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49:3ヶ月の本当の理由
しおりを挟むその時、ノックの音がした。
「旦那様、先ほどローラ様が屋敷を出て行かれました。大奥様は先ほどの騒ぎの際に一瞬部屋から出ていらっしゃったのですが、すぐに部屋に戻られて、体調が悪いと休まれていらっしゃいます」
執事長の声にマストは一瞬険しい顔をした。
「わかった。下がれ」
マストの顔が見えるように涙を拭ったマリーは、どういうことかとマストを見上げる。
マリーの視線に気付いたマストは珍しい苦笑いをした。
「母上には本日はっきりと伝えたのだ。私はもう子供を作るつもりはないから、金を積んで婚約者をいくら連れて来ても金の無駄遣いだと」
マリーは目を見開く。
「……お怒りになられたのではありませんか?」
「ははっ。勿論、怒ったなんてものではない。今寝込んでいるのもそのせいだろう」
何故か楽しそうにマストは言う。
「今までも拒否はしていたのだが、本日ははっきり諦めて貰えるようにキツく言ったのだ。"マリーの次の妻はいない"と」
マリーは再び目頭が熱くなるのを感じながら、マストの顔をしっかりと見ておきたくて涙を堪える。
「ローラ嬢には3ヶ月時間をくれと頼んでいた。その間にローラの実家の事情を調べ、対策を考えた。初期投資と共に仕事を与えること、仕事は3年は取り引きを切らない約束もし、納得をしてもらった。いる必要のなくなったローラは、今日この屋敷を去った。……という訳だ。何か質問はあるか?」
マストはいつもの無表情で、事務的に淡々と言う。
マリーは頭が混乱しているが、綺麗なローラの顔が脳裏で笑っていた。
「……しかし、ローラ様は旦那様を……」
「ローラ嬢から、君に渡して欲しいと手紙を預かっている」
マストは机の引き出しから一通の便箋を取り出し、マリーへ渡した。
受け取ったマリーがジーッと封筒の表書きを眺めていると、マストはもう一度手紙を受け取り、短剣で封を切ってから再びマリーに渡してくれる。
「あっ、ありがとうございます……」
マリーはすぐに、封筒の中から一枚の紙を取り出した。
"マリーへ
私のせいで追い出してしまうことになってごめんなさい。
伯爵様に実家への援助と仕事提供の話をいただき、更にフリージアとリリーの実の母親がマリーであり前妻であることを聞いたわ。
そして、私は伯爵様に全く相手にされることはなかったわ。
ただの一度も。
もう私はこの屋敷にいる理由がないので、去るわね。
マリーやフリージア、リリーとの時間は私の癒しだったわ。
ありがとう。
ローラ"
ローラの失恋にマリーは胸が痛む。
マリーはローラのことが好きだったのだ。
「……ローラ様一家に配慮する準備のための3ヶ月だったのですね」
「ああ、それもある。しかしそれでローラを返した所で、母上は諦めずに次の令嬢を連れて来るだけだろう。だから、マリーに友達になろうと言った」
「えっ? どういう意味ですか?」
マリーは目を見開いてマストへ聞く。
もうずっと、マストは同じ表情で淡々と話している。
「3ヶ月で、マリーに私のことを想って欲しかった」
「えっ!?」
「再び、私と婚姻を結んで欲しかったのだ」
「ぇえっっっ!??」
「マリー、先ほどの君からのプロポーズの答えは"イエス" だ」
あまりの驚きに今度こそ本当に涙が引っ込んだマリーは、胸に温かいものが込み上げて来るのを感じる。
「……!? あっ、ありがとうございます! 今度こそ、諦めません! フリージアとリリーのためにも!」
「ああ、4人で幸せな家族になろう」
マストはフリージアやリリーの前で見せる、優しい笑顔をマリーに向けた。
(この笑顔は……。仰って下さったことは、旦那様の本心なのだわ……)
マリーは我慢出来ずに、マストに再び抱きついた。
勢いよく抱きついたためにマストは少しよろけるも、すぐにしっかりとマリーを抱きしめ返してくれる。
(今回は前回の夫婦だった頃とは違う。ちゃんと想い合っているもの! きっと大丈夫だわ……!)
「旦那様、遠回りをしてしまいましたが、またよろしくお願いいたします」
マリーも愛情溢れる笑顔を返す。
「無駄なことなんてない。遠回りも、私たちには必要な時間だったのだ」
二人は笑顔で強く強く、抱きしめ合ったのだった……
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