浮気な証拠を掴み取れ

望月 或

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3.浮気現場を目撃しました

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 その日を境に、その、頻繁に唇を求められるようになりまして。
 二人きりの時はもちろん、図書室でいつもは正面に座っていたのに、スルリと隣に座り、人がいなくなるタイミングを見計らって隙あらば。
 本を読んでいたら、突然目の前に生徒会長の端麗なお顔が現れるもんだから、驚きの声が放たれる前に唇が塞がれます。お蔭で声が出るのを阻止できてありがた……いやそもそもの原因は生徒会長だった!
 しかも暫く人が来ないと推測すると、深ーいやつしてくるし! 生徒の模範である生徒会長が図書室でそんなことしていいのか? いやよくない!(反語)
 それにいつ人が来るかハラハラドキドキで心臓が持ちません! 生徒会長もそんなスリルを楽しんでいるようで、私の赤くなった焦る顔を見ると「あー……ゲキかわ……。楽し過ぎ」とウットリとした表情でボソリと独り言をこぼして……。

 せ、生徒会長!? “模範”の文字はどこへ消えたの!?


 学校の帰りは、私の用事がある時以外は、ほぼ生徒会長のお家へ連れて行かれて……。
 あ、生徒会長も高校から比較的近くて、防犯設備が整ったマンションで一人暮らしだそうです。その年で一人暮らしなんて、何か事情があるんでしょうね……。もちろん私の方からは訊けませんが。

 生徒会長のお部屋は、必要最低限な生活品があるだけの、良く言えば綺麗に整頓された広いお部屋、少し悪く言えば……寂しいお部屋でした。
 私の部屋なんか、漫画やら小説やらゲームやらその場に大量に散らかっているのに……。何という天と地の差。
 生徒会長って趣味とかあるのかな……。


 生徒会長は私をリビングのソファに座らせると、その隣に座ってギュッと抱きしめてきて、メガネを外されジッと見つめられた後、早速キスをしてきます。
 そして毎回、行為がレベルアップしていってます。昨日は濃厚なキスをされながら制服の上から胸を揉まれ、今日は何と制服の中に手を潜らせて、直接胸を触ってきました……!
 フニフニとその大きな手で全体を揉まれ、私は声が出そうになりますが何とかガマンします。

「うわっヤバ、やっわらか。これマシュマロじゃん。気持ち良過ぎだろコレ……。――ここは学校じゃないから、声我慢しなくていいですよ。我慢している文香さんもすごく可愛いですけど」

 とクスクス笑いながら言われ、学校じゃない安心感から噛みしめていた口が緩みそうに――


 “いや待てよ、壁が薄けりゃ丸聞こえ”(決まった!)


 よってここでも断固拒否!!


 それにしても、こういう行為をする度にあの蕩ける笑顔で「可愛い」と何度も囁くのは止めて頂きたいものです。耳元で響くイケボに心臓が破裂しそうです。

 しかも時々、台詞の最初にサラッと小さく呟かれる言葉……。恐らく無意識かと思うけど、あれが生徒会長の素なのでしょうか。内容は……そのまぁ、大抵アレだけど、年相応の言葉遣いで何となく安心します。

 ……ふぅ。もう、敬語はいいかな。


 こんなことがあるけれど、それ以外は相変わらず本屋や図書館に行ったり、小説を読んだり見つめ合ったりで無言が多い二人で。
 一緒にいるにつれて、こんな私といて楽しいのか? 無理して付き合ってるんじゃないか? そもそも何故私? という疑問がどんどん膨れ上がってくる。

 二人で会うのが学校のある日で、学校が休みの日はデートの約束もなく、土日に会ったことがないのも引っかかる。メールはちらほらしてるけど。
 でも一般の恋人同士とは、そこら辺が明らかに違う気がする。もちろん私からは誘えない。そんな勇気があるはずもなく……。
 そもそも付き合うか付き合わないかの返事してないし……。

 気になっていたけれど、小心者な性格なのと、学校では上手く喋れない私はそれを訊けないまま数週間が経ち――


 そして、ある日の休み時間。
 私の懸念していた考えが、事実となって表れることになる。


「……付き合って頂けますか」


 図書室に本を返す道中に生徒会室の前を通り掛かったら、中から聞き間違えるはずのない生徒会長の声が聞こえてきた。


 ……今の言葉は……。――こ、「告白」っ!?


