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10・11月篇
10・11月篇第1話: お土産を期待されすぎて困ってます
しおりを挟む「ユウくんユウくん」
「んー?」
エリカちゃんがグイグイ来た。
「なんかさ、今日の荷物めっちゃ少なくない?」
「あ、気付いた?」
「そりゃーねー」
うんうんと肯くエリカちゃんに、こっそりとルミもいっしょになって肯いている。
10月もそろそろ終わろうとするころ。私鉄沿線のイチョウ並木はすっかり黄色くなっていた。ここの並木道に植えられているのは実のならないイチョウだけなので、いろいろと助かる。
「明らかにカバンがぺったんこなんだもん、すぐわかるって」
「っていうか、ユウイチはいっつも荷物が多すぎるんだよ」
シュウスケが呆れたように吐き捨てた。そういう自分はどうなんだ、と今一度シュウスケを見直す。部活の道具はともかくとして、勉強道具が入っていると思われるカバンは軽そうだ。――というかそのカバン、弁当以外に何か入ってんのか? 大半空気じゃないのか?
「しゃーないだろ。これでも結構な分量置き勉してんだぞ?」
「……学校が違えばこうも違うか?」
それは大体合ってはいるのだが、根本的な認識の部分では大間違いだった。さすがに訂正しておく。
「それは学校の違いじゃなく授業態度への違いじゃねーの?」
「うっせーうっせー。朝から説教はご勘弁だ」
言いながらシュウスケは歩く速度を上げていった。そんなことだろうと思ったよ。そっち方向もやれば出来るヤツだが、あまりやろうとしないところも相変わらずだった。
「それで? 何でそんなにカバン軽そうなの?」
「今日は昼で終わりなんだよ」
「そうなの?」
「っていうか、言ってなかったっけ?」
ここ最近の登校中の会話を思い出してみるが、だいぶ前にしたような気がするレベルだった。記憶が定かじゃない。本当に話をしていたとしても、それは恐らく学校の方でその話が持ち上がり始めたころのことだろう。
「明日から見学旅行なんだよね」
「あ、そっか!」
「そんな時期だったっけ。そういえば10月末からだ、って結構前に言ってたわね」
「……やっぱ言ってたか」
「え、うそ。もしかして、自分が言ってたかどうか忘れてたの?」
「……よくお分かりで」
ルミはこういうとき鋭い。困ることもあるけど、こういうときだとちょっとありがたかったりする。
「いろいろやりすぎてて、アタマの整理できてないんじゃないの?」
「おっしゃるとおりです」
「なに? 委員か何か任されてるとか?」
「……とてもよく、お分かりで」
本日2度目。今度はエリカちゃん。
見学旅行実行委員のひとりにはなっている。各クラス男女各3人ずつということで、わりと選出率は高い委員だ。ぼけーっとしている間に他薦の被害にあってしまい、こういうことになった。
「ご苦労なこった」
「お前はそういうのやらんの?」
「やるわけがない」
「だよなー」
知ってた。他薦も何だかんだで回避してたよな。全部こっちに吹っかける恰好で。
「何処行くんだっけ?」
「京都・奈良・大阪メイン。広島にも行くかな」
「結構広いねえ。日程は?」
「4泊5日。広島1泊で、あとはずっと京都」
「そっかそっかー……」
ニコニコ顔で頬に指をあて、何やら考え始めるエリカちゃん。その隣を見ればルミも同じようなポーズで考え込んでいる。――幼なじみだなぁ、なて思ってしまう。ちょっと面白い。
「それにしても、そっちは2年生でやっちゃうんだね。修学旅行」
「……そういえば、ふたりのとこも、シュウスケんとこも来年だっけ?」
「俺は4月」
「こっちは3月だよね?」
「そう」
見事に3校バラバラだった。
「この前調べたら、最近の高校の修学旅行のトレンドは2年生の秋らしいぞ」
「え、そうなの?」
「調べて初めて知ったけどね、僕も」
「そーなんだ。……でもココの4人だったら、2年の秋が逆に少数派よね」
そうなのだ。
そもそも、他の3人は私立校で、僕だけが公立校通い。その辺も比率が一般とは違ってくる要因なのかもしれなかった。
「世間一般と俺ら一般は違う、ってことか」
「ある意味、斬新かもな」
そう言いながらユウイチは笑った。
「ああ、そうだそうだ。コレも訊かないといけないんだった」
「なに?」
「お土産、何がいいかなぁ、って。何か欲しいものとかあったら、ぜひぜひリクエストを」
かなり重要なことをまで忘れてしまっていた。これを訊いておかないと落ち着いて旅立てないじゃないか。できたらこいつらの希望するモノをプレゼントしたいと思うのは、人情だろう。
「えー、何が良いんだろ? 京都でしょー?」
「メインはね。ウチのクラスもグループも、大阪には行かないプランだから」
一応広島と奈良もあるが、そちらはしっかりとお土産をチョイスしたり、街に繰り出したりするような時間はあまりないのだ。
「私はねー……」
ルミは、何か希望がありそうな感じだが――。
「……んー、ユウイチのセンスに任せるっ」
満面の笑みで言い放った。
なるほど、そのパターンかよ。
それはただの丸投げなんだけど。困るのはこっちだけなんだけど。
「あ、だったら私もそれー」
ウソでしょ。乗っかるの?
