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第2章
第百七十八話 会合
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ダンジョンから屋敷に戻る時、カラルが誰にも連絡せずに転移魔法陣を展開する。基本的に転移魔法陣はカラルの作った通信指輪を持つ人物の場所にしか行けないようになっている。
「この転移魔法陣の仕組みを教えてくれよ」
「あら、お気づきになられたのね?」
まるで髪を切ったことを気づいてくれた女性かのように喜ぶカラル。らしいといえばらしいかな。
「足元から精気を出して地中を伝って自宅庭にたどり着いてそこで転移魔法陣を受ける準備をして発動しているの」
距離は精気の量と集中力が続けば数百キロ近くまで伸ばすことができるとのこと。近距離の異動とかには便利そうだな。庭でカラルのレッスンを受けて、何度か試しているとコツをつかめてきた。これはなかなか便利だな……。
「ありがとう、カラル……ん?」
通信指輪が震え、応答するとロンダールだった。
「アキト殿、件(くだん)の話、今夜あたりいかがですかな?」
「お~、あの話な……ちょっとまって。カラルこれから出かけるがいいかな?」
「夕飯のことは大丈夫ですが……」
「どうした?」
「今晩はわらわなので……」
「おっ!それは楽しみだな……終わったら連絡するから待っててくれる?」
「えぇ」
「ロンダール、これからそっちに行くよ」
通信指輪で転移魔法を展開し、ロンダールの元にたどり着いた。
どこかのダンジョンの中なのだろう薄暗く、湿った土の香りがする。
俺たちが使っている転移魔法はカラルが開発したもので公的に使用しているところはエソルタ島とカガモン帝国を結ぶ固定の転移魔法陣しか存在しない。そのため人目につくことは避けておく、ダンジョン内の隠し部屋で落ち合う、ロンダールが手をかざすと壁が半分回転して外へとつながる。ダンジョン内に入ると壁は元通りになった。
「ここは第六ダンジョンの一階です、付近に冒険者たちが来ないように人払いの術を施しておきましたので……ささ、こちらです」
しばらくダンジョン内を歩くと地上へ続く階段に差し掛かる。いくつかのパーティとすれ違う。これから夜になるというのにダンジョンに挑むのか……聞くところによると夜にしか出ないモンスターから出るドロップが良かったりするので、このダンジョンに休みはないそうだ。熟練の冒険者だったり、駆け出しの新人のような女の子がいたり、様々だが、表情はみんな真剣だった。
地上に出るとダンジョンの入口を中心に競技場のようなスペースが広がり周りには屋台が多く立ち並ぶ。野球スタジアムの明かりのように魔法で照らし出していて、壁の上の観客席の一つ一つがくっきりと見えるほど明るい。カムラドネと少し気候が違い空気が乾燥していて、暑い。むせ返る熱気の中、屋台を物色する冒険者たちも多くいた。こんなに活気があるのか、さすが千万人都市だ。
このダンジョンは一つのカンパニーで管理をしていて、所属していなければ入場料が必要だが、出るときには記録石(きろくいし)を見せるだけでいい。普通の冒険者のふりをするのも随分と久しぶりのような気がする。
アイテムボックスに入れている間は記録石はモンスターをカウントしない。そのまま出口付近でカンパニーの職員に見せた。
「お疲れ、今回は報酬はだせないが、また来てくれよ」
討伐記録がまったくなかったのを見てカウンターの男は慰めの声をかけてくれる。
「今日のところは様子見だ、また来るよ」と、なれた感じでロンダールは返す。
第六ダンジョンを離れ、ロンダールの案内についていき、活気のある通りの一角にある建物の前で止まる。
一階の半分を飲食店が使用していて、もう半分はは防具やカバンなどの装飾品を扱う店のようだ。ロンダールは飲食店の方にすっと入っていく。
案内を待つ数組の客がいる前を通り店内に入と店員が小走りに寄ってきた。
「おかえりなさいませ、オーナー。お部屋の準備はできてますよ」
え?オーナーなの?
