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小話系
同担拒否 2
しおりを挟むこの犬も食わないやり取りを静観していた厚木の秘書である笠井が口を開く。
「蘭さん、中学生なら門限があるのではないでしょうか」
「も、門限…?」
「ええ、あとは公共交通機関を使われた方がよろしいかと」
「!」
早く任務をやっつけるため、清水くんの下校時間に合わせて自家用車でちゃちゃっと近くの商業施設に連れていき、ちゃちゃっと買い物を済ませようと思っていた。まあ清水くんのお母さんには、夏には自家製の蜂蜜レモンを、冬には田舎から送って来たみかんをもらった恩がある。買い物帰りに、飲み物くらいはご馳走してもいいと思っていた。『ウチの子と仲良くしてくれて嬉しいわぁ。わがまま言ったら遠慮なく怒ってやってくださいね』と笑顔で言われ『まぁ買い物くらいなら』と心が動いた。熟女の笑顔に落とされたともいう。
しかし笠井は昨今の世情を鑑みて、清水くんには、帰宅後に着替えてもらい、人の目がある公共交通機関を使って、17時か、せめて18時くらいまでには送り届けたほうが良いとアドバイスした。
「できる気がしません…」
「中学生ならフットワークも軽いでしょうし、余裕ですよ」
確かに、清水くんとゆっくりする必要はないと思いなおす。
「そもそも、なぜお前と靴を買いに行くことになった。母親と行けばいいだろうが」
「クラブ活動で使う靴を選んで欲しいって言われました」
決め手が熟女の笑顔だとは言えない。
「ふん」
「社長…お言葉ですが、中学生に嫉妬されるのはどうかと…」
「うるさい」
「清水くんは、蘭さんの試合を観たことがあるのですか」
「小学生向けの交流会をしたときにいたそうです」
実業団にいた頃の吉継は、命令以外は厚い膜の中をウロウロしているような、なにもハッキリしたものが無い無味無臭の中で生きていた。チームで定期的に地域活動をしていたが、総じて覚えていない。清水くんにプレーを褒められてもなにも響かなかったのだ。最初はそっけない吉継にムッとしていたが、押しに弱いことがバレてしまってからは、いいように転がされている。子どもだと侮るなかれ、清水くんの押しはめちゃくちゃ強くて断りにくい。バックに熟女もいる。
「とにかく、人目のつくところにいろ。誰だろうと二人きりになるな。ソイツともな」
「なぜですか」
「なぜでもだ」
「わかりません。厚木さんはついてこなくていいです」
「さぁな」
厚木は吉継が何を言っても聞き入れない。なにも言えなくなった吉継は、笠井に目で助けを求めた。
「蘭さんのことを心配しているのではないかと。…わかりにくいですが…」
「はあ…?」
吉継はいちいち言われなくても信号は守るし、念の為にスマホも持っていくつもりだ。近くの交番の位置も調べたし、笠井のアドバイスもある。なにも心配されるようなことはない。
「…」
目の前でネタばらしされた上に共感すら得られず、シラけた空気を回収する者もいない。この地獄ような空間で当の厚木は平然と書類に目を通して決裁印を押していた。
木曜日。
清水くんの帰宅時間に合わせ、最寄り駅で待ち合わせる。2つ駅向こうにある大きな商業施設へと向かった。
「蘭さん、帰りに相談したいことがあるんだけどいい?」
行きの電車で清水くんが真面目な顔をしながらそんなことを言う。
笠井の助言を思い出す。
「も、門限に間に合うなら」
「おっけー!大丈夫」
悩みもなさそうな晴れやかさだった。
「蘭さんが使ってたやつあるかな?オススメ教えてよ」
清水くんが聞いてくるが、吉継にとっても砂漠で砂金を探すような気持ちだ。今もクッション性とグリップ力がありそうな靴を履きやすいと思うからそのあたりだろう。しかし大きな靴屋では選択肢が無限にあるに等しい。オススメなどなにもないが、アタッカーだと言うのでミドルカットでサイズのある靴を選ぶ。
清水くんが試しに足を通してみる。「動きやすい」と言って、ぴょんぴょん跳ぶ。気に入ったようだ。
「色は?」
「青…かも?」
「じゃあこれにする!」
青いバレー用の靴を持って、清水くんが会計をしている間、吉継が思い出すのは厚木のことだ。
厚木が本当について来たらどうしようと心配して、昨夜は8時間くらいしか寝られなかった。吉継的に、厚木のキャラはとても子ども向けではない。なにより吉継がクッション材としてうまく立ち回れるわけがない。笠井か山科がいてくれたら話は別だが、初対面の大人を増やしても清水くんに不気味だと思われるだけだ。見渡す限りそれらしい姿はなくて安心した。
笠井の言う通り中学生のフットワークは軽く、17時過ぎには帰られそうだった。清水くんの家の近くに小さな公園がある。色褪せたベンチと小さな滑り台に鉄棒しかないそこは、近隣住民もあまり使わないようで、人気はなくひっそりしていた。
「あそこで話聞いてよ」
「はい」
コンビニでジュースを買う。清水くんは今週の新商品という、派手な色の炭酸ジュースを選んだ。吉継はガリガリする氷菓だ。
ベンチに座って、氷菓を食べる。動いて温まった体が冷えていくのが気持ちいい。清水くんも似たような顔をしていた。
「し、清水くん」
「ん?」
「相談って言っても、俺は多分役に立たないと思う…」
大人としてこんなに情けないことはない。できることなら答えてあげたいが、はっきり言って吉継を相談相手に選んだのは清水くんの人選ミスだと思う。後日、全く同じ相談をもっと頼りになる大人にすることになるだろう。聞く前からわかる。
「蘭さんしか無理だよ」
「え」
清水くんにからかわれているのかと思ったけど、清水くんの顔は真剣で、本当にそう思っているみたいだった。
バレーボールのこと?いや、初対面でバレーボールの話すらまともにできないことは証明済みだ。おおよそ中学生が抱える悩みとは縁が無い。なぜ清水くんが吉継に懐いているのかも謎なのだ。世界広しといえど、吉継にしか無理なことなんてない。誠に残念ながら。
吉継の心中などお構いなしに清水くんが話しはじめる。
「だって蘭さん、Subでしょ?」
「はぁ……え?」
「Subでしょ?」
「は…はい…」
吉継の返事を聞いて、清水くんが距離を詰めてくる。
「だったら俺のパートナーになって!お願い!」
「え…ぇ?」
そんなの無理。
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