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第5章
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「ストラーニからの書状が届いたよ」
皇宮から帰ってきたルイスがため息と共にそう言ったのは、ブルーノの訪問から五日経った頃だった。
「…何て?」
「十日後に、国王自らが来訪したいそうだ」
「十日後?」
ローズは目を見開いた。
そう親しくない国からの、国王の訪問にしては早すぎる。
「お忍びだから儀式的なものは一切必要ないという事だ。———俺達の事を知って急いだんだろう」
「…十日って…御披露目はその五日後じゃない」
「ああ、まったくタイミングが悪い。…向こうからしたらギリギリ間に合ったと思うんだろうけどな」
「陛下を迎えるの?」
「断るわけにも行かないだろう。向こうの目的ははっきりしてるし、ケリを付けてからローズの御披露目と俺達の婚約発表をしてスッキリさせたいと陛下の意向だ」
「そう…」
「ローズ」
ルイスは両手でローズの頬を包み込んだ。
「まさか、俺よりストラーニ国王の方が良いなんて思ってないよな」
「思わないわ」
「でも〝素敵〟なんだろう?」
「…素敵な方だけど、それだけだわ。他にも素敵だと思う人は沢山いるもの」
「じゃあ俺は?」
ルイスの顔が近づいた。
「ルイスは…カッコイイ?」
「…何で疑問形なんだ」
「どちらかというとルイスは…一緒にいて安心する、とかそういう感じだし…」
「———つまり」
少し考えてルイスは言った。
「君の中ではやはり、俺は〝家族〟なんだな」
「…ダメ?」
「ダメではないけれど…」
「ルイスに抱いているのがどういう感情なのか…正直まだよく分からないけれど」
ローズはルイスの手に自分の手を重ねた。
「私はね、ずっと…私を愛してくれる家族が欲しかったの」
重ねた手に力がこもる。
「オルグレンの家族もアルル殿下も…私の事が嫌いだった。この国の人達だけが、私の事を気にかけてくれたの。だから私はずっと…ここに帰ってきたかったの」
「ローズ…」
「私はここから離れたくない。ストラーニなんて遠い国には行きなくないわ」
ローズは真っ直ぐにルイスを見上げた。
「ストラーニに行きたくないんであって、国王が嫌な訳じゃないんだろ」
「もう…どうしてそういう事言うの?」
ローズはため息をついた。
「キスされた事、根に持ってるの?」
「当然だろう。俺以外が触れたとか許せない」
「だからあの時は……」
「俺に関わりがない所でも、過去の事でも。許せないものは許せないんだ」
「ルイス…」
「本当に、何でもっと早くに自分の気持ちに気づけなかったんだろうな」
ローズを引き寄せると強く抱きしめる。
「自分が一番許せない」
ローズを一度手放す前に気づいていたならば。
辛い思いをさせる事も、他の男に狙われる事もなかったのに。
「———過去は変えられないわ」
「分かっているよ」
「だったら…」
「分かっているけれど。考えてしまうんだ…どうしても」
もしもはないと、分かっているのに。
「ルイスは…私が好きだって、どうして気づいたの?」
しばらくの沈黙の後、ローズが口を開いた。
「———ローズがいなくなってから、心にぽっかりと穴が空いたようになって。何故だろうと考えて…でも分からなくて。スチュアートに言われたんだ」
ふっ、とため息が漏れる。
「それはお前がローズの事を好きだったからだろうって。それでようやく…恋とはこういうものなのかと気づいたんだ。ホント、情けない」
人に言われないと分からないとは。
離れなければ分からなかったとは。
「でも…離れて分かったのなら、離れた事は良かったんじゃないかしら」
ローズは首を捻るとルイスを見上げた。
「私も…多分、ずっと一緒にいたら…ルイスの事はお兄様としてしか見られなかったと思うわ」
「———今は兄じゃないの?家族なんだろ?」
「家族だけど…お兄様じゃないもの。…だって…」
ルイスを見上げる白い頬が赤く染まった。
「お兄様だったら…あんなキスされるのは嫌だもの」
「…へえ?」
知らずルイスの頬が緩んだ。
「あんなって、どのキス?」
「…言えないわそんなの」
「こういうのとか?」
ローズの唇を塞ぐと、すかさず舌を滑り込ませ口内を軽く舐め上げる。
唇を離すと潤んだ瞳がルイスを恨めしそうに見上げていた。
「それとももっと激しいやつ?」
もう一度唇を塞ごうとするとローズは慌てて首を振った。
「ローズ」
視線を背けたローズの頬に口づけを落とす。
「君の存在が国内外に知られるようになったら、ストラーニ王の他にも君を望む者が現れるかもしれない」
頬に手を添え、こちらを向かせる。
「ローズは誰にも渡さない。———奪われないよう、強くなるから」