「おう!じゃあ料理を入れてくれ」と軽く手を上げて、俺たちは個室に入っていく。
丸テーブルがあり、部屋に入ると同時に店員たちが料理を持って来る。隅に置かれた小さめの酒樽三つのうちの一つからロンダールが酒を注ぎ渡してくれた。一通り運び終えると店員たちは一礼して去っていく。
「お前の店なのか?」
「ええ、ダンジョンから人の営みを見ていると、このような店舗の経営も楽しそうに見えたもので……、あと三店舗ほど運営しておりますぞ」
まさか店舗経営まで手を出しているなんて……。
「ではさっそく先日のご報告から……」
「ああ、あのあとのゾンヌフの動向が気になってね」
「そうですな……男としては気になるところでございましょう……うぐっ!!」
突然苦しそうにしながらも手かざすロンダール。
「大丈夫か?」と声を掛ける前に魔法陣が展開され、中からカラルが現れる。
「はぁい、驚かせてごめんね、ロンダール。アキト様、わらわも一緒に話をきかせてもらうわ」
傀儡の主人であるカラルが強制的に身体を操作して、魔法陣を展開させたようだ。
「……話って、なんだ、その……アレだよ……」
これからゾンヌフと女エルフ十人との酒池肉林の話を聞こうというのだから当然、俺の歯切れも悪くなる。
「ふふっ、このあとのわらわとのひとときにお役に立つこともあるかもよ……」と耳元で囁かれる。
「この転移魔法陣の仕組みを教えてくれよ」
「あら、お気づきになられたのね?」
まるで髪を切ったことを気づいてくれた女性かのように喜ぶカラル。らしいといえばらしいかな。
「足元から精気を出して地中を伝って自宅庭にたどり着いてそこで転移魔法陣を受ける準備をして発動しているの」
距離は精気の量と集中力が続けば数百キロ近くまで伸ばすことができるとのこと。近距離の異動とかには便利そうだな。庭でカラルのレッスンを受けて、何度か試しているとコツをつかめてきた。これはなかなか便利だな……。
「ありがとう、カラル……ん?」
通信指輪が震え、応答するとロンダールだった。
「アキト殿、件(くだん)の話、今夜あたりいかがですかな?」
「お~、あの話な……ちょっとまって。カラルこれから出かけるがいいかな?」
「夕飯のことは大丈夫ですが……」
「どうした?」
「今晩はわらわなので……」
「おっ!それは楽しみだな……終わったら連絡するから待っててくれる?」
「えぇ」
「ロンダール、これからそっちに行くよ」
通信指輪で転移魔法を展開し、ロンダールの元にたどり着いた。
どこかのダンジョンの中なのだろう薄暗く、湿った土の香りがする。
俺たちが使っている転移魔法はカラルが開発したもので公的に使用しているところはエソルタ島とカガモン帝国を結ぶ固定の転移魔法陣しか存在しない。そのため人目につくことは避けておく、ダンジョン内の隠し部屋で落ち合う、ロンダールが手をかざすと壁が半分回転して外へとつながる。ダンジョン内に入ると壁は元通りになった。
「ここは第六ダンジョンの一階です、付近に冒険者たちが来ないように人払いの術を施しておきましたので……ささ、こちらです」
しばらくダンジョン内を歩くと地上へ続く階段に差し掛かる。いくつかのパーティとすれ違う。これから夜になるというのにダンジョンに挑むのか……聞くところによると夜にしか出ないモンスターから出るドロップが良かったりするので、このダンジョンに休みはないそうだ。熟練の冒険者だったり、駆け出しの新人のような女の子がいたり、様々だが、表情はみんな真剣だった。
地上に出るとダンジョンの入口を中心に競技場のようなスペースが広がり周りには屋台が多く立ち並ぶ。野球スタジアムの明かりのように魔法で照らし出していて、壁の上の観客席の一つ一つがくっきりと見えるほど明るい。カムラドネと少し気候が違い空気が乾燥していて、暑い。むせ返る熱気の中、屋台を物色する冒険者たちも多くいた。こんなに活気があるのか、さすが千万人都市だ。
このダンジョンは一つのカンパニーで管理をしていて、所属していなければ入場料が必要だが、出るときには記録石(きろくいし)を見せるだけでいい。普通の冒険者のふりをするのも随分と久しぶりのような気がする。
アイテムボックスに入れている間は記録石はモンスターをカウントしない。そのまま出口付近でカンパニーの職員に見せた。
「お疲れ、今回は報酬はだせないが、また来てくれよ」
討伐記録がまったくなかったのを見てカウンターの男は慰めの声をかけてくれる。
「今日のところは様子見だ、また来るよ」と、なれた感じでロンダールは返す。
第六ダンジョンを離れ、ロンダールの案内についていき、活気のある通りの一角にある建物の前で止まる。
一階の半分を飲食店が使用していて、もう半分はは防具やカバンなどの装飾品を扱う店のようだ。ロンダールは飲食店の方にすっと入っていく。
案内を待つ数組の客がいる前を通り店内に入と店員が小走りに寄ってきた。
「おかえりなさいませ、オーナー。お部屋の準備はできてますよ」
え?オーナーなの?
「おう!じゃあ料理を入れてくれ」と軽く手を上げて、俺たちは個室に入っていく。
丸テーブルがあり、部屋に入ると同時に店員たちが料理を持って来る。隅に置かれた小さめの酒樽三つのうちの一つからロンダールが酒を注ぎ渡してくれた。一通り運び終えると店員たちは一礼して去っていく。
「お前の店なのか?」
「ええ、ダンジョンから人の営みを見ていると、このような店舗の経営も楽しそうに見えたもので……、あと三店舗ほど運営しておりますぞ」
まさか店舗経営まで手を出しているなんて……。
「ではさっそく先日のご報告から……」
「ああ、あのあとのゾンヌフの動向が気になってね」
「そうですな……男としては気になるところでございましょう……うぐっ!!」
突然苦しそうにしながらも手かざすロンダール。
「大丈夫か?」と声を掛ける前に魔法陣が展開され、中からカラルが現れる。
「はぁい、驚かせてごめんね、ロンダール。アキト様、わらわも一緒に話をきかせてもらうわ」
傀儡の主人であるカラルが強制的に身体を操作して、魔法陣を展開させたようだ。
「……話って、なんだ、その……アレだよ……」
これからゾンヌフと女エルフ十人との酒池肉林の話を聞こうというのだから当然、俺の歯切れも悪くなる。
「ふふっ、このあとのわらわとのひとときにお役に立つこともあるかもよ……」と耳元で囁かれる。
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