ?」

 ポコッ、ポコッ
 その返事に私はにっこり笑う。

(楽しみ!  そう言ってくれていますわ~)

「安心して?  ────あなたのお母様であるこの私が、楽しい毎日をお約束しますわ!」

 ポコポコポコ……

「だから、元気いっぱいにオギャーと出て来てくださいませ!」
「───フルール!  医者を呼んできたよ!」
「旦那様!」

 ポコッ!
 リシャール様が戻って来た瞬間、強めに蹴られた。
 本当に今日はこれまでにないくらい活発だ。
  
「ふふ、旦那様の声にも反応しましたわね?  そうです、あなたのお父様、この国の国宝ですわよ~」

 ポコッ!

(ふふふ。これまで、二人でたくさんたくさん話しかけてきた甲斐がありましたわ~)

「フルール?」
「旦那様!  赤ちゃん、やっぱり今日お外に出たいそうですわ!」
「!」

 その後の公爵家は、もうてんやわんやの大騒ぎとなった。

 ───そして、そんな私の言葉通り─────……

「オギャーーーー!」

 無事に、元気な産声をあげた可愛い最強ベビーが誕生しましたわ!



──────



「ウー、アウッ」
「まあ!  ミレーヌちゃん、お腹がすきましたのね?」
「アウッ」

(笑いましたわ!  ふふふ、可愛いですわ~)

 モンタニエ公爵家に誕生した最強ベビーは、ミニフルール……女の子だった。

「さあ、ミレーヌちゃん!  今日も元気いっぱい飲んで飲んで飲んで飲みまくって、大きくなりますわよ~?」
「ア~ゥ~」

 名前はミレーヌ。
 リシャール様と男の子だったら、女の子だったら……と事前に決めてあったのですんなり名づけは決まった。
 そして、そんなミレーヌのお世話。
 公爵夫人らしくないと分かっていながらも、出来る限り私は自分の手でやりたいと皆に申し出た。

(リシャール様も公爵家の使用人も寛大で良かったですわ~)

「ふふ、今日もいい返事ですわ!  さすが私とリシャール様の子ですわね?  間違いなく天才ですわ」
「ウ~」
「天才?  そんなの当然です?  ふっ、言いますわね、さすがミレーヌちゃん!」
「アウ!」


───


「───ふっふっふ!  ミレーヌちゃん。そして今日もいい飲みっぷりでしたわね!」
「ゥアウ!」

 コンコン……
 ミレーヌのミルクの時間を終えたと同時に部屋の扉がノックされる音がした。

「……ウ?」
「────フルール?  ミレーヌは?」

 愛する夫、そして父親となったリシャール様がひょこっと顔を出す。

「まあ、旦那様!  ちょうど良かったです。今、ミレーヌちゃんへのミルクを終えたところですわ~」
「そっか、ミレーヌ!」
「アゥア!」

 リシャール様が近づくと、ミレーヌちゃんの顔がパッと満面の笑みになり、手足もパタパタしている。

(おとうさま~と言っていますわ!)

「ええ、そうですわ。国宝のお父様ですわよ?  今日もかっこいいでしょう?」
「アゥアゥ」
「え?  大きくなったら、かっこいいおとうさまと結婚する?  うーん、そうしたい気持ちは分かりますが……それはダメですわ」
「ウー……」
「ごめんなさいね?  いくらミレーヌちゃんでもそれだけは絶対に譲れませんの」

 どうやら、ミレーヌは私に似てどうもリシャール様のことが好みらしい。
 今からこれでは将来が心配ですわ。
 リシャール様程の国宝級美男子……探すのが大変です。

「えっと、フルール?  ……言うほどミレーヌの目はまだ見えていないと思うよ?」
「アゥ!」

 リシャール様がミレーヌを抱っこしながらクスクス笑いながらそう言った。
 そんなミレーヌは抱っこされてキャッキャとご機嫌だ。

「……いいえ!  まだはっきり見えていなくともミレーヌちゃんは本能で感じ取っていますわ!」
「本能で?」
「はい!  私には分かります!」

 私がキッパリ断言すると、リシャール様はハハハと笑った。

「フルールの子だもんね。野生の勘の一つや二つ、備わっていてもおかしくない、か」
「ア~」
「ほら、旦那様!  ミレーヌちゃんも強く頷いておりましてよ?」
「へぇ、賢いなぁ」

 リシャール様に褒められて、ミレーヌはますます嬉しそう。
 もう、ニッコニコですわ!

「甘いですわよ、旦那様。ミレーヌちゃんはお腹の中にいる時からとても賢かったですわよ?」
「確かに……ポコポコお腹を蹴ってはフルールと当然のように会話を成立させていたっけ」
「そうですわ!  ね、ミレーヌちゃん!」
「アウ~」

 ミレーヌ、元気にお返事していますわ!

「それなら……ミレーヌ」
「ウ?」
「いいか?  前にも君がフルールのお腹の中にいる時にも僕は言ったけど───……」
「ウ~?」

 リシャール様がミレーヌの顔をじっと見る。
 その真剣な瞳は、まるでミレーヌに強く何かを訴えているみたいだった。

「旦那様?  どうかしましたの?」
「あ、いや。念には念を……と思ってさ。ね、ミレーヌ」
「アゥア~!」
「?」

 首を傾げる私に、あはは、と笑うリシャール様。
 ミレーヌも「わかったわ!  おとうさま!」と言わんばかりに、にっこり笑ってお返事までしていますわ。
 一体、リシャール様は何を念押ししたのかしら?

