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10章 運び屋を護衛せよ
9 歪んだ性癖
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「声は抑える必要ないから、それはいらない。ここは多少声が部屋から漏れても誰も怪しむ奴なんていない」
「でも……」
レネはドプラヴセから布を奪われ混乱している。
「さっき俺の言うことは絶対聞くって言ったろ? それともここでお役御免になるか?」
「嫌だ……」
「じゃあ決まりだ」
「歪んだ性癖だな……」
消毒用の酒をスキットルから小さな小皿に注いで、脱脂綿を酒に浸しながら、ゼラがぼそりと呟く。
「ふん。俺は綺麗な男が苦痛に耐えてる姿を見るのが大好物なんだよ。なあレネ、師匠の背中に鞭の傷跡があるのはお前も知ってるだろ? ありゃあ間違いなく拷問の痕だ。なにがあったか想像するだけでもゾクゾクするぜ……」
背中の傷跡について、ルカはなにも語ろうとしないがだいたい想像はつく。
「下種が……」
自分だけでなく、師匠までも汚された気分になったのだろう、レネが侮蔑の表情でドプラヴセを睨む。
本人は、その猫の様な目で睨まれただけでもドプラヴセが興奮しているとは、思ってもいないだろう。
「お喋りはもういいか? 舌噛むなよ」
忠告すると、ゼラは無表情にピンセットで掴んだ脱脂綿で傷口を消毒しはじめた。
「……くっ……ッッ……」
傷口の中までこじ開けられ、レネのピンク色の唇からは苦痛の声が漏れる。
「我慢せずに声を出した方が気が紛れるぞ」
そう言うとドプラヴセは、苦痛に悶えるレネを、後ろから抱きしめ頬を撫でる。
本人はそれどころではないので、こんなことをしても一切無抵抗だ。
(たまんねぇ……)
血まみれの脱脂綿を空の皿に置き、新たに酒を浸した脱脂綿を傷の中に詰め込みグリグリと中を消毒する。
「……ぐぅ……はぁっ……うっっ……」
レネは歯を食いしばっても、呼吸とともに漏れはじめた悲鳴を止めることができない。
苦痛を我慢するあまり、身体が力んでガクガクを震えが走り、腕の中の身体が脂汗でしっとりと湿ってきた。
ピンク色の胸の飾りも、苦痛のために固く凝っている。
(——食いてぇ……)
目の前に極上の得物がいるが、仕事中なので手を出すわけにはいかない。
痛さで暴れ出さない様に身体を押さえる振りをして、ドプラヴセは美しい得物を腕の中に抱きしめ堪能した。
「……うっ……はぁっ……はぁっ……」
息を止めて声を抑えようとするから、よけいに息が乱れることになる。
ドプラヴセはその様子を見ているだけで、たまらなくなり胸がキュンキュンしてくる。
痛みを我慢する姿を見て、もっと虐めたいような、でも慰めて優しくしてやりたいような、そんな気持ちを行ったり来たりする、困った性癖なのだ。
「良い子だ。もうあと半分縫ったら終わりだぞ」
励ましながら頭を抱きしめ、汗の流れる首筋に唇を寄せる。
どさくさに紛れてやり過ぎかとも思ったが、止められない。
「おい……後ろで盛るな。やり辛い。こっちは真剣なんだ」
とうとうゼラから怒られて、ドプラヴセは後ろの寝台に追いやられるが、視線だけは外さない。
細いがちゃんとある腰の括れのラインが、たまらなく扇情的だ。
ドプラヴセは、まるでお預けを食らった犬のようにその様子を眺めていた。
◆◆◆◆◆
縫い終わり、もう一度アルコールを含ませたガーゼで血の滲んだ傷口をきれいに拭き取る。
怪我したらとにかくこれを塗れと、ボリスから渡されていた塗り薬を傷口に塗り、清潔なガーゼで覆い、包帯を巻いていく。
「よし、終わったぞ」
声をかけるが、レネはグッタリしたまま机に突っ伏している。
悪趣味な雇い主のせいで、声を抑える我慢までしなければいけなくなったので、よけいに消耗しているのかもしれない。
