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懇願(ジークハルト視点)

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「何故だ?何故死ねない」
 
 頸動脈を斬りつけ血が噴き出したはずなのに、一瞬で血は止まった。

「残念だけど寿命まで死ねないぜ」
 魔法を解いた男がそう言う。

「お前には加護の魔法もかかってる。寿命以外では死なないように、怪我や病気になっても直ぐに回復するように誰かがお前を思ってかけたんだろうな。もちろん魅了魔法をかけた魔女とは別人だぜ」

「解いてくれ! 今すぐ死にたい!」
 
 その言葉を受け俺は懇願した。もう、生きてなんていられない。

「無理だな。善意の魔法は解けないんだ」
 
 男は小さくため息をつき、話を続ける。

「それにこれは神レベルの崇高な魔法だ。俺みたいな人間には絶対解けない。お前を大事に思っていて、神レベルの魔法を使える清らかな者がかけた魔法。聖女とか、そういうような……」

「救いの神子……」

「それだ。お前の国には救いの神子がいたな。それなのになんで滅びたんだ。神子がいれば国は安泰なはずなのに」

「俺が殺した。俺が…」
 言葉にならなかった。俺は絶叫しながら号泣しつづけた。

 俺は何てことをしたんだ。

 魔法で操られていたとはいえ、大事な婚約者を殺してしまった。
 あの女のあんな言葉を信じてしまった。
レティシアは何も悪くない。何もしていない。俺のことをいつも思っていてくれた。なのに俺は……。

 やり直したい。戻りたい。

 あの女が来る前に戻ってやり直したい。そして、レティシアと生きたい。レティシアを守りたい。

「戻れないのか? 魔法で時間を巻き戻す事はできないのか?」
 俺は隣にいる男に詰め寄った。

「時間を巻き戻す魔法はあるが、多分無理だ」
 
 魔法があるならなぜできないんだ! なんでもできるんじゃないのか!

 男は何か考えているようだった。しばらくして顔を上げた。

「時間を戻す魔法は難しい魔法なので、かなりの魔力がある者しか使えない。しかも、女神スパリーナに認められた者しか使えないんだ。お前が魔法をかけないといけない。お前は魔力があるが、そんなのでは足りない。地獄のような訓練を受け、魔力を増やしても女神スパリーナが認めるかどうかわからない」

「訓練を受ける! 頼む! 俺にその魔法を教えてくれ!! なんとかして女神に認めてもらう! このまま寿命が尽きるまで何もしないで生きているなんて俺にはできない」
 
 俺は男の足に縋りつき頭を地べたに擦り付け何度も何度も頼んだ。

「分かった。仕方ないな。ただ本当に辛いぞ。生き地獄みたいな修行だぜ。やれるか?」
「やる! 絶対やる! 俺にはもうそれしか無い」

 それから俺の魔法修行が始まった。
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