「ん?  あ、フルール。ミレーヌが何だか眠そうだよ?」
「……ゥ」
「まあ!」

 確かに、急に眠そうなお顔になっていますわ~

「旦那様、ではミレーヌちゃんをこちらに」
「うん」

 リシャール様はそっとミレーヌをベッドに寝かせると、そのまま当たり前のように自分も一緒に横になってミレーヌに添い寝する。

「……」

 そんなリシャール様の温もりを感じているからなのか、ミレーヌはリシャール様に添い寝されるといつもとても気持ちよさそうに眠りの世界に入っていく。

(リシャール様……)

 ───僕はフルールみたいに“親からのあたたかい愛情”というものを知らない。
 そんな僕でも本当に大丈夫なのかな?

 最初こそ、そんなことを口にして少し不安そうな顔をしていたけれど……

(大丈夫ですわよ?)

 今だってミレーヌ、とっても幸せそうに眠っていますもの。
 さっきみたいにリシャール様に抱っこされている時なんて、とってもとっても嬉しそうです。

「って、あら?  リシャール様まで一緒に眠ってしまっていますわ?」

 思わず、ふふっとした笑みが溢れる。
 リシャール様はミレーヌの横でスゥスゥと穏やかな寝息を立てている。

「ふふ、お疲れでしたのね?  それにしても……」

(寝顔がそっくりですわ~)

 私はニンマリ笑う。

「ミレーヌちゃんは、絶対リシャール様に似た美人さんになりますわね!  ……将来が楽しみすぎてゾクゾクしますわ!」

 ───国宝級の美女!  
 そんなの大好物ですわ。
 私は愛娘の成長を思ってニンマリ笑った。

「……それにしても、旦那様の寝かしつけが優秀すぎて、今のところ私のの出番が全然ありませんわね?」

 さらに言うと、
 リシャール様はフルールがなるべく自分の手で育てたいと言うなら、それは自分も同じだ!  
 と言ってくれて働き方の改革まで行い、ミレーヌが産まれるまでの間に自分の代わりに動ける人間をしっかりと育成していた。
 だから、実際ミレーヌが産まれた直後は仕事をかなりセーブして私の側にいてくれたし、今だって時間を作ってこうして……

(出来る夫は凄いですわ~)

 ですが、お母様曰く赤ちゃんが酷くクズったり夜泣きしたり……というのはこれからが本番らしい。
 なので、私はいつでも喉の調子を整えておきますわ!

「んん、んん……」

(スペシャル子守唄ですわよ!  楽しみにしていてね!)

「……」

 ふわぁ……
 そっくりな顔でスヤスヤと気持ちよさそうに眠る二人を眺めていたら、何だか私の方まで眠くなってきた。

「ん、私も……少しだけ」

 私もモゾモゾとベッドに入り、リシャール様とは反対側のミレーヌの隣に横になる。
 素敵な夫と可愛い娘。
 そして、この先まだまだ誕生するはずの命───

「ふふ……幸せ、ですわ」

 自然と笑みが溢れる。
 これまでの私は色々な“最強”を目指す中、リシャール様との最強夫婦も目指して来たけれど……
  
「……さらなる目標は…………最強幸せ、家族……です、わ」

 そんな最強家族の姿を夢見てニマニマ笑いながら、私は眠りに落ちた。

しおりを挟む
感想 1,477

あなたにおすすめの小説

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」と蔑んだ元婚約者へ。今、私は氷帝陛下の隣で大陸一の幸せを掴んでいます。

椎名シナ
恋愛
「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」 ーーかつて私、エリアーナ・フォン・クライネルは、婚約者であったクラウヴェルト王国第一王子アルフォンスにそう蔑まれ、偽りの聖女マリアベルの奸計によって全てを奪われ、追放されましたわ。ええ、ええ、あの時の絶望と屈辱、今でも鮮明に覚えていますとも。 ですが、ご心配なく。そんな私を拾い上げ、その凍てつくような瞳の奥に熱い情熱を秘めた隣国ヴァルエンデ帝国の若き皇帝、カイザー陛下が「お前こそが、我が探し求めた唯一無二の宝だ」と、それはもう、息もできないほどの熱烈な求愛と、とろけるような溺愛で私を包み込んでくださっているのですもの。 今ではヴァルエンデ帝国の皇后として、かつて「無能」と罵られた私の知識と才能は大陸全土を驚かせ、帝国にかつてない繁栄をもたらしていますのよ。あら、風の噂では、私を捨てたクラウヴェルト王国は、偽聖女の力が消え失せ、今や滅亡寸前だとか? 「エリアーナさえいれば」ですって? これは、どん底に突き落とされた令嬢が、絶対的な権力と愛を手に入れ、かつて自分を見下した愚か者たちに華麗なる鉄槌を下し、大陸一の幸せを掴み取る、痛快極まりない逆転ざまぁ&極甘溺愛ストーリー。 さあ、元婚約者のアルフォンス様? 私の「穀潰し」ぶりが、どれほどのものだったか、その目でとくとご覧にいれますわ。もっとも、今のあなたに、その資格があるのかしら? ――え? ヴァルエンデ帝国からの公式声明? 「エリアーナ皇女殿下のご生誕を祝福し、クラウヴェルト王国には『適切な対応』を求める」ですって……?

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました

ほーみ
恋愛
 その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。 「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」  そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。 「……は?」  まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

処理中です...