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330. 幸せな報告
しおりを挟む「ミレーヌちゃん! 今日は、あなたのおじちゃまとおばちゃまの登場ですわ!!」
「ア~! ウァ~」
本日の予定をミレーヌに告げると、キャッキャと嬉しそうに笑った。
「ええ、そうですわ! すでに二人とも、もうミレーヌちゃんの可愛さに虜になってメロメロですわよ!」
「ウ~」
「メロメロになるのは当然です? ふふふ、さすがミレーヌちゃん。謙遜しないところが最高ですわ!」
だって、ミレーヌはとっても可愛いですもの!
ミレーヌが生まれてから、すでに何度か顔を出してくれている私の実家の家族たちですが……
すでに、皆がミレーヌの可愛さにメロメロですわ。
「ウァ」
「そうです、その微笑みですわよ。さあ、今日でもっとメロメロにしてあげましょうね!」
「ア~」
私がニンマリしながら告げると、ミレーヌも嬉しそうに笑う。
いい笑顔ですわ!
「───フルール、ミレーヌ」
「旦那様? どうかしました?」
「ウァウ~!」
リシャール様に名前を呼ばれてミレーヌもご機嫌が最高潮ですわ!
「いや、今朝も二人は楽しそうな会話をしているなと思って」
「ええ、とっても楽しいですわよ!」
「ア~!」
二人でお返事をするとリシャール様はククッと笑った。
そして、よいしょっとミレーヌを優しく抱っこする。
抱っこされたミレーヌはキャッキャと嬉しそうにはしゃいだ。
今日もリシャール様のことが大好きのようです。
「お、我が家のお姫様は今日もご機嫌だ」
「ええ。それにミレーヌちゃんって、とってもお利口なんですのよ」
「お利口?」
リシャール様がミレーヌをあやしながら私に聞き返す。
「ミレーヌちゃんは日々すくすくと成長していますので、話に聞いていた通り、最近はグズることも増えて来ましたの」
「あ、そうだよね……」
「ところが! エグエグしている時に、ミレーヌちゃんはお利口ですわね~お利口さんにはお母様が子守唄を歌ってあげますわよ~? って私が声をかけますとピタッと泣き止んでコテッと眠りに入りますの」
「……!」
「それが一度や二度ではなくて! すごいんです、ミレーヌちゃん。やはり、天才ですわ……」
おかげで、未だに私のスペシャルな子守唄の出番がありません。
私がしみじみそう話すと、リシャール様はミレーヌの顔をじっと見つめた。
「……ミレーヌ」
「ウ?」
「そうか。君はちゃんと僕の話を……理解して振舞って……うっ」
「ウ~」
「ミレーヌ!」
「アウア!!」
リシャール様の言葉に満面の笑みで答えるミレーヌ。
真剣な表情でミレーヌと語り合っていたリシャール様が、パッと顔を上げる。
「うん、フルール……この子は絶対に天才だよ。僕もそう思う」
「でしょう?」
「……こんなに小さくても、すでに自己防衛本能が働いているなんて……」
「自己防衛本能?」
何の話かしら? と首を傾げる。
「ん、あ、こっちの話…………フルールのお腹の中にいる時から言い聞かせた甲斐があったなって……」
「お腹の中……? よく分かりませんが、防衛……つまり、ミレーヌちゃんはとにかく強い! ってことですわよね!?」
「アウァ~!」
私がそう口にするとリシャール様は優しく微笑んでくれた。
────
「ミレーヌちゃん! おじちゃまとおばちゃまが来ましたわよ~」
「アウアウ~」
その日の午後、我が家にお兄様とオリアンヌお姉様が来てくれた。
「ようこそ! と言ってくれていますわよ!」
私がミレーヌの言葉を二人に通訳すると何故か笑われた。
「なんです?」
「ははは、いや……フルールもちゃんと母親やっているんだなって」
「どういう意味ですの?」
「……そのまんまの意味だよ。安心した」
クククと笑うお兄様。
「お兄様ったら心配性ですわね?」
「そりゃ……」
「ウァ~?」
「───ミレーヌ!! ああ、今日も君は可愛いな!」
何かを言いかけたお兄様。
しかし、ミレーヌに笑いかけられた一瞬で鼻の下がデレデレになりましたわ。
(おそるべし、魔性の可愛さ。ミレーヌ……!)
「……リシャール様にもフルールにもよく似た顔立ち……これは将来が……うん、大変だ」
「お兄様?」
「ウ?」
お兄様がミレーヌを見つめながら語り出す。
「性格もこのままリシャール様に似て穏やかに育って欲しいが……きっとフルールの方が濃く出るんだろうなぁ……だってフルールだし」
「お兄様!」
「ウ!」
お兄様は性格が私に似てしまうと言ってガックリ肩を落としています。
何故!?
私に似ることの何がいけないんですの!?
