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第七十章
マグダレーナ
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黒焦げに焼かれ血潮に塗られた廃墟の街、見せしめのため、いや、殺戮の惨状を開いたまま閉じることはない記録書の1ページとして存立しているホイラーピーク。
春色に帯びた陽光は惨劇の想いもいとわず、ある意味、冷酷極まりなく血潮で錆びた日干し煉瓦の壁を明瞭に照らしていた。
マリアとジョンは瓦礫の山を縫うように歩き続けた。
ジョンがマリアに問うた。
「君のお父さんと何処で落ち合うんだい?」と
マリアは「教会よ。」と一言述べると先を歩いた。
ゴーストタウンと化したメインストリートの行き止まりに差し掛かると、その左奥に傾きかけた十字架の塔が見えた。
マリアは振り向き、
「あそこが教会。ジョンのお母さんの教会よ。」と寂しげに言った。
イエス・キリストから太陽へと崇める神を移していたジョンではあったが、その傾きかけた十字架を見ると、自然と胸元で十字を切った。
イエス・キリストの教えのとおり、拒むものは何も無いかのように崩れ掛けた教会に扉はなかった。
2人はその無防備な教会へ入って行った。
正面奥にはかつて祭壇であった証として炭と化したイエス・キリストが十字架に張り付けられていた。
祭壇の奥のステンドガラスは割れ落ち、壇上にその破片を散りばめていた。
2人は祭壇へ向かって歩いて行った。
両脇の参列席は風雨により朽ち果て雑草とカビの温床と化し、天井屋根の半分は焼け落ち、辛うじて骨組みの主である梁が木肌を剥き出しに晒していた。
ジョンはナバホ族の酋長の話を思い出し、黒焦げのイエス・キリスト像に近づき、その祭壇台の奥を見遣り、
「この下に地下室があるはずだ。」とマリアに言うと、
マリアは、「そこからは入れないの。瓦礫で扉が塞がれているの。」と言い、「こっちよ。」と裏口へ歩いて行った。
裏口から出ると、雑草が生い茂った小庭があり、建物脇の砂利道を進むと井戸蓋があった。
マリアが雑草を掻き分け井戸蓋をずらすと地下室へ続く階段が現れた。
マリアは懐中電灯で井戸の中を照らし、「ここから入るの。」と言い、ジョンを促し、2人は階段を降りて行った。
階段を降りると綺麗に整理された小部屋があった。
小部屋には新しく祭壇が設けられ、4、5人が座れる長椅子も設置されていた。
マリアが蝋燭に火を付けると祭壇の奥に真新しいイエス・キリスト像が浮かび上がった。
マリアはイエス・キリスト像に十字を切り、祈りを捧げ、そして、こう言った。
「この部屋に時折皆んなが祈りを捧げに来るの。」
ジョンも十字を切り、祈りを捧げ、マリアにこう言った。
「この地下室で僕の両親は出逢ったんだ。」と
マリアは頷きこう言った。
「そして、2人は恋に堕ち、貴方が生まれた。」と
それを聞くとジョンは暫し目を瞑り、そして、こう言った。
「僕は勇者が聖女を救った証でもあるんだ。君のお父さんに会ったら、そう伝えたい。」と
マリアはそれを聞くと、祭壇台の引き出しから赤い手袋を取り出した。
その赤手袋は鉄の入った鎖手袋であった。
マリアはそれをジョンに手渡すと、ジョンはその重さに驚いた。
「ずっしりと重いよ!これは防具かい?」
「ある意味、防具かも知れないわ。」
「ある意味?」
「この手袋が父との連絡に必要なの。」
そう言うとマリアは赤手袋を握り、外へ向かった。
小庭に出るとマリアは赤手袋を嵌め、そして口笛を吹き始めた。
ジョンは訳が分からず眺めるだけであった。
マリアは一定の間隔で口笛を吹き続けた。
そして、空を見上げ、
「来たわ!」と叫んだ。
ジョンも思わず空を見上げると、真っ白い鷹のような鳥が教会の真上を旋回していた。
マリアが赤手袋を嵌めた右腕を天に振り上げるよう差し出すと、真っ白い鷹のような鳥はそれを目指して急降下を始めた。
白い鷹のような鳥はマリアの目の前で大きな羽根を羽ばたきながら、差し出した赤手袋の上に舞い降りた。
「ハヤブサ…?」とジョンが問うと、
マリアは頷き、真っ白なハヤブサの胸の羽根を撫で上げながら、
「マグダレーナ!この子の名前よ!女の子なの。」と笑いながらそう答えた。
ハヤブサの鋭い鉤爪はしっかりと赤い鎖手袋に食い込んでいた。
その足首にはアルミ製の筒が装着されていた。
ジョンはそれを見てこう問うた。
