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26・公爵、愛がゆえに。
01マーク・リングストン。
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僕、マーク・リングストンはこの国の公爵位を持つ貴族である。
リングストン家はこの国の三公爵家の一つで、教会派の筆頭だ。
まあ色々と発展派の婚約者のことや、最近暗殺されかけたことやら、話したいこともあるのだけれど、残念ながら僕は今それどころじゃない。
どうやら僕は、何者かに拉致監禁されてしまったようなのだ。
ある日、いつものように自室に籠り教会関連の金の動きや権利の精査や会合などの準備を行っていると。
突然、目の前が暗くなり気づけば僕は口を塞がれ椅子に縛られていた。
後頭部が少し痛い、後ろから殴られたんだろう。
おかしいだろ、あの部屋は入口に護衛を付けて窓を塞いでドアも開いてないし誰の気配も感じなかった。
怪奇現象だ。
まあ犯人の心当たりはありすぎる。
僕は現在この国をひっくり返して安寧を得るために発展派と手を結んでいる。
第一候補として、王族や中立派の刺客だろう。
というか第一候補じゃなくてもうほぼこれしかないまである。
一応第二候補とするなら、発展派と手を結ぶことを快く思わない教会派内部の犯行の線もある。
父である前リングストン公爵は尊敬しているものの若く頼りない僕には懐疑的に思う者も少なくない。
王族の刺客なら僕が生かされているのは少し不自然だ、狙撃するようなところまで露骨に命が狙われているのにこの期に及んで拉致監禁するのところだけ考えると教会派内部の犯行とも考えられる。
どちらにしても手口が怪奇現象過ぎるのは一旦いいとして、とにかく脱出を試みようにも手足はガチガチに縛られていて動けない。
せめて話の通じる者が現れてくれれば。
そう思ったところで。
「あ、お目覚めですね。マーク・リングストン公爵、おはようございます」
混乱する僕に声がかかる。
部屋が暗いので顔が見えない……、何者だ?
若い女性の声……、聞き覚えがあるような……。
「申し訳ございません、お話というより一方的な要求になりそうだったので手っ取り早く攫わせてもらいました」
声の主は続けてそんなこと言う。
手っ取り早くって……、公爵って一応この国で王族に次いで偉い肩書きなんだが……無茶苦茶だ。
父を殺めた裏の組織とやらの仕業か……? 無茶苦茶過ぎる行動原理の割に手口や犯行は鮮やかすぎる、なんなんだ? このアンバランスさがむしろ怖い、狂気じみている。
「まあ返事も出来ないと思いますが、一方的に要求を突きつけますね。この国の民主化運動から直ちに手を引いてください」
声の主は本当に一方的にそう言い放った。
まあ要件はそれだろう。
むしろそれ以外で心当たりはないまである、身代金目的なら公爵を選ぶのは流石にリスクが高すぎる。
だが僕はこれには応じられない。
グロリアとの婚姻を成すために、幸せを掴むためには、あらゆる脅威となるものを排除する。
その為にこの国を根本から変えなくてはならないのだ。
「なんか多分グロリアのこと考えてると思いますけど、むしろグロリアと幸せになりたいのであればこんなことやめるべきなんですよ」
僕の心を読むように、声の主は語り出す。
「こんな無理に国を変えるのではなく、王族と交渉して教会派は発展を妨げないが信仰は維持して欲しいと王族側と手を結んで発展派のイニシアチブを王族と一緒に取りに行くべきだったのです。そうすれば発展派はむしろクーロフォード伯爵家というパイプを教会派にくい込ませる為にむしろグロリアを差し出して来たでしょう。今の状況では共犯者として抱き込まれただけです」
淡々と声の主はそう語る。
ん……? グロリアとの婚姻に対しては肯定的なのか……?
王族側に付けというのは凄まじく王族派や中立派らしい言動ではあるが、王族側ならグロリアとの婚姻は妨害したいはずだ。
何者なんだ?