いつもは癒し手がいる環境に慣れているので、リーパの団員たちは長く続く傷の痛みには弱い。
こうやって傷を縫われることも、他の傭兵たちに比べたら少ない方だろう。
だがゼラはそれを悪いことだとは特別思わない。
大きな怪我をすると、痛みを身体が記憶し、同じ状況になったとき恐怖で動けなくなる。
たいていの人間がその恐怖を克服できぬまま、思うように動けず、それが原因で辞めていく傭兵たちも多い。
身体が痛みを記憶する前に癒し手から治療してもらうと、その恐怖が極端に少なくなり、萎縮することなく再び剣を持って戦えるようになる。
リーパはそのせいか、他の傭兵や用心棒に比べると離職率が低い。
ゼラは知っている。
レネの綺麗な身体が、戦いの勲章だと言って自分の傷を自慢するどの男たちよりも、本当は傷だらけなことを。
何度も殺されかけ、それを強さに変え生き残ってきたことを。
誰もそういう風にレネを見てあげないのは、不憫だなと少しだけ思う。
ドプラヴセのようになあからさまな目を、レネに向けてくる男も少なくはないが、鈍感なのでそんな目で見られても気付かない。
あまりにも、無自覚過ぎて笑ってしまうことはあるが、レネはこのままでいいとゼラは思っている。
いちいち気にしていたら、護衛の仕事なんてやってられない。
同じ男の集団にいるのだから、皆と同じにしていてどこが悪い、裸でいたって別にいいだろ、ほっといてやれよと思う。
「おい、この薬を飲んでおけ。熱が出たらやっかいだからな」
来る前にボリスから渡されていた痛み止めと化膿止めの薬を出して、机の上に置く。
癒し手が同行しない時、必ずボリスは心配して団員たちに、傷の手当ができる道具と薬を渡してくれる。
「……うん」
レネは返事をするとゴソゴソと起き出し、まだ浮かない顔で水差しから水を注いで薬を飲んだ。
死体が見つかった時のことも考えて、今すぐこの町を出ることも考えたが、結局馬を休ませないと先へは進めないので、日の出までここで休むことにした。
「でも……」
レネはドプラヴセから布を奪われ混乱している。
「さっき俺の言うことは絶対聞くって言ったろ? それともここでお役御免になるか?」
「嫌だ……」
「じゃあ決まりだ」
「歪んだ性癖だな……」
消毒用の酒をスキットルから小さな小皿に注いで、脱脂綿を酒に浸しながら、ゼラがぼそりと呟く。
「ふん。俺は綺麗な男が苦痛に耐えてる姿を見るのが大好物なんだよ。なあレネ、師匠の背中に鞭の傷跡があるのはお前も知ってるだろ? ありゃあ間違いなく拷問の痕だ。なにがあったか想像するだけでもゾクゾクするぜ……」
背中の傷跡について、ルカはなにも語ろうとしないがだいたい想像はつく。
「下種が……」
自分だけでなく、師匠までも汚された気分になったのだろう、レネが侮蔑の表情でドプラヴセを睨む。
本人は、その猫の様な目で睨まれただけでもドプラヴセが興奮しているとは、思ってもいないだろう。
「お喋りはもういいか? 舌噛むなよ」
忠告すると、ゼラは無表情にピンセットで掴んだ脱脂綿で傷口を消毒しはじめた。
「……くっ……ッッ……」
傷口の中までこじ開けられ、レネのピンク色の唇からは苦痛の声が漏れる。
「我慢せずに声を出した方が気が紛れるぞ」
そう言うとドプラヴセは、苦痛に悶えるレネを、後ろから抱きしめ頬を撫でる。
本人はそれどころではないので、こんなことをしても一切無抵抗だ。
(たまんねぇ……)
血まみれの脱脂綿を空の皿に置き、新たに酒を浸した脱脂綿を傷の中に詰め込みグリグリと中を消毒する。
「……ぐぅ……はぁっ……うっっ……」
レネは歯を食いしばっても、呼吸とともに漏れはじめた悲鳴を止めることができない。
苦痛を我慢するあまり、身体が力んでガクガクを震えが走り、腕の中の身体が脂汗でしっとりと湿ってきた。
