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第七章 ギルドと集団暴走
234 あくじょ?
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儀式をした翌日の朝。コウヤは一人、城の地下、オスロリーリェのいる儀式場に転移していた。
あれから、コウヤの今回の反動が前回と同じ五日ほどになると知った一同は、真剣に、話し合いを始めた。
議題は言わずもがな。
『コウヤと過ごす時間の割り振り』
これだけだ。これだけの議題に彼らは数時間、話し合いを続けた。一体、何のためにここに来たのだったか分からなくなる。
そして決まった割り振りがこれだ。
翌日朝~二日目……王族(王宮)
三日目と各夜就寝中……三神
(王都教会と神界)
四日目朝~五日目……三ばばさまと神官
(ユースール教会)
結局は平等だった。
ただし、各担当でまたお話し合いがあったらしい。コウヤもそこまでは付き合えなかった。というか、普通におネムになって割り振りの途中で寝た。
よって今日、目が覚めてすぐに秘書のような立ち位置になっているらしいリウムに『王宮に行ってらっしゃいませ』と言われてやって来たというわけだ。
まだちょっと寝ぼけている。
《おはよ……う?》
「おはよー、オスロー」
《ん……コウヤ様……カワイイ……》
「ふふ。めせんがちかい」
ちょっと新鮮だった。
《なんか……変。けど……良い……外、待ってる》
扉を開けてもらうと、そこにはニールが待っていた。
「お待ちしておりました。僭越ながら、お運びさせていただきます」
王宮での秘書担当はニールらしい。
「ニールさんっ」
「ニールです。ですが……そのお姿の時はその方が良いと思ってしまいますね……」
「ふふっ、ならニールさん」
「っ、はい。では、失礼いたします」
「うんっ。オスロー、またね」
《……あとで》
「ん?」
後でと言っただろうか。珍しいと思いながら、ニールに抱き上げられて王族の私室へと向かった。
既に騎士達への通達も済ませてあったらしい。
「ほ、本当にお子様にっ……でも、あの大司教様達のご褒美だと思えばおかしくない……」
「なんてっ、なんて可愛いんだっ。きっと天使はあんな姿をされているんだろうなっ」
天使ではなく神ですと言えるはずもなく、コウヤはニコニコ笑ってスルーした。黙らせることに成功したので、満足げだ。ただし、騎士達としては、コウヤの笑顔に撃沈していただけ。実際は流せたわけではなかった。
コウヤが部屋に入ってからも、騎士達はどこかぽやんと、目に焼き付いたコウヤの姿を何度も思い出すのだった。
完全に職務を放り出した騎士達は放っておいて、コウヤが中に入ると、そこには王族が勢ぞろいしていた。今日は自室に半ば監禁中のカトレアまで居たのだ。
「っ、なっ、なんてことっ……わ、わたくしは……っ、なんて罪深いの……っ」
カトレアは思わず立ち上がり、数歩動くと、そのまま床に膝と手を突いた。かなりの衝撃だったようだ。このカトレアに、ミラルファが立ち上がり、腰に手を当てて言い放つ。
「これで分かったでしょう。あなたの罪は重いわ!」
「はい……猛省いたしますっ。終生、この罪を背負って参ります……っ」
重い。
一体これは何だと不思議に思って見下ろしていれば、顔を上げたカトレアが瞳を潤ませ、口元を両手で覆う。
「っ、可愛い……っ、可愛い過ぎるっ……」
「あれ?」
どこかで見たことあるなと、何気なくシンリームを見る。
同じ顔をしていた。
「やっぱり可愛い……っ」
「えっと……?」
首を傾げて見せれば、揃って何かに貫かれたようにビクリと肩を震わせ、目を丸くしていた。
親子だなと感心する。
「さあ、ニールだったかしら? コウヤさんを預かるわ」
「……承知しました」
ニールはどこか残念そうに、ミラルファへコウヤを手渡した。離れていくニールに、コウヤはきちんとお礼を伝える。
