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【番外編】私のお父さんとお母さん
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しおりを挟む大学の後期授業が始まって数日が経ったある日、私のスマホにお母さんからのメッセージが突然届いた。
「えっ?! 嘘っ!!」
いつものように4人でお昼ご飯を食べ終え、次の教室に向かおうとしてる最中に届いたそのメッセージは私を驚かせて……
「どうしたの朝香?」
「私のお母さん、今夜テレビに出演するみたい。『純喫茶の美味しいオムライス』ってテーマで! このバラエティ番組に!!」
「「「ええええええ??!!! 超人気番組!!!!」」」
私が見せたメッセージアプリのトーク画面に記されているバラエティ番組名に、りょーくん真澄藤井くんが大声を出し、驚きが伝播していく。
「それ、録画予約しないといけないヤツじゃん!! むらかーさんすげー!!!」
「いや、朝香の口から『実家が喫茶店』とか『オムライスが人気』とか聞いてたけど、全国ネットの人気番組に出演しちゃうくらい凄いなんて!!」
「俺、今日のバイト休みたい!! 村川さんとリアルタイムで観たい!!」
その驚きっぷりと言ったら私の想像を超えちゃってて、学内ではそこまでテンション上げないりょーくんですらこうなってしまっている。
「ダメだよ笠原くんはバイト行かなくちゃ! 放送は21時からだけどどのタイミングで登場するか分からないから録画して一緒に観ようよ」
「うぅ……」
リアルタイム視聴が出来ず悔しがるりょーくんの手を繋ぎながら私は宥め「録画して後で一緒に観よう」と提案しながら教室に向かうと、真澄と藤井くんは和やかな視線を私達に向け同時にニヤニヤをしながら私達の後をついてくる。
「分かった。明日、朝ごはん食べながら一緒に観る!」
「うん♡ 一緒に観よう! ねっ!」
教室に入った段階でりょーくんは納得してくれたんだけど……。
「そういえばテレビって収録だよね? どのくらい前に収録されたのか知らないけど、広島からわざわざこっち来たのならなんで収録日に村川さんと会おうとしなかったんだろ?」
「えっ?」
りょーくんのふとした疑問に私は「そう言われてみれば」と納得する。
あの番組、テーマによっては収録日が放送日の半年以上前ってケースもあるみたいだけど、それでもなんか変だ。
(お母さんの事だから「娘の私の顔が見たい」って気持ちになりそうな気がするんだけど……)
「えー? 逆に裕美さんっぽくない? 義郎さん一人でこっち来るなら、私や朝香ちゃんの様子をテレビ収録終わってすぐに見に来そうだけど」
珈琲店のバイト中りょーくんの疑問点をそのまま伝えたら、夕紀さんは苦笑しながらそんな風に返答してきた。
「確かにお父さんはヤバいくらい子煩悩ですけど、でもお母さんだって私や夕紀さんの事を常々心配してるようなメッセージ入れてくるんですよ?」
「そりゃあ朝香ちゃんの親だし私にとっては師匠だもの! 娘や弟子の心配はある程度するだろうけどさぁ。
でも裕美さんはどっちかというと『静観するタイプ』じゃない? 朝香ちゃんも来月には20歳になっちゃうし『あまり心配し過ぎて干渉してもいけない』って思ってるのかも」
「………確かに」
夕紀さんの冷静な発言を聞いていたら「なるほど」と納得してしまう。
「それに、番組側が収録した事について家族に伝え過ぎないようにとか言ってるのかもよ? あの番組、放送のタイミングを見計らって収録の何ヶ月後ーとか半年後ーとか平気でやるじゃん」
「それもそうですよね……」
「心配し過ぎるのも親心だし、静観しておくのも親心なのよ。
……まっ、私はそういうのはまだよく分からないけどさっ!」
「親心……」
夕紀さんが急に「親の気持ちはまだよく分からない」と自虐してきたから私は思わず黙りこんでしまったけれど、夕紀さんのその言葉は「取り繕った飾りの言葉」とは思えず、心の中にスッと入っていった。
家庭環境に苦労してきた夕紀さんだからこそ、その言葉はある意味重みを増すし、尚更両親を大事にしようという気持ちにもなる。
「今夜は私も早めに切り上げて初恵さんと一緒にリアルタイムでテレビ観るよ。広島の素敵な喫茶店が全国放送で紹介されるとこ、私も目に焼き付けておかなきゃだしっ♪」
「……そうですね」
兎にも角にも自分の親が全国放送のバラエティ番組に出演するだなんて一生にあるかないかの大イベントだ。
私もリアルタイムで観て、翌朝にりょーくんと観返す事でしっかりと目に焼き付けようって思った。
応援ありがとうございます!
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