ピンク色の胸の飾りも、苦痛のために固く凝っている。
(——食いてぇ……)
目の前に極上の得物がいるが、仕事中なので手を出すわけにはいかない。
痛さで暴れ出さない様に身体を押さえる振りをして、ドプラヴセは美しい得物を腕の中に抱きしめ堪能した。
「……うっ……はぁっ……はぁっ……」
息を止めて声を抑えようとするから、よけいに息が乱れることになる。
ドプラヴセはその様子を見ているだけで、たまらなくなり胸がキュンキュンしてくる。
痛みを我慢する姿を見て、もっと虐めたいような、でも慰めて優しくしてやりたいような、そんな気持ちを行ったり来たりする、困った性癖なのだ。
「良い子だ。もうあと半分縫ったら終わりだぞ」
励ましながら頭を抱きしめ、汗の流れる首筋に唇を寄せる。
どさくさに紛れてやり過ぎかとも思ったが、止められない。
「おい……後ろで盛るな。やり辛い。こっちは真剣なんだ」
とうとうゼラから怒られて、ドプラヴセは後ろの寝台に追いやられるが、視線だけは外さない。
細いがちゃんとある腰の括れのラインが、たまらなく扇情的だ。
ドプラヴセは、まるでお預けを食らった犬のようにその様子を眺めていた。
◆◆◆◆◆
縫い終わり、もう一度アルコールを含ませたガーゼで血の滲んだ傷口をきれいに拭き取る。
怪我したらとにかくこれを塗れと、ボリスから渡されていた塗り薬を傷口に塗り、清潔なガーゼで覆い、包帯を巻いていく。
「よし、終わったぞ」
声をかけるが、レネはグッタリしたまま机に突っ伏している。
悪趣味な雇い主のせいで、声を抑える我慢までしなければいけなくなったので、よけいに消耗しているのかもしれない。
いつもは癒し手がいる環境に慣れているので、リーパの団員たちは長く続く傷の痛みには弱い。
こうやって傷を縫われることも、他の傭兵たちに比べたら少ない方だろう。
だがゼラはそれを悪いことだとは特別思わない。
大きな怪我をすると、痛みを身体が記憶し、同じ状況になったとき恐怖で動けなくなる。
たいていの人間がその恐怖を克服できぬまま、思うように動けず、それが原因で辞めていく傭兵たちも多い。
身体が痛みを記憶する前に癒し手から治療してもらうと、その恐怖が極端に少なくなり、萎縮することなく再び剣を持って戦えるようになる。
リーパはそのせいか、他の傭兵や用心棒に比べると離職率が低い。
ゼラは知っている。
レネの綺麗な身体が、戦いの勲章だと言って自分の傷を自慢するどの男たちよりも、本当は傷だらけなことを。
何度も殺されかけ、それを強さに変え生き残ってきたことを。
誰もそういう風にレネを見てあげないのは、不憫だなと少しだけ思う。
ドプラヴセのようになあからさまな目を、レネに向けてくる男も少なくはないが、鈍感なのでそんな目で見られても気付かない。
あまりにも、無自覚過ぎて笑ってしまうことはあるが、レネはこのままでいいとゼラは思っている。
いちいち気にしていたら、護衛の仕事なんてやってられない。
同じ男の集団にいるのだから、皆と同じにしていてどこが悪い、裸でいたって別にいいだろ、ほっといてやれよと思う。
「おい、この薬を飲んでおけ。熱が出たらやっかいだからな」
来る前にボリスから渡されていた痛み止めと化膿止めの薬を出して、机の上に置く。
癒し手が同行しない時、必ずボリスは心配して団員たちに、傷の手当ができる道具と薬を渡してくれる。
「……うん」
レネは返事をするとゴソゴソと起き出し、まだ浮かない顔で水差しから水を注いで薬を飲んだ。
死体が見つかった時のことも考えて、今すぐこの町を出ることも考えたが、結局馬を休ませないと先へは進めないので、日の出までここで休むことにした。
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