「伝書?ハヤブサで伝書を送るのかい?」と
マリアはにっこり笑い、こう答えた。
「そのとおりよ!マグダレーナは私と父の使いなの!」と
春色に帯びた陽光は惨劇の想いもいとわず、ある意味、冷酷極まりなく血潮で錆びた日干し煉瓦の壁を明瞭に照らしていた。
マリアとジョンは瓦礫の山を縫うように歩き続けた。
ジョンがマリアに問うた。
「君のお父さんと何処で落ち合うんだい?」と
マリアは「教会よ。」と一言述べると先を歩いた。
ゴーストタウンと化したメインストリートの行き止まりに差し掛かると、その左奥に傾きかけた十字架の塔が見えた。
マリアは振り向き、
「あそこが教会。ジョンのお母さんの教会よ。」と寂しげに言った。
イエス・キリストから太陽へと崇める神を移していたジョンではあったが、その傾きかけた十字架を見ると、自然と胸元で十字を切った。
イエス・キリストの教えのとおり、拒むものは何も無いかのように崩れ掛けた教会に扉はなかった。
2人はその無防備な教会へ入って行った。
正面奥にはかつて祭壇であった証として炭と化したイエス・キリストが十字架に張り付けられていた。
祭壇の奥のステンドガラスは割れ落ち、壇上にその破片を散りばめていた。
2人は祭壇へ向かって歩いて行った。
両脇の参列席は風雨により朽ち果て雑草とカビの温床と化し、天井屋根の半分は焼け落ち、辛うじて骨組みの主である梁が木肌を剥き出しに晒していた。
ジョンはナバホ族の酋長の話を思い出し、黒焦げのイエス・キリスト像に近づき、その祭壇台の奥を見遣り、
「この下に地下室があるはずだ。」とマリアに言うと、
マリアは、「そこからは入れないの。瓦礫で扉が塞がれているの。」と言い、「こっちよ。」と裏口へ歩いて行った。
裏口から出ると、雑草が生い茂った小庭があり、建物脇の砂利道を進むと井戸蓋があった。
マリアが雑草を掻き分け井戸蓋をずらすと地下室へ続く階段が現れた。
マリアは懐中電灯で井戸の中を照らし、「ここから入るの。」と言い、ジョンを促し、2人は階段を降りて行った。
階段を降りると綺麗に整理された小部屋があった。
小部屋には新しく祭壇が設けられ、4、5人が座れる長椅子も設置されていた。
マリアが蝋燭に火を付けると祭壇の奥に真新しいイエス・キリスト像が浮かび上がった。
マリアはイエス・キリスト像に十字を切り、祈りを捧げ、そして、こう言った。
「この部屋に時折皆んなが祈りを捧げに来るの。」
ジョンも十字を切り、祈りを捧げ、マリアにこう言った。
「この地下室で僕の両親は出逢ったんだ。」と
マリアは頷きこう言った。
「そして、2人は恋に堕ち、貴方が生まれた。」と
それを聞くとジョンは暫し目を瞑り、そして、こう言った。
「僕は勇者が聖女を救った証でもあるんだ。君のお父さんに会ったら、そう伝えたい。」と
マリアはそれを聞くと、祭壇台の引き出しから赤い手袋を取り出した。
その赤手袋は鉄の入った鎖手袋であった。
マリアはそれをジョンに手渡すと、ジョンはその重さに驚いた。
「ずっしりと重いよ!これは防具かい?」
「ある意味、防具かも知れないわ。」
「ある意味?」
「この手袋が父との連絡に必要なの。」
そう言うとマリアは赤手袋を握り、外へ向かった。
小庭に出るとマリアは赤手袋を嵌め、そして口笛を吹き始めた。
ジョンは訳が分からず眺めるだけであった。
マリアは一定の間隔で口笛を吹き続けた。
そして、空を見上げ、
「来たわ!」と叫んだ。
ジョンも思わず空を見上げると、真っ白い鷹のような鳥が教会の真上を旋回していた。
マリアが赤手袋を嵌めた右腕を天に振り上げるよう差し出すと、真っ白い鷹のような鳥はそれを目指して急降下を始めた。
白い鷹のような鳥はマリアの目の前で大きな羽根を羽ばたきながら、差し出した赤手袋の上に舞い降りた。
「ハヤブサ…?」とジョンが問うと、
マリアは頷き、真っ白なハヤブサの胸の羽根を撫で上げながら、
「マグダレーナ!この子の名前よ!女の子なの。」と笑いながらそう答えた。
ハヤブサの鋭い鉤爪はしっかりと赤い鎖手袋に食い込んでいた。
その足首にはアルミ製の筒が装着されていた。
ジョンはそれを見てこう問うた。
「伝書?ハヤブサで伝書を送るのかい?」と
マリアはにっこり笑い、こう答えた。
「そのとおりよ!マグダレーナは私と父の使いなの!」と
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