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しおりを挟むほんの一ヶ月ほど前まで、月光と再びセックスするとは夢にも思わなかった。
毎度味わう寒々しい気持ちから逃れたくて、乃蒼が一方的に距離を置いたのだから当然と言えば当然だった。
膝裏を抱え上げられて、深く激しく貫かれる。
ぐじゅぐじゅと中を擦られ、容赦なく痛いほど突かれても乃蒼は一切の逃げを見せなかった。
───気持ちいい。
月光に支えられて揺れる度に、あの頃の記憶が蘇ってくる。
なぜなら、月光の癖も、乃蒼の癖も、体を合わせているだけで苦い思い出と一緒に青春のすべてが脳裏に浮かぶのだ。
ベッドで抱き合ったのは数えるほどしかない。
場所はほとんどが学校の空き教室で、月光の唐突な欲に付き合わされていた。
後始末もしてもらった事が無ければ、今日のように愛撫らしい愛撫もされた覚えがない。
女タラシ女たらしのコイツは、乃蒼とセックスした後に校内の彼女と昼休みを過ごすのである。
月光の笑顔は、いつもいつでも乃蒼のものではなかった。
それなのになぜ、切なくなる必要があったのか───。
すぐにあの関係を断ち切れなかった理由を知ってしまった今、心の底から「信じられない」の思いで満ちている。
「……あっ……そこ、そんな……っ……出る……、イきそ……っっ」
「扱いてやろーか。 触んない方がいい?」
「い、いや…っ、触って、触ってほし……っ!」
「どうしよっかな~。 あむっ」
「あっぅ、……も、……っ……んぁッ……ちょっ、噛むなって……!」
噛み癖は変わらないが、月光の腰使いは昔より格段に巧みになっていた。
記憶とは違うその動きが、さらに乃蒼を翻弄する。
激しく突き上げながら乃蒼のものになかなか触れてくれない月光は、透き通るように真っ白な脇腹を躊躇無くガブガブと噛んだ。
思えば、月光はこうして腰を回しながら乃蒼のいいところを突いて啼かせ、満足そうに体のあちこちを噛んできていた。
汗ばみ始めた月光の背中に爪を立てて、ラストスパートと共に自身も射精しようと乃蒼は自らに手を伸ばそうとしていた時だ。
「乃蒼ちゅーしよ」
性器に伸ばしかけたその腕を、月光に取られる。
ゴツゴツしたシルバーのチェーンネックレスが乃蒼の目前に迫り、月光にキスをねだられたが乃蒼は咄嗟に顔を背けた。
「いやっ、ダメ、それは……それはダメ! あぁっ……なんで、っ? 噛むなって、言ってんだろ……!」
「なんで昔っから俺とキスすんの嫌がんの~? 俺まだ一回しか乃蒼とちゅーしてないんだけどー」
「……っ、しなくて、いいっ! キス、嫌い……なんだっ」
「そーなんだ。 じゃあゆっくり好きになったらいいよなぁ~。 乃蒼のキス開発は俺がするー」
開発って何だ、と呟く前に、乃蒼の腰をガシッと掴んだ月光が正常位のまま素早く動き始めた。
乃蒼は自分で膝裏を抱えて、その早過ぎる動きで呼吸を奪われながら喉を枯らしていく。
「あー……いきそ~……」
「んっ……はぁっ、あっ……あぁぁ……っ……」
まるで絶頂の気配が感じられない、余裕たっぷりなのんびりとした声音の後、肌のぶつかる音が激しくなった直後にお腹辺りが熱くなった。
自身で触れるまでも、月光に触れられるまでもなく、乃蒼は射精した。
中出しが好きな月光から注がれた内側も、呼吸で上下する腹の上も、精液まみれだ。
全身から力が抜けた乃蒼がゆっくり月光を見上げると、疲れた様子のない爛々とした目で見詰め返された。
「……乃蒼、俺のになったんだよな?」
「…………たぶん」
「多分じゃねぇよ。 俺のになったって言って~。 てかさぁ、あの頃から乃蒼は俺のだったのに、散々調教されてんだもん。 腹立つー」
「調教!? 調教なんかされてない……」
「なんつーの? 男をその気にさせんだよ~、乃蒼の動き方も啼き方もさ~。 誰かが乃蒼に、そういうの全部躾けたんだろー?」
「も、もういいじゃん。 俺相手が誰だか知らないんだよ。 だから別に気にする事な……」
「はぁ?」
月光が幾度か挿抜を繰り返し、己を引き抜く最中。
身を捩った乃蒼はいたたまれずに訝しげな視線から逃れた。
さっきから月光が調教だの開発だの言っているのは、恐らくこの五年間、乃蒼は同じ人から抱かれ続けてきたせいだろう。
酔っ払っていながら、その男は乃蒼を密かに快楽に溺れさせる術を教え込んでいたらしい。
そんな事まで覚えていられるほど、乃蒼には朧げな記憶しかないのだが。
「ゆるぎの常連なんだろうけど、俺が酔っ払ってる時しかその人現れなくて、たぶんそれ……毎回同じ人。 部屋真っ暗にされてる事多いし、俺は酔っててほとんど覚えてない」
「なんだよそれ~? 変なのー。 でもそいつにはキス許してたみたいだけど?」
「あ、あぁ、そうだっけ……」
「俺ともしようよー。 そいつに負けたくない」
「そう言われても……」と濁す乃蒼は、少しずつ月光から距離を取っていた。
何故だか分からないが、月光とのキスは未だ抵抗があるのだ。
彼に誤解してほしくないのは、拒否する理由が嫌悪感ではないということ。
友達であるからには、そのラインを飛び越えてしまいそうなキスは出来ないと、本人にも当時から何度も伝えていた。
今はもう一つ理由が出来てしまったけれど、それは月光には言わない方が得策だ。
不満そうな月光に、乃蒼はクスッと笑いを漏らしてベッドから立ち上がる。
胸元まで弾け自身の精液と、中から溢れ出てこようとする月光のものを一刻も早く洗い流したかった。
余韻に浸るなど、月光とセックスをする覚悟よりも遥かに高い壁なのだ。
「キスねぇ……酔っ払ってたらいいよ」
「うーわ、逃げやがったなー」
急いでバスルームに逃げ込んだ乃蒼は、月光との行為こそ後悔していない。
しかし、本当にこれで良かったのだろうかという自問自答は尽きなかった。
シャワーに当たりながら、後孔に指を突き入れて注がれた精液を掻き出していると、月光とのセックスで感じた感覚よりも強い懐かしさを覚えた。
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