お兄様は再び顔を上げると小さなミレーヌの手をキュッと握った。
「ミレーヌ、いいか? くれぐれも変な男には引っかかるなよ?」
「アゥ?」
「きっと将来の君は、引く手あまたとなるだろう。中には変な奴が混じり込むかもしれない」
「ゥア~!」
ミレーヌは何が楽しいのかご機嫌に笑っています。
「そうだな……いっそのことミレーヌの方が男たちを翻弄し手玉に取るくらいがちょうどいいのではと俺は思っ……」
「ア~」
「──ちょっとお兄様! なんてことをミレーヌちゃんに吹き込んでいるんですの!」
私は慌てて止めに入る。
大変ですわ!
お兄様がミレーヌをとんでもない悪女の道に引き込もうとしています!
「い、いや、だってフルール……ミレーヌはまだこんな小さいのに、すでに美貌の塊のような片鱗がチラチラッと」
「美貌の片鱗? そんなのリシャール様の子ですから当然でしてよ!」
私は胸を張る。
全く、国宝を舐めないで下さいませ!
「だからこそ……俺はミレーヌがすごく心配なんだよ……!」
「はいはい。もう! アンベール!」
ミレーヌにまで心配性を発揮するお兄様の肩をオリアンヌお姉様がポンポンと叩く。
「オリアンヌ……?」
「ミレーヌちゃんはフルール様の子ですもの、大丈夫よ! きっと本能で変な男はちぎっては投げちぎっては投げて蹴散らしていくわ」
「……ちぎっては投げて……か。そうだな」
オリアンヌお姉様に宥められてお兄様は静かに頷いた。
「……それより、アンベール。あなた今日はもっと大事な話があるでしょう?」
「あ!」
オリアンヌお姉様の言葉にお兄様がハッとする。
「大事な話?」
私が聞き返すと、お兄様とオリアンヌお姉様は顔を見合せてから照れくさそうに頷き合った。
「コホッ……あー、フルールよ。今日、お邪魔したのはもちろんミレーヌの顔を見たかったのもあるが、アレだ」
「アレ?」
意味が分からず、私は首を捻る。
お兄様は咳払いしながら続けた。
「コホンコホン……もちろんアレと言ったらアレだよ」
「アレ……」
「そうだ、アレだ……」
そう言ってお兄様が、隣のオリアンヌお姉様のお腹にそっと優しく手を置いた。
(……は!)
「なんということでしょう! オリアンヌお姉様、お手洗いを我慢していましたのね!? 失礼しましたわ、えっと場所は───」
モンタニエ公爵家のお屋敷は広いですものね。
大事な話とやらを後回しにして案内のメイドを呼ぼうとしたら、お兄様にガシッと肩を掴まれた。
「な・ん・で・だ!」
「お兄様……?」
あら? お兄様の身体がプルプルしていますわ?
「ミレーヌちゃん! 見て? お兄様……おじちゃまがとっても面白いお顔をしていますわよ?」
「アウ?」
きょとんとしたミレーヌがお兄様の方に顔を向ける。
「うっ……可愛い……じゃなくて、フルール! 本当にお前は……! 自分のことにもとことん鈍かったが……何故この流れでそっちに発想が飛ぶんだ!?」
「え? そう言われましても……」
私が困っていたら、オリアンヌお姉様がクスクス笑いながら言った。
「ふふ、あのね? フルール様。実はね、私たちにも子どもが出来たのよ」
「え?」
びっくりした私は、目をパチパチさせると交互に二人の顔を見つめる。
「お兄様とオリアンヌお姉様に赤ちゃん……が?」
「そ……そういうことだ!」
照れて顔を赤くしたお兄様がぶっきらぼうな様子でそう言った。
「ま……」
(まあーー!!!!)
「───ミレーヌちゃん!!」
「ウ?」
私はきょとんとしているミレーヌを抱き上げると、そのまま一緒にクルクル回る。
「お、おい、フルール!? 何してるーー!?」
「喜びの舞withミレーヌちゃん、ですわ~~~~!!」
お兄様とオリアンヌお姉様にも赤ちゃん!
こんなの喜ばずにいられませんわーーーー!
「フルール、落ち着け! ミレーヌが目を回す……」
「ちゃんといつもより控えめに回っているので大丈夫ですわ~~、ね? ミレーヌちゃん!」
「アウアッ!!」
「いいですか? これが、おばあちゃま直伝の喜びの舞ですわよ~~」
「ウアウア!」
元気いっぱいなミレーヌのお返事!
素敵ですわ。
そして、控えめながらクルクル回されてもこの笑顔。
これは絶対に絶対に素質がありますわね!
将来が楽しみです。
ちなみにお母様は、ミレーヌが早く立って踊れる時が来るのをものすごく楽しみにしている。
「ふふふふ、ミレーヌちゃんの方がお姉さんですわね~?」
「アウ~!」
「仲良くいーっぱい遊んであげるんですよ~?」
「アウ~!」
「そうですわ! 旦那様にも早く報告しなくちゃ~!」
「アウ~!」
クルクルクル~
「フルール! ミレーヌ!! 頼むから……す、少し、落ち着けーーーー」
クルクルクル~
私はミレーヌと一緒に、新しい幸せな報告をたくさん喜んだ。
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