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25 自由にドレスの色を
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「素敵な色合いですね……」
ふわりとした優しい色合いからはっきりした赤や紺、本当に色々な色のドレスが何着も収められています。わたくしが持っていたドレスの数より多いのではないでしょうか……まあその数少ない色味の偏ったドレスも全部ナザールに置いて来たのですが。
「国庫の金で買ったものは置いて行くように……だそうです」
「……分かりましたと伝えてね」
「でも!どれもアイリーン様が個人資産で購入なさったものではございませんか!国のお金など、一切使っていないのに!」
「良いのよ。これ以上何か言われるのは嫌だもの」
わたくしほど王妃の癖にドレスを持っていなかった者はいないでしょう。それくらい少なく、いつもお針子があれやこれや手を尽くして見栄えだけは整えてくれていました。
「チッ!また無駄遣いを……一体いくつドレスを買えば気が済むのだ!」
「……」
何を言っても無駄なので、口にはしませんでしたが侍女達はいつもエルファード様の背中に舌を出していました。
「このドレスの事を新しいとか言った?!頑張って手直ししたものじゃない!」
近くで見れば何度も何度も手直しをして着古したものだと分かるのですが、あの方はわたくしに関心を寄せることはありません。側妃のネリーニには国庫から毎月何着もドレスを買い与えているのですが、いくら辞めるように言っても聞く耳も持ちません。ドレス商もやわんわりと断ってくれてはいるようですが、
「この国の王である私の言う事が聞けないのか!」
と、言われてしまえば従うしかない、申し訳ありませんと深々と頭を下げてくれます。作っても着ない物も多いのに払い下げもしないので、ネリーニのドレスはあちこちの部屋を圧迫しています。一体あんなにどうするつもりなのでしょうか。最近ではドレス商のお針子達は適当な安物の布や、余っていたビーズなどを縫い付けたドレスを納入しているのだとか……。
「なんとか安く済ませております、あの方々は何も気が付いていないようです」
毎月の支払金をそんな工夫までして少なくしてくれておりましたね。
「わたくしもこんなにあっても全部着る事は出来ませんわ」
「アイリーン様のお好きな色やデザインなどを掴み切れずに、色々な種類を用意したとのことです。これから好きなものを選んでいただけたら嬉しいです。着なかった物は払い下げやバザーなどにご利用下されば……」
「……そう、ですね」
長く染みついた考えは中々変えられないものですが、わたくしはこれから変わって行きたいのです。もうナザールでのことは忘れて新しく踏み出すのです。
「ただいま戻りました。お母様」
「お帰りなさい、レンブラント。街はいかがでしたか?」
「凄かったです!マルグの街並みはとても美しくて……少し煙の臭いがして……金属や宝石が凄かった」
瞳をキラキラさせて、頬も赤くなり少し興奮気味のレンブラント。とても楽しかったという事が全身から溢れていて、お父様やお母様、前王様達とのお出かけはレンブラントにとって得るべきものが多かったのですね。
「これを、お母様に……」
おずおずと差し出された細長い箱、レンブラントからのプレゼント?受け取って開けてみると美しいガラスのペンでした。
「私も……買ったので……それで……あの、シュマイゼル様にも」
「父上、だったろ?レンブラント。ありがとう、3人お揃いだね!とても嬉しいよ!」
「! はいっ!父上!」
さっきよりもっとレンブラントが嬉しそうに笑っております。名前だけの王太子でしたが、警備上街への散策など認めておられませんでしたし、エルファード様からうろうろするなと禁止されておりました。
わたくしもレンブラントとの時間をとりたくとも政務が忙しく、つい我が子より国民を優先させていました。
それなのに、こんなわたくしにもお土産を買ってきてくらるような優しい子に育ってくれて、本当に嬉しい限りです。
「わあ、お母様。素敵な色のドレスですね。いつもの濃い緑のより素敵です!今の方が良くお似合いです!」
「ありがとう、レンブラント。これはシュマイゼル様がご用意して下さったのですよ。ありがとうございますシュマイゼル様」
「い、いえ!良くお似合いです!これからは好きな色の服を来て下さいね。緑のばかり選ばなくて大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
緑のドレスはエルファード様の指示でした。自分は赤が似合うから、そんなエルファード様を引き立たせる為にわたくしは必ず緑のドレスを着るようにきつく言われておりました。
わたくしの茶色の髪に緑のドレスでは色味的に地味になるのは道理なのに、それ以外は認めて貰えませんでした。
「私より目立つな!」
何度も言われ、化粧をする事も禁止され……わたくしの容貌はどんどん地味で冴えないものになっていったのです。
「なんと醜い!少しはネリーニのように華やかな顔をしてみせろ!」
「……申し訳ございません……」
真っ赤な唇の派手な化粧をこれでもかと施すネリーニと比べられてもどうしようもないのに。
「お母様?」
レンブラントに声をかけられて、わたくしは現実に意識を引き戻しました。シュマイゼル様とレンブラントが心配そうに覗き込んでいます。
中々忘れられない記憶を厄介に感じます。
「大丈夫です。ちょっと嫌な事を思い出していただけです」
するとレンブラントは神妙な顔をして
「緑の服は何かとカエルを連想しますもんね……私も緑の服は暫く着たくないです」