「国を変えたいのであればまずは発展派を乗りこなす方法を考えなくては、思想は過激でも技術力は確かです。王族や中立派と共に逆に発展派を上手く使っていかないとダメですよ。今の貴方は完全に使われてます」
声の主変わらず淡々と続ける。
でもなんか内容が僕に対するダメ出しになってきているような……気のせいか?
「二対二の状態ではなく三対一にして一旦抑え込みで安定を図ってから、グロリアと結婚して他派閥との婚姻が自由に行える世の中を作り、教会派の信仰心や発展派の向上心で国全体の教養を上げる。そうすれば今よりもっと実力社会になっていくので、無能な貴族は淘汰されるか勤勉にならざる得ないようになるでしょう。長期的な話にはなりますが少なくとも遅くても百年でそうなります。その為の一歩目に、変革期の始まりを貴方とグロリアが作るのです。変革そのものを貴方のような若者が起こせるわけないでしょう」
後半完全にダメ出しになった語りを聞く。
「わざわざ内戦を起こすようなことをすれば命を狙われて当然でしょう、このままだったらグロリアだって危険に晒されます。グロリアはアーチさんが守ると言っても限界があるしアーチさんは強いけど最強でも無敵でもない。貴方もグロリアを守りたいのであれば身の振り方をもっと考えなさい。確かに王族は貴方たちは様々な策略を掛けられてきましたが、多少飲み込むことで勝ち取れるものがあることを知りなさい」
ダメ出しを通り越して説教になっている。
え、なんなんだ? 本当に誰なんだこの声の主は。
味方なのか敵なのか、いやまあ拉致監禁されている時点で危害を加えられているのだけれど。
「だから貴方はこの国家転覆から手を引いて、まだ間に合うから王族との交渉の席に着きなさい。それに対してなら協力を惜しみませんから」
今度は諭すように再度要求を述べる。
協力を惜しまない……? それに対してはって何かの協力は断ったことがあるのか……?
「……というか、もしかしてまだ気づいてないのですか? 私が誰なのか」
そう言って声の主は闇の中から現れて。
「ごきげんようマーク様。アビゲイル・バセットです」
アビィ嬢は不敵に、そう名乗った。
リングストン家はこの国の三公爵家の一つで、教会派の筆頭だ。
まあ色々と発展派の婚約者のことや、最近暗殺されかけたことやら、話したいこともあるのだけれど、残念ながら僕は今それどころじゃない。
どうやら僕は、何者かに拉致監禁されてしまったようなのだ。
ある日、いつものように自室に籠り教会関連の金の動きや権利の精査や会合などの準備を行っていると。
突然、目の前が暗くなり気づけば僕は口を塞がれ椅子に縛られていた。
後頭部が少し痛い、後ろから殴られたんだろう。
おかしいだろ、あの部屋は入口に護衛を付けて窓を塞いでドアも開いてないし誰の気配も感じなかった。
怪奇現象だ。
まあ犯人の心当たりはありすぎる。
僕は現在この国をひっくり返して安寧を得るために発展派と手を結んでいる。
第一候補として、王族や中立派の刺客だろう。
というか第一候補じゃなくてもうほぼこれしかないまである。
一応第二候補とするなら、発展派と手を結ぶことを快く思わない教会派内部の犯行の線もある。
父である前リングストン公爵は尊敬しているものの若く頼りない僕には懐疑的に思う者も少なくない。
王族の刺客なら僕が生かされているのは少し不自然だ、狙撃するようなところまで露骨に命が狙われているのにこの期に及んで拉致監禁するのところだけ考えると教会派内部の犯行とも考えられる。
どちらにしても手口が怪奇現象過ぎるのは一旦いいとして、とにかく脱出を試みようにも手足はガチガチに縛られていて動けない。
せめて話の通じる者が現れてくれれば。
そう思ったところで。
「あ、お目覚めですね。マーク・リングストン公爵、おはようございます」
混乱する僕に声がかかる。
部屋が暗いので顔が見えない……、何者だ?