「あ、ニールさん、はこんでくれてありがとう!」
「っ、こ、光栄ですっ。お呼びとあればいつでも参ります!」
「うん! おしごとがんばってね」
「速攻で終わらせます! 失礼いたします!」
朝からものすごく元気だなと、コウヤはミラルファに抱かれながら、呑気にニールを見送った。
すると、ミラルファが笑った。何かを企むような、そんな笑いだ。
「ふふふ……さあ、コウヤさん。お祖父様とお父様、シンリームにも同じようにお仕事とお勉強頑張ってと言ってあげてちょうだい」
「ッ、ミラ!? わ、私もコウヤとっ」
「母上!?」
「っ……ま、まさか……」
アビリス王達は慌てた。ちゃっかりアルキスだけはアビリス王達から離れ、クスクスと笑っているイスリナとその足下でずっと目を丸くしているリルファムの傍に避難する。
「昨日半日空けた分がありますもの。お仕事頑張ってくださいな。ほら、カトレアも部屋に戻りなさい」
「っ……はい……」
カトレアは絶望したようにゆらりと立ち上がり、部屋を出て行く。けれど、そんなカトレアにコウヤがすかさず声をかけた。
「あ、カトレアさん。あとでおへやにいってもいいですか? つくってほしいものがあって」
「わ、わたくしに!? は、はい! もちろんです! いつ頃おいでに!? 今からなら……お昼過ぎには今日の分まで片付けますわ!」
「ムリしないでも……」
「無理じゃありません!」
「ふふ。なら、おひるすぎに」
「はい! お待ちしておりますわ!」
一変してスキップさえしそうな程ご機嫌に部屋を飛び出して行った。
「……コウヤさん……凄まじい効果ね。さあ! お祖父様達にも引導っ……激励をしましょう」
振り返ると、アビリス王達は今から断罪されるのではないかというほど青ざめていた。これは大丈夫だろうかとミラルファの顔と見比べ、根負けした。
「えっと……おじいさ……」
「っ……」
罪悪感が半端ない。そこで思いついた。ユースールで三歳児になった時に、冒険者達に懇願されたお見送りの言葉。これを聞いたらやる気が三倍出ると言われてやった。実際、三倍以上の成果を出したため、最終日までやることになったサービスだ。
「じいじ、おしごとがんばってね!」
「っ、ふわっ!? じい、じいじっ……じいじは頑張るぞぉぉぉ!!」
「え? 父上!?」
アビリス王はいつかのタリスのように、執務室に猛然と駆けて行った。騎士達が置いてきぼりをくって慌てていた。
今度は信じられないという表情で呆然と父親を見送っていたジルファスに声をかける。
「んんっ、ぱ、パパ……おしごといってらっしゃい。はやくかえってきてねっ」
「ッ、すぐに! すぐに終わらせるから! パパを待っててね!」
そして飛び出していくジルファス。人が変わったようにしか見えず、イスリナさえポカンとしていた。
最後はシンリームだ。これは慣れている。何と言っても、お兄ちゃん呼びで送り出して欲しい冒険者は意外といたのだ。
「シンおにいちゃんっ。おべんきょうがんばってねっ。おわったらあそんでほしいなっ」
「っ、っ、っ、お兄ちゃん頑張るから! 明日の分まで進めるから! いっぱい遊ぼうね!」
「ん。いってらっしゃ~い」
「行ってきます!」
とっても爽やかに勉強に向かった。お見送り完了だ。ちょっと楽しかった。やり切ったというように額を拭う。そこで残ったアルキスに目を向けた。
「アルキスさまもする?」
「っ、いやいや、しなくていい。可愛いなあっ、もう! お前はどこの悪女を目指してんだよっ。びっくりするわ」
「あくじょ? これは、まえにちいさくなったときに、ユースールではやったおみおくりサービスだよ?」
「……ユースール……案外、バカが多いのか? 俺が見たのは一部か? マジで凄いのかアホなのか分からん……」
それから、ようやくリルファムが近付いてきた。
「コウヤにいさま?」
「はい! でんか! きょうはあそびましょうねっ」
「っ、うん!」
あっさりこのコウヤを受け入れる。リルファムは大物になりそうだというのは、見ていた大人達の感想だった。