うむむ、と小さく唸るので思わずシュマイゼル様と一緒に吹き出してしまいました。
ふわりとした優しい色合いからはっきりした赤や紺、本当に色々な色のドレスが何着も収められています。わたくしが持っていたドレスの数より多いのではないでしょうか……まあその数少ない色味の偏ったドレスも全部ナザールに置いて来たのですが。
「国庫の金で買ったものは置いて行くように……だそうです」
「……分かりましたと伝えてね」
「でも!どれもアイリーン様が個人資産で購入なさったものではございませんか!国のお金など、一切使っていないのに!」
「良いのよ。これ以上何か言われるのは嫌だもの」
わたくしほど王妃の癖にドレスを持っていなかった者はいないでしょう。それくらい少なく、いつもお針子があれやこれや手を尽くして見栄えだけは整えてくれていました。
「チッ!また無駄遣いを……一体いくつドレスを買えば気が済むのだ!」
「……」
何を言っても無駄なので、口にはしませんでしたが侍女達はいつもエルファード様の背中に舌を出していました。
「このドレスの事を新しいとか言った?!頑張って手直ししたものじゃない!」
近くで見れば何度も何度も手直しをして着古したものだと分かるのですが、あの方はわたくしに関心を寄せることはありません。側妃のネリーニには国庫から毎月何着もドレスを買い与えているのですが、いくら辞めるように言っても聞く耳も持ちません。ドレス商もやわんわりと断ってくれてはいるようですが、
「この国の王である私の言う事が聞けないのか!」
と、言われてしまえば従うしかない、申し訳ありませんと深々と頭を下げてくれます。作っても着ない物も多いのに払い下げもしないので、ネリーニのドレスはあちこちの部屋を圧迫しています。一体あんなにどうするつもりなのでしょうか。最近ではドレス商のお針子達は適当な安物の布や、余っていたビーズなどを縫い付けたドレスを納入しているのだとか……。
「なんとか安く済ませております、あの方々は何も気が付いていないようです」
毎月の支払金をそんな工夫までして少なくしてくれておりましたね。
「わたくしもこんなにあっても全部着る事は出来ませんわ」
「アイリーン様のお好きな色やデザインなどを掴み切れずに、色々な種類を用意したとのことです。これから好きなものを選んでいただけたら嬉しいです。着なかった物は払い下げやバザーなどにご利用下されば……」
「……そう、ですね」
長く染みついた考えは中々変えられないものですが、わたくしはこれから変わって行きたいのです。もうナザールでのことは忘れて新しく踏み出すのです。
「ただいま戻りました。お母様」
「お帰りなさい、レンブラント。街はいかがでしたか?」
「凄かったです!マルグの街並みはとても美しくて……少し煙の臭いがして……金属や宝石が凄かった」
瞳をキラキラさせて、頬も赤くなり少し興奮気味のレンブラント。とても楽しかったという事が全身から溢れていて、お父様やお母様、前王様達とのお出かけはレンブラントにとって得るべきものが多かったのですね。
「これを、お母様に……」
おずおずと差し出された細長い箱、レンブラントからのプレゼント?受け取って開けてみると美しいガラスのペンでした。
「私も……買ったので……それで……あの、シュマイゼル様にも」
「父上、だったろ?レンブラント。ありがとう、3人お揃いだね!とても嬉しいよ!」
「! はいっ!父上!」
さっきよりもっとレンブラントが嬉しそうに笑っております。名前だけの王太子でしたが、警備上街への散策など認めておられませんでしたし、エルファード様からうろうろするなと禁止されておりました。
わたくしもレンブラントとの時間をとりたくとも政務が忙しく、つい我が子より国民を優先させていました。
それなのに、こんなわたくしにもお土産を買ってきてくらるような優しい子に育ってくれて、本当に嬉しい限りです。
「わあ、お母様。素敵な色のドレスですね。いつもの濃い緑のより素敵です!今の方が良くお似合いです!」
「ありがとう、レンブラント。これはシュマイゼル様がご用意して下さったのですよ。ありがとうございますシュマイゼル様」
「い、いえ!良くお似合いです!これからは好きな色の服を来て下さいね。緑のばかり選ばなくて大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
緑のドレスはエルファード様の指示でした。自分は赤が似合うから、そんなエルファード様を引き立たせる為にわたくしは必ず緑のドレスを着るようにきつく言われておりました。
わたくしの茶色の髪に緑のドレスでは色味的に地味になるのは道理なのに、それ以外は認めて貰えませんでした。
「私より目立つな!」
何度も言われ、化粧をする事も禁止され……わたくしの容貌はどんどん地味で冴えないものになっていったのです。
「なんと醜い!少しはネリーニのように華やかな顔をしてみせろ!」
「……申し訳ございません……」
真っ赤な唇の派手な化粧をこれでもかと施すネリーニと比べられてもどうしようもないのに。
「お母様?」
レンブラントに声をかけられて、わたくしは現実に意識を引き戻しました。シュマイゼル様とレンブラントが心配そうに覗き込んでいます。
中々忘れられない記憶を厄介に感じます。
「大丈夫です。ちょっと嫌な事を思い出していただけです」
するとレンブラントは神妙な顔をして
「緑の服は何かとカエルを連想しますもんね……私も緑の服は暫く着たくないです」
うむむ、と小さく唸るので思わずシュマイゼル様と一緒に吹き出してしまいました。
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