若い女性の声……、聞き覚えがあるような……。
「申し訳ございません、お話というより一方的な要求になりそうだったので手っ取り早く攫わせてもらいました」
声の主は続けてそんなこと言う。
手っ取り早くって……、公爵って一応この国で王族に次いで偉い肩書きなんだが……無茶苦茶だ。
父を殺めた裏の組織とやらの仕業か……? 無茶苦茶過ぎる行動原理の割に手口や犯行は鮮やかすぎる、なんなんだ? このアンバランスさがむしろ怖い、狂気じみている。
「まあ返事も出来ないと思いますが、一方的に要求を突きつけますね。この国の民主化運動から直ちに手を引いてください」
声の主は本当に一方的にそう言い放った。
まあ要件はそれだろう。
むしろそれ以外で心当たりはないまである、身代金目的なら公爵を選ぶのは流石にリスクが高すぎる。
だが僕はこれには応じられない。
グロリアとの婚姻を成すために、幸せを掴むためには、あらゆる脅威となるものを排除する。
その為にこの国を根本から変えなくてはならないのだ。
「なんか多分グロリアのこと考えてると思いますけど、むしろグロリアと幸せになりたいのであればこんなことやめるべきなんですよ」
僕の心を読むように、声の主は語り出す。
「こんな無理に国を変えるのではなく、王族と交渉して教会派は発展を妨げないが信仰は維持して欲しいと王族側と手を結んで発展派のイニシアチブを王族と一緒に取りに行くべきだったのです。そうすれば発展派はむしろクーロフォード伯爵家というパイプを教会派にくい込ませる為にむしろグロリアを差し出して来たでしょう。今の状況では共犯者として抱き込まれただけです」
淡々と声の主はそう語る。
ん……? グロリアとの婚姻に対しては肯定的なのか……?
王族側に付けというのは凄まじく王族派や中立派らしい言動ではあるが、王族側ならグロリアとの婚姻は妨害したいはずだ。
何者なんだ?
「国を変えたいのであればまずは発展派を乗りこなす方法を考えなくては、思想は過激でも技術力は確かです。王族や中立派と共に逆に発展派を上手く使っていかないとダメですよ。今の貴方は完全に使われてます」
声の主変わらず淡々と続ける。
でもなんか内容が僕に対するダメ出しになってきているような……気のせいか?
「二対二の状態ではなく三対一にして一旦抑え込みで安定を図ってから、グロリアと結婚して他派閥との婚姻が自由に行える世の中を作り、教会派の信仰心や発展派の向上心で国全体の教養を上げる。そうすれば今よりもっと実力社会になっていくので、無能な貴族は淘汰されるか勤勉にならざる得ないようになるでしょう。長期的な話にはなりますが少なくとも遅くても百年でそうなります。その為の一歩目に、変革期の始まりを貴方とグロリアが作るのです。変革そのものを貴方のような若者が起こせるわけないでしょう」
後半完全にダメ出しになった語りを聞く。
「わざわざ内戦を起こすようなことをすれば命を狙われて当然でしょう、このままだったらグロリアだって危険に晒されます。グロリアはアーチさんが守ると言っても限界があるしアーチさんは強いけど最強でも無敵でもない。貴方もグロリアを守りたいのであれば身の振り方をもっと考えなさい。確かに王族は貴方たちは様々な策略を掛けられてきましたが、多少飲み込むことで勝ち取れるものがあることを知りなさい」
ダメ出しを通り越して説教になっている。
え、なんなんだ? 本当に誰なんだこの声の主は。
味方なのか敵なのか、いやまあ拉致監禁されている時点で危害を加えられているのだけれど。
「だから貴方はこの国家転覆から手を引いて、まだ間に合うから王族との交渉の席に着きなさい。それに対してなら協力を惜しみませんから」
今度は諭すように再度要求を述べる。
協力を惜しまない……? それに対してはって何かの協力は断ったことがあるのか……?
「……というか、もしかしてまだ気づいてないのですか? 私が誰なのか」
そう言って声の主は闇の中から現れて。
「ごきげんようマーク様。アビゲイル・バセットです」
アビィ嬢は不敵に、そう名乗った。
応援ありがとうございます!
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