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読んでくださりありがとうございます◎
二日空きます。
よろしくお願いします◎
あれから、コウヤの今回の反動が前回と同じ五日ほどになると知った一同は、真剣に、話し合いを始めた。
議題は言わずもがな。
『コウヤと過ごす時間の割り振り』
これだけだ。これだけの議題に彼らは数時間、話し合いを続けた。一体、何のためにここに来たのだったか分からなくなる。
そして決まった割り振りがこれだ。
翌日朝~二日目……王族(王宮)
三日目と各夜就寝中……三神
(王都教会と神界)
四日目朝~五日目……三ばばさまと神官
(ユースール教会)
結局は平等だった。
ただし、各担当でまたお話し合いがあったらしい。コウヤもそこまでは付き合えなかった。というか、普通におネムになって割り振りの途中で寝た。
よって今日、目が覚めてすぐに秘書のような立ち位置になっているらしいリウムに『王宮に行ってらっしゃいませ』と言われてやって来たというわけだ。
まだちょっと寝ぼけている。
《おはよ……う?》
「おはよー、オスロー」
《ん……コウヤ様……カワイイ……》
「ふふ。めせんがちかい」
ちょっと新鮮だった。
《なんか……変。けど……良い……外、待ってる》
扉を開けてもらうと、そこにはニールが待っていた。
「お待ちしておりました。僭越ながら、お運びさせていただきます」
王宮での秘書担当はニールらしい。
「ニールさんっ」
「ニールです。ですが……そのお姿の時はその方が良いと思ってしまいますね……」
「ふふっ、ならニールさん」
「っ、はい。では、失礼いたします」
「うんっ。オスロー、またね」
《……あとで》
「ん?」
後でと言っただろうか。珍しいと思いながら、ニールに抱き上げられて王族の私室へと向かった。
既に騎士達への通達も済ませてあったらしい。
「ほ、本当にお子様にっ……でも、あの大司教様達のご褒美だと思えばおかしくない……」
「なんてっ、なんて可愛いんだっ。きっと天使はあんな姿をされているんだろうなっ」
天使ではなく神ですと言えるはずもなく、コウヤはニコニコ笑ってスルーした。黙らせることに成功したので、満足げだ。ただし、騎士達としては、コウヤの笑顔に撃沈していただけ。実際は流せたわけではなかった。
コウヤが部屋に入ってからも、騎士達はどこかぽやんと、目に焼き付いたコウヤの姿を何度も思い出すのだった。
完全に職務を放り出した騎士達は放っておいて、コウヤが中に入ると、そこには王族が勢ぞろいしていた。今日は自室に半ば監禁中のカトレアまで居たのだ。
「っ、なっ、なんてことっ……わ、わたくしは……っ、なんて罪深いの……っ」
カトレアは思わず立ち上がり、数歩動くと、そのまま床に膝と手を突いた。かなりの衝撃だったようだ。このカトレアに、ミラルファが立ち上がり、腰に手を当てて言い放つ。
「これで分かったでしょう。あなたの罪は重いわ!」
「はい……猛省いたしますっ。終生、この罪を背負って参ります……っ」
重い。
一体これは何だと不思議に思って見下ろしていれば、顔を上げたカトレアが瞳を潤ませ、口元を両手で覆う。
「っ、可愛い……っ、可愛い過ぎるっ……」
「あれ?」
どこかで見たことあるなと、何気なくシンリームを見る。
同じ顔をしていた。
「やっぱり可愛い……っ」
「えっと……?」
首を傾げて見せれば、揃って何かに貫かれたようにビクリと肩を震わせ、目を丸くしていた。
親子だなと感心する。
「さあ、ニールだったかしら? コウヤさんを預かるわ」
「……承知しました」
ニールはどこか残念そうに、ミラルファへコウヤを手渡した。離れていくニールに、コウヤはきちんとお礼を伝える。
「あ、ニールさん、はこんでくれてありがとう!」
「っ、こ、光栄ですっ。お呼びとあればいつでも参ります!」
「うん! おしごとがんばってね」
