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26 ナザール貴族は震え上がる
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「へ……」
建国祭開始の時間よりかなり遅れて大広間へ入って来たのはナザール国伯爵のホワイルだったが、とにかく目を疑った。
テーブルは整然と並べられていない。何者かが暴れて放置した後のようで、一応倒れていないだけと言った所だ。いつもなら、カトラリーや磨かれたグラスがキラキラと並び、一口で食べられる軽食やデザートが目を楽しませるそんな会場であるのに。
「わ、私は場所を間違えましたかな……?」
床にはメイドのエプロンが無惨に投げ捨てられているし、どんな悲劇がこの広間で起こったか、想像も出来なかった。暴風?室内で……?ぐるりと会場を見渡すがまともなテーブルが一つもないし、料理もさることながら乾杯用のグラスも飲み物も何も用意されていない。
「いえ、あのその……」
辛うじてドアの前に立っていた侍従がしどろもどろでホワイル伯爵の呟きに応えようとするが、上手く行かない。
「と、とりあえず。この広間に隣国からの賓客や代表を招くわけにはいかん。大至急メイド長を呼んで整えるんだ……どこか控室を用意しなくては!アイリーン様はどうなさった?もしかして急病か?!大怪我でもなされたか!?」
「ア、アイリーン様はあの、その……もうこの国にはおられなく……」
「君は何を言っているのかね?正妃様がおられなければ我が国など3ヶ月も持たんぞ。アイリーン様を失う事の意味をまともな貴族ならば全員知っている事だぞ」
アイリーンの居場所を言わない侍従にイラつくが、ホワイル伯爵は嫌な予想が大きくなるのを止められない。
「そもそもアイリーン様がご健在でこの有様は絶対に有り得ない。もし寝込んでいらしてもあの方の事だ。ベッドの上からでも指示を出すだろう……そしてこんな事になるわけがない……ま、まさか、本当にこの城にいらっしゃらない、のか?はは、笑えぬ冗談だ」
侍従を見ると彼は嫌な汗を大量にかきながら無言で下を向いたので、伯爵は真っ青になるしかなかった。
「こ、これはこれは……」
そして伯爵の恐れていた事態が起こるのである。
「あっ!イスフェル国王様!ど、どうも手違いがあったようで、広間に汚れがありました!今、掃除させますので、どこか別の控え室へ……君!控室にご案内して……」
「え?あ、はい!」
侍従は弾かれたように顔をあげるが、ホワイル伯爵の必死の隠蔽も隣国王イスフェルの後ろから、どやどやとやってくる来賓達に対応は出来なかった。
「一体どれだけ待たせれば気が済むのだ!」
「全く今年は意味が分からん。アイリーン妃に恩はあれど、流石に苦言を呈したい!」
「本当にねぇ。少し通行税のお話に色でもつけて貰おうかしら?」
「はは!では借用金の支払いでも伸ばしてもらおうかな?」
長い時間城の前で待たされイライラから解放された貴人達が押し寄せ、ひとたまりもなかった。
「……なんだ、これは」
会場の有様に誰もが呆れ返る。去年までの豪華で国の威信をかけた建国祭の煌びやかさは一体どこへ行ったのかと皆、自分の目を疑った。
数日前から調整され、磨かれたシャンデリアや調度品が虚しく光り輝いているのも恐ろしくチグハグであった。
「あ……あああ……アイリーン様ぁ……お助け下さい……」
ホワイル伯爵の必死の願いはマグル国で爽やかな朝を迎えているアイリーンには届かないのであった。
建国祭開始の時間よりかなり遅れて大広間へ入って来たのはナザール国伯爵のホワイルだったが、とにかく目を疑った。
テーブルは整然と並べられていない。何者かが暴れて放置した後のようで、一応倒れていないだけと言った所だ。いつもなら、カトラリーや磨かれたグラスがキラキラと並び、一口で食べられる軽食やデザートが目を楽しませるそんな会場であるのに。
「わ、私は場所を間違えましたかな……?」
床にはメイドのエプロンが無惨に投げ捨てられているし、どんな悲劇がこの広間で起こったか、想像も出来なかった。暴風?室内で……?ぐるりと会場を見渡すがまともなテーブルが一つもないし、料理もさることながら乾杯用のグラスも飲み物も何も用意されていない。
「いえ、あのその……」
辛うじてドアの前に立っていた侍従がしどろもどろでホワイル伯爵の呟きに応えようとするが、上手く行かない。
「と、とりあえず。この広間に隣国からの賓客や代表を招くわけにはいかん。大至急メイド長を呼んで整えるんだ……どこか控室を用意しなくては!アイリーン様はどうなさった?もしかして急病か?!大怪我でもなされたか!?」
「ア、アイリーン様はあの、その……もうこの国にはおられなく……」
「君は何を言っているのかね?正妃様がおられなければ我が国など3ヶ月も持たんぞ。アイリーン様を失う事の意味をまともな貴族ならば全員知っている事だぞ」
アイリーンの居場所を言わない侍従にイラつくが、ホワイル伯爵は嫌な予想が大きくなるのを止められない。
「そもそもアイリーン様がご健在でこの有様は絶対に有り得ない。もし寝込んでいらしてもあの方の事だ。ベッドの上からでも指示を出すだろう……そしてこんな事になるわけがない……ま、まさか、本当にこの城にいらっしゃらない、のか?はは、笑えぬ冗談だ」
侍従を見ると彼は嫌な汗を大量にかきながら無言で下を向いたので、伯爵は真っ青になるしかなかった。
「こ、これはこれは……」
そして伯爵の恐れていた事態が起こるのである。
「あっ!イスフェル国王様!ど、どうも手違いがあったようで、広間に汚れがありました!今、掃除させますので、どこか別の控え室へ……君!控室にご案内して……」
「え?あ、はい!」
侍従は弾かれたように顔をあげるが、ホワイル伯爵の必死の隠蔽も隣国王イスフェルの後ろから、どやどやとやってくる来賓達に対応は出来なかった。
「一体どれだけ待たせれば気が済むのだ!」
「全く今年は意味が分からん。アイリーン妃に恩はあれど、流石に苦言を呈したい!」
「本当にねぇ。少し通行税のお話に色でもつけて貰おうかしら?」
「はは!では借用金の支払いでも伸ばしてもらおうかな?」
長い時間城の前で待たされイライラから解放された貴人達が押し寄せ、ひとたまりもなかった。
「……なんだ、これは」
会場の有様に誰もが呆れ返る。去年までの豪華で国の威信をかけた建国祭の煌びやかさは一体どこへ行ったのかと皆、自分の目を疑った。
数日前から調整され、磨かれたシャンデリアや調度品が虚しく光り輝いているのも恐ろしくチグハグであった。
「あ……あああ……アイリーン様ぁ……お助け下さい……」
ホワイル伯爵の必死の願いはマグル国で爽やかな朝を迎えているアイリーンには届かないのであった。
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