「だったら俺も」
「息ぴったりだな、お前ら」
「期待してるわよ?」
期待のされすぎは本当に困る。こういうときには幼なじみであることを恨むぞ。
「だったら、お前らの修学旅行土産も期待してるからな。今から」
「安心しなさい? 私たちはふたりで考えるから」
「ねー」
「あ、ずるいぞお前らっ!」
シュウスケが僕の気持ちを代弁するような絶叫を並木道に響かせた。たしかに、ルミとエリカちゃんは同じ学校だから当然日時も行き先も全く同じなわけだが。
「……な、なあユウイチ。お前、エリカたちに何あげるのか、後で俺に」
「ヤだ」
「なんでだよっ」
「なんでだよ、じゃねーよ。それこそ、お前のセンスを見せつけてやれよ」
「ムリだ……」
そもそもルミたちに乗っかろうとした罰だ。それくらい甘んじて受け入れなさい。
そんな具合にシュウスケの縋る手を適当に払いのけたところで。
さて――。
どうしようか。
シュウスケに渡すものなんか、食い物と何かネタになりそうなモノ――とくにアイツの部活仲間にもウケの良さそうなモノ――でいいのだけれど。さすがに女の子受けのしそうなものは、どこかで訊くか調べるかしておくべきかもしれない。
――どっかに女子力の高そうなヤツとか、いないかな。身近なところに、というかウチのクラスに居そうな気もしているが。
「ねえねえ」
「ん? やっぱ何か希望とかあるのか? ……あぶらとり紙とか有名だよな、そういえば」
「ベタなのも悪くないけど、ユウイチらしいのをお願いするわ。……って、そうじゃなくてね」
違うのか。
「最近さ、あのふたり、ちょっとおとなしくなったと思わない?」
「……言われてみれば、って言いたいけど。そうでもないんじゃないか?」
別段変わったようなところもない。シュウスケは時々ふざけるし、エリカちゃんは基本明るいし。とくに何も――――。
「あ、そういうことか?」
「解った?」
「夫婦喧嘩率は、下がったな。たしかに。言われてみれば」
「でしょ?」
ここしばらくは、たしかにおとなしいと思う。ご近所迷惑になるような声量にもなってないし、行きの電車でパーソナルスペースが極端に狭くなることもない。いつからだろうかと考えれば、それこそ、紫苑寺学園の学校祭の2日目に一頻り大暴れして青木くんごとお叱りを受けたあの時から。
「あの後って何かあったの?」
「いやー……、ルミが知らないならたぶん僕も知らないな」
「そっか」
でも、何か進展があったようには見えないわけで。
だったら、何か――。
――僕がこっちにいない間に。
「ルミ?」
「何?」
「……留守は任せたからな」
「え? ……あ」
お土産のチョイスよりも大事なことが、ひとつ出来た。
ルミ。悪いけど、しばらくの間、ひとりでがんばってくれ。
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