 慌てて足を止め息を潜めて、少しだけ開いていた扉の隙間から、中をそっと覗いてみる。
 覗き見は良くないと分かっているけれど、生徒会長のさっきの台詞が、ガツンと強く頭に殴りかかってきたんだ。


 中にいたのは、声の主である生徒会長と、もう一人は……副会長だ!
 二年である副会長の早乙女美子さおとめみこさんは、とても美人で可憐な容姿で、男子生徒に絶大な人気を誇っている。
 性格もお淑やかで、いつも綺麗な微笑をたたえていて、私を含めた女子生徒の憧れの人だ。

 副会長は長い綺麗な黒髪を掻き上げると、緊張な面持ちの生徒会長にふわり、と優雅に微笑んで見せた。

「えぇ、いいわよ」

 彼女の返答に、生徒会長はおもむろに表情を崩す。その嬉しそうな顔に、私の胸がズキリと痛んだ。

「ありがとうございます。早速ですが、今週の土曜日は空いていますか?」
「あら、本当に早速ね? 結構セッカチなのね、貴方。大丈夫、空いているわ。じゃ、その日に一日デート……ってことでオッケーなのかしら?」
「はい、よろしくお願いします。時間は十一時で、待ち合わせ場所は駅前でよろしいですか?」
「えぇ、問題ないわ。土曜日、楽しみにしてるわね。じゃ、急いでるから失礼するわ」


 ……ヤバイッ、出てくる! 早く隠れなきゃ!

 私は急いでそこから離れ、別の教室に入り込み、息を殺して壁にぴっとりと寄り添った。気分は敵に見つかりそうになった忍者だ。
 副会長が生徒会室から出て階段を下りて行くと、ワンテンポ遅れて生徒会長も出て行った。
 誰もいなくなったのを確認すると、ふぅ……と長い息を吐く。


「……あぁ……。浮気現場をバッチリ目撃しちゃったよ……。相手はあの副会長だから勝ち目はないな……」


 はは、と乾いた笑いが漏れ、ぺたんと床に膝をつく。
 いつか愛想を尽かされることは分かっていたけれど、やっぱり落ち込む気持ちは抑えられない。
 私と全くしなかった休日デートを、副会長とはいとも簡単に約束したのもダメージが大きい。


 私の存在は一体何だったんだろう……。副会長に告白するんなら、私に別れを告げてからにして欲しかった……。
 まぁ、私は告白に返事しなかったから、付き合っていないと言われたらそれまでなんだけど……。
 でも、あ、あんなに深ーいキスされて身体触られまくったのに……。
 そ、それで付き合っていないと言われたら、わいせつ行為になるんじゃ!? 私が少しでも嫌がれば、強制わいせつ罪で逮捕されるぞ!?
 頭の良い生徒会長だから、そんな愚かなことはしないと思うし……。やっぱり私達、付き合っていたとしか……。


 ……はっ!? もしかして二股する気!?
 本命は副会長で、私は身体だけの関係として続けていくとか!? まぁまだキスに、直接は胸とお尻と太ももしか触られてないけど……。
 ……あれっ、結構触られてた!?
 でもそれって、思いっ切り昼ドラの世界だ! 無縁だと思っていた昼ドラの世界に入り込んじゃったよ!?


 でも、本当にそうだとしたら……。絶対に許せない!
 私の大嫌いな女たらし……女の敵っ!!


 私はガバリと立ち上がった。
 私には生徒会長に問い詰める自信がない。きっとまた片言になって、問い詰めるどころか一笑されてしまうだろう。
 だったら浮気をした証拠を掴んで、生徒会長にドカンとぶつけて土下座させてやる!



 ……決めた!
 今週の土曜日、生徒会長達を尾行して、浮気の証拠を掴み取ってやるんだ……!!




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