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ふと夢を見た。それは何の変哲もないごくありふれた夢だった。だが、私にとって…その夢はとてつもなく大切なものだったのだろう。今はそんなことしか覚えてはいない。風が記憶を奪い去り、水は身体を産み落とす。小鳥は囀り、私は唄う。「ああ、なんて憂鬱なんでしょう」
ぽつりと呟いた。その声は誰にも届かず、ただ時間だけが過ぎていく。
これは簡単な物語。誰にでもわかり、だが、理解されない…少女の物語。

夢をみた。それはなんでもない夢。
「ああ、私はいつ眠ってしまったの…」
まだ眠気が脳裏を襲う。それは意地の悪いことに凶悪だ。
「今は西暦何年なんだろう…こんな事なら時計を持ってくるべきだった。ひとまず、状況を整理しましょう」
そこは木造の部屋だった。周りには家具はなく、あるとしても時計が1つかけてある。時計としての機能はもうない。そんなものは時計とは言えない。ただの飾りものにすぎない。大きな窓もひとつある。家具はまともにないのに窓だけは一端に豪勢なものだ。窓からは日光と小鳥の囀りだけが流れ込む。
「やっと目覚めましたか。心配しましたよ。」気がつくと、黒い正装を身につけた神父らしき男が立っていた。その声は不思議にも何か惹かれるものを感じた。
「私をここに連れてきたのは貴方?」
「いいえ。私は貴方の身の回りのお世話を任されました。名前をクトリと申します。」
「任されたと言いましたね。なら私をここに運び、貴方に命令を出したものはどこにいるのですか?」
彼は頬をかいて悩みつつも答えました。
「その方は今は出かけております。」
「なら、いつその方と会えるの?」
「申し訳ありません。それは私にもわかりません。」ほっとため息をつき、彼女は窓に手をかけて外界をみる。外の風景は彼女が知っているものではない。人類が築きあげた建物、歴史、文明はほとんど残されていない。そこには文明の上に築かれた自然だけが存在していた。
教会は緩やかな坂の上にぽつんと立っていた。
「やっぱり滅んでしまったのね…」
創成は困難だが、破壊は簡単に出来てしまうと昔、誰が言っていたのを思い出した。
「今、西暦何年なの?」
「現在の西暦5000年ぐらいでしょうか…私も定かには覚えていないのです。」
「重ねて質問するわ。今この世界にはどれほどの人類が生存しているの?」
「誰も残ってはいません。」
そうこの世界は刻一刻と終わりを迎えようとしているのだ。それは誰にも止められない。止められたとしても、そこには生きる希望。活力になるものが無いもの。人類が滅んでいい事なんて、騒音が消え、世界が静寂に包まれただけだ。
「じゃあ。生きているのは私と貴方だけになるのね。」終わりが見えたエンドロール。
そんなの楽しくない。せめて、生き残ったなりに足掻く。それが死んでいった人類への愛の形だから。
「貴方、いいえ。クトリ。私にもできることを教えなさい。」
「承知致しました。まずはお召し物をご用意させていただきます」
これが私と彼の続きの物語
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