「速攻で終わらせます! 失礼いたします!」
朝からものすごく元気だなと、コウヤはミラルファに抱かれながら、呑気にニールを見送った。
すると、ミラルファが笑った。何かを企むような、そんな笑いだ。
「ふふふ……さあ、コウヤさん。お祖父様とお父様、シンリームにも同じようにお仕事とお勉強頑張ってと言ってあげてちょうだい」
「ッ、ミラ!? わ、私もコウヤとっ」
「母上!?」
「っ……ま、まさか……」
アビリス王達は慌てた。ちゃっかりアルキスだけはアビリス王達から離れ、クスクスと笑っているイスリナとその足下でずっと目を丸くしているリルファムの傍に避難する。
「昨日半日空けた分がありますもの。お仕事頑張ってくださいな。ほら、カトレアも部屋に戻りなさい」
「っ……はい……」
カトレアは絶望したようにゆらりと立ち上がり、部屋を出て行く。けれど、そんなカトレアにコウヤがすかさず声をかけた。
「あ、カトレアさん。あとでおへやにいってもいいですか? つくってほしいものがあって」
「わ、わたくしに!? は、はい! もちろんです! いつ頃おいでに!? 今からなら……お昼過ぎには今日の分まで片付けますわ!」
「ムリしないでも……」
「無理じゃありません!」
「ふふ。なら、おひるすぎに」
「はい! お待ちしておりますわ!」
一変してスキップさえしそうな程ご機嫌に部屋を飛び出して行った。
「……コウヤさん……凄まじい効果ね。さあ! お祖父様達にも引導っ……激励をしましょう」
振り返ると、アビリス王達は今から断罪されるのではないかというほど青ざめていた。これは大丈夫だろうかとミラルファの顔と見比べ、根負けした。
「えっと……おじいさ……」
「っ……」
罪悪感が半端ない。そこで思いついた。ユースールで三歳児になった時に、冒険者達に懇願されたお見送りの言葉。これを聞いたらやる気が三倍出ると言われてやった。実際、三倍以上の成果を出したため、最終日までやることになったサービスだ。
「じいじ、おしごとがんばってね!」
「っ、ふわっ!? じい、じいじっ……じいじは頑張るぞぉぉぉ!!」
「え? 父上!?」
アビリス王はいつかのタリスのように、執務室に猛然と駆けて行った。騎士達が置いてきぼりをくって慌てていた。
今度は信じられないという表情で呆然と父親を見送っていたジルファスに声をかける。
「んんっ、ぱ、パパ……おしごといってらっしゃい。はやくかえってきてねっ」
「ッ、すぐに! すぐに終わらせるから! パパを待っててね!」
そして飛び出していくジルファス。人が変わったようにしか見えず、イスリナさえポカンとしていた。
最後はシンリームだ。これは慣れている。何と言っても、お兄ちゃん呼びで送り出して欲しい冒険者は意外といたのだ。
「シンおにいちゃんっ。おべんきょうがんばってねっ。おわったらあそんでほしいなっ」
「っ、っ、っ、お兄ちゃん頑張るから! 明日の分まで進めるから! いっぱい遊ぼうね!」
「ん。いってらっしゃ~い」
「行ってきます!」
とっても爽やかに勉強に向かった。お見送り完了だ。ちょっと楽しかった。やり切ったというように額を拭う。そこで残ったアルキスに目を向けた。
「アルキスさまもする?」
「っ、いやいや、しなくていい。可愛いなあっ、もう! お前はどこの悪女を目指してんだよっ。びっくりするわ」
「あくじょ? これは、まえにちいさくなったときに、ユースールではやったおみおくりサービスだよ?」
「……ユースール……案外、バカが多いのか? 俺が見たのは一部か? マジで凄いのかアホなのか分からん……」
それから、ようやくリルファムが近付いてきた。
「コウヤにいさま?」
「はい! でんか! きょうはあそびましょうねっ」
「っ、うん!」
あっさりこのコウヤを受け入れる。リルファムは大物になりそうだというのは、見ていた大人達の感想だった。
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