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 目を覚ましてから一時程経った頃、ギルマスが訪ねて来たから、ドラゴンの涙を全て渡すとニコニコと効果音が聞こえそうな笑顔になった。……ニコニコなんて可愛いものじゃないわね。どこか悪どいわ。それより……

「ねぇ、私達の家の事なんだけど」

「家がどうした?」

「何時までも団長さんの所にお世話になる訳にはいかないわ。新しい家を買いたいのよ」

「おー、忘れてた。家の売買の件は大家の息子の独断だったみてぇだ」

 急に言われて驚いたが、ボッタクリされた訳でなく、単に私に因縁をつけたいだけだったらしい。バカじゃないのあのクソ息子。昔から嫌がらせしていたけど、家を追い出そうとするなんて。

「どうする?」

「何がよ」

 端的な言葉は意味が分からず聞き返すと、息子を訴えるか改めて聞かれた。大家さん夫婦も謝ったらしい。勝手な事をして悪いが丁度、奥さんが病気になってお金が必要だったから私に家を売った言ったとか。理由を聞けば納得したし、今更どうしようとも思わなかった。家は壊れたしあのクソ息子と関わりたくないのよね。

「どうもしないわ。それより早く新しい家を探したいわ」

「早くって言われてもなぁ……あの土地に建て直ししたら良いじゃないか」

「建て直しなら完成に三ヶ月かかるじゃない。その間、住む所や荷物をどうするのよ」

 壊れた家から回収した荷物の中で、家具はギルマスが修理に出してくれたらしいけど、服だけでも三人分の荷物はそれなりの量がある。

「ギルドの倉庫で預かるぞ。今回は緊急事態だったからな」

「助かるわ。あとは建て直しなら完成するまで何処で暮らすか決めなくちゃいけないわね」

「ここで良いだろう」

 ポロッと漏らした呟きに、ギルマスはバカな事を言っている。家主は貴方じゃないでしょうが。勝手に決めない。それに……

「ここにいたら団長さんに迷惑じゃないの。マーシャの夜泣きも治まってはいるけど心配だわ」

「それこそマークに直接聞け。アイツはそんなこと考えちゃいねぇよ」

 ギルマスが笑いながそう言うと、ドラゴンの涙で豪邸が建つとがどうするか聞かれた。豪邸なんて管理が大変なだけじゃないバカじゃないの。シンプルで良いわよ。

「前と同じ間取りで良いわよ。先ずはどっちにするか家族で相談するわ」

「大工を頼むのはちょっと待ってろ。瓦礫の片付けが終わってねぇ」

 そう言われるとどうしようもないわね。私はため息と共に了承した。ギルマスが帰った後、入れ違いで兄妹が帰って来た。私が玄関で出迎えると、妹に突撃される。マ、マーシャ……今のは痛いわ。

「お姉ちゃんのバカ!バカ、バカ、バカ!」

「マーシャ」

「何度も倒れて!私達がどれだけ心配したと思ってるのよ!」

 苦しいくらいの力でお腹に抱きつく妹の頭を撫でる。妹が落ちついてから部屋に移動すると、昨日の事を二人に説明した。

「お姉ちゃん、ドラゴンと友達になってたの」

「主従契約って言うのをすると何が変わるの?」

 呆れ顔の妹と首を傾げる弟。対照的な反応が可愛くて、私はニヤケてしまう。あー、うちの兄妹は最高に可愛いわ。

「姉さん、変なこと考えていないで教えてよ」

 弟の鋭いツッコミを咳払いで誤魔化してから、私は団長さんから聞いた話をそのまま話した。知能の高い魔物に名前をつける事で主従契約する事が出来る事。名前をつけるだけでは不充分な事。明日、魔術師さんも一緒に森に行ってどうするか決める事。全ての話を聞いた妹は無反応だけど、弟の様子が可笑しい。徐々に青ざめた表情に変わり頭を抱えてしまった。

「姉さん、僕も主従契約したかも」

「「え!?」」

 頭を抱えて俯く弟の横で、私と妹は顔を見合わせる。えーと、私が慌ててはダメね。まずは……

「契約の相手は?」

「真っ白い狼みたいな魔物。首都の外れの森の中の泉で怪我していたのを助けたんだ」

 ゆっくり顔を上げた弟は、学校の野外授業で森に入った時に出会ったのだと言った。あの森の中に泉なんてあったかしら?しかも白い魔物はこの辺りでは聞いた事がないわね。亜種かしら。

「最初は白い犬が怪我しているかと思って手当てしたんだよ。そしたら頭の中に声が聞こえて、お礼を言われて名前をつけてくれって」

 段々と声が小さくなる弟の手を握ると、弾かれる様に顔を上げた。

「その子は今、何処にいるのかしら?」

「森の泉にいると思う。何時でも呼べば来るって言ったよ」

 明日、団長さんに確認するまでこの件は保留にして、重くなった空気を変えたくて新しい家の話をした。

「家を建て直しするか新しく買うか」

 唸り声を上げて考える弟の横で妹はどちらも嫌だと言い出した。理由を尋ねれば、このまま団長さんの家に住みたいと言う。ちょっとそれは無理よ。

「だって、ここならお姉ちゃんも家にいるし一人じゃないもん」

「マーシャ、ここは団長さんの家で私達は居候よ」

「……うん、分かってる。でも、この家が楽しいしの」

 肩を落とす妹を見ると掛ける言葉が見つからない。ギルマスが夜泣きの原因が寂しさだろうと言った事を思い出した。やっぱり寂しかったのね。

「僕は建て直しが良いと思う。学校も治療院も近いからあの場所は便利でしょう」

「そうね……やっぱり建て直しの方が便利よね」

「その間だけでも、ここにお世話になれないの?」

 弟の意見は正論で反対出来ない。でも、私の心の中では早くこの家を出て、団長さんと距離を取りたかった。でも、二人の為にはここで新しい家が完成するまでお世話になった方が良いのも分かってる。

「それは聞いてみないと分からないわ。今日は無理でも明日には聞いてみるわね」

 私の返事に二人は納得したのか大きく頷くと、宿題や訓練を始める。そんな二人を見ながら私はため息が出た。


 団長さんになって言えば良いかしらねぇ。

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