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「……我が儘言って、ごめんなさい。それと、男女とか関係なく、お金を払っているのはテレンスなんだから、やっぱり寝台はテレンスが使って?」
 
 哀しそうに笑うアラーナに、テレンスは少し迷ったものの、覚悟を決めた。

「……わかりました。一緒に寝ましょう」

 アラーナの顔が、ぱっと明るくなった。

「いいの?!」

「……あなたがいいなら、いいですよ。もう……そのかわり、きちんと自覚してくださいね。ご自分が、年頃の娘だということを」

「? わかっているわよ?」

「いや、わかってないでしょう。信用してもらえているのは嬉しいですが、わたしも男なんですよ?」

 ああ。アラーナはようやく理解したように笑った。

「心配しなくても、わたしはアヴリルみたいに可愛くないから。例えばお金目当てに殺されることはあっても、そういう目的で襲われることは、きっとないと思うわ」

 当たり前のことのようにそんなことを語るアラーナに、テレンスは、胸が締め付けられた。

(……あの家族が、エイベルが、アラーナお嬢様から、根こそぎ自信を奪っていったんだ)

「あ、そうだ。テレンスは窓際で寝てね」

 アラーナの言葉に、はっとしたテレンスは「……それは構いませんが、何故ですか?」と問うと、だって、とアラーナはこう続けた。

「そうしないと、わたしが眠ったあとに、テレンスが床に移動しそうだなって」

「……はあ」

 こういうところはある意味しっかりしているんだなあと、うっかり感心してしまったテレンスだったが──。



「……あの、アラーナさん」

「なに?」

「何じゃなくて……もう少し離れてもらえると」

 壁際に身体を向けたテレンスの背中に、ぴったりとくっつくアラーナ。寝台は確かに一人用だが、流石にここまでひっつくほど、狭くはない。

「……やっぱりわたしじゃ不快? アヴリルなら喜ぶ?」

「アヴリルなら力尽くで引き剥がしていますよ」

 すぱっと答えるテレンス。けれどアラーナは、不機嫌そうに「……ふうん」と呟いた。

「何ですか?」

「何でもない。おやすみなさい」

 それきり、アラーナは沈黙してしまった。頭に疑問符を浮かべながら、テレンスも仕方なく、背中に温もりを感じながら目を閉じた。

(……アヴリルのことは、そんなに簡単に呼び捨てにするんだ)

 胸中で、アラーナはそんなことを呟いていた。テレンスが特別な意味を持ってアヴリルの名を呼んだのではないことは理解していたが、どうにもモヤモヤした。

(……わたし、我が儘だなあ)

 テレンスの背中に、額を当てる。じんわりと伝わってくる、温もりと匂い。

(あったかい……落ち着く)

 人の体温をこんなに近くで感じたのは、いつ以来だろう。言い様もない幸福感に、アラーナはゆっくりとまぶたを閉じた。


 ──一方のテレンスはといえば。

(……この人はっ)

 危機感というものを、これからじっくりと教えていかなければと、心の中で固い決意をしていた。
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