「ありがとう。…私も強くなるわ、自分の居場所は自分で決めたいもの」
ルイスを見つめてローズは微笑んだ。
皇宮から帰ってきたルイスがため息と共にそう言ったのは、ブルーノの訪問から五日経った頃だった。
「…何て?」
「十日後に、国王自らが来訪したいそうだ」
「十日後?」
ローズは目を見開いた。
そう親しくない国からの、国王の訪問にしては早すぎる。
「お忍びだから儀式的なものは一切必要ないという事だ。———俺達の事を知って急いだんだろう」
「…十日って…御披露目はその五日後じゃない」
「ああ、まったくタイミングが悪い。…向こうからしたらギリギリ間に合ったと思うんだろうけどな」
「陛下を迎えるの?」
「断るわけにも行かないだろう。向こうの目的ははっきりしてるし、ケリを付けてからローズの御披露目と俺達の婚約発表をしてスッキリさせたいと陛下の意向だ」
「そう…」
「ローズ」
ルイスは両手でローズの頬を包み込んだ。
「まさか、俺よりストラーニ国王の方が良いなんて思ってないよな」
「思わないわ」
「でも〝素敵〟なんだろう?」
「…素敵な方だけど、それだけだわ。他にも素敵だと思う人は沢山いるもの」
「じゃあ俺は?」
ルイスの顔が近づいた。
「ルイスは…カッコイイ?」
「…何で疑問形なんだ」
「どちらかというとルイスは…一緒にいて安心する、とかそういう感じだし…」
「———つまり」
少し考えてルイスは言った。
「君の中ではやはり、俺は〝家族〟なんだな」
「…ダメ?」
「ダメではないけれど…」
「ルイスに抱いているのがどういう感情なのか…正直まだよく分からないけれど」
ローズはルイスの手に自分の手を重ねた。
「私はね、ずっと…私を愛してくれる家族が欲しかったの」
重ねた手に力がこもる。
「オルグレンの家族もアルル殿下も…私の事が嫌いだった。この国の人達だけが、私の事を気にかけてくれたの。だから私はずっと…ここに帰ってきたかったの」
「ローズ…」
「私はここから離れたくない。ストラーニなんて遠い国には行きなくないわ」
ローズは真っ直ぐにルイスを見上げた。
「ストラーニに行きたくないんであって、国王が嫌な訳じゃないんだろ」
「もう…どうしてそういう事言うの?」
ローズはため息をついた。
「キスされた事、根に持ってるの?」
「当然だろう。俺以外が触れたとか許せない」
「だからあの時は……」
「俺に関わりがない所でも、過去の事でも。許せないものは許せないんだ」
「ルイス…」
「本当に、何でもっと早くに自分の気持ちに気づけなかったんだろうな」
ローズを引き寄せると強く抱きしめる。
「自分が一番許せない」
ローズを一度手放す前に気づいていたならば。
辛い思いをさせる事も、他の男に狙われる事もなかったのに。
「———過去は変えられないわ」
「分かっているよ」
「だったら…」
「分かっているけれど。考えてしまうんだ…どうしても」
もしもはないと、分かっているのに。
「ルイスは…私が好きだって、どうして気づいたの?」
しばらくの沈黙の後、ローズが口を開いた。
「———ローズがいなくなってから、心にぽっかりと穴が空いたようになって。何故だろうと考えて…でも分からなくて。スチュアートに言われたんだ」
ふっ、とため息が漏れる。
「それはお前がローズの事を好きだったからだろうって。それでようやく…恋とはこういうものなのかと気づいたんだ。ホント、情けない」
人に言われないと分からないとは。
離れなければ分からなかったとは。
「でも…離れて分かったのなら、離れた事は良かったんじゃないかしら」
ローズは首を捻るとルイスを見上げた。
「私も…多分、ずっと一緒にいたら…ルイスの事はお兄様としてしか見られなかったと思うわ」
「———今は兄じゃないの?家族なんだろ?」
「家族だけど…お兄様じゃないもの。…だって…」
ルイスを見上げる白い頬が赤く染まった。
「お兄様だったら…あんなキスされるのは嫌だもの」
「…へえ?」
知らずルイスの頬が緩んだ。
「あんなって、どのキス?」
「…言えないわそんなの」
「こういうのとか?」
ローズの唇を塞ぐと、すかさず舌を滑り込ませ口内を軽く舐め上げる。
唇を離すと潤んだ瞳がルイスを恨めしそうに見上げていた。
「それとももっと激しいやつ?」
もう一度唇を塞ごうとするとローズは慌てて首を振った。
「ローズ」
視線を背けたローズの頬に口づけを落とす。
「君の存在が国内外に知られるようになったら、ストラーニ王の他にも君を望む者が現れるかもしれない」
頬に手を添え、こちらを向かせる。
「ローズは誰にも渡さない。———奪われないよう、強くなるから」
「ありがとう。…私も強くなるわ、自分の居場所は自分で決めたいもの」
ルイスを見つめてローズは微笑んだ。
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