自業自得

真鉄

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愉悦

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「いらっしゃいませ、ご指名ありがとうございます。リュウで、す……」

  俺の席にやってきた龍は貼り付けていた笑顔をごっそりと失くした。ああ、俺はこのためにあれから更に半年も頑張って探し出したのだな、と理解した。それほどの愉悦が胸を熱くする。

  すらりと背の高いモデル体型、精悍な顔立ちは少し痩せたがあの頃とそんなに変わらない。だが、その格好ときたら、ミニスカートにフリルのついたエプロンを着けたメイド姿という噴飯物なのだ。布をたっぷりと使ったレースのパニエがふんわりとスカートを押し上げ、そこからすらりと伸びた脚は太もも中央辺りまである白いハイサイソックスに包まれていた。足元はご丁寧に丸っこいエナメルのヒール。少し伸びた髪は両脇に細いリボンのついたレースのカチューシャで止められている。化粧をしているわけでもない。女性らしさは衣装だけ。だが、それは似合わないようで逆に調和がとれているような、不思議な姿だった。俺は顎の下で指を組み、引きつった龍の顔を見上げてニヤニヤと笑う。

「よ、龍ちゃん。久しぶり」
「……久し、ぶり。です」

  固い声が返ってきた。おそらく、消える前の笑顔から察するに、龍はもう男娼として腹を括って接客に徹してきたのだろう。だが、さすがに既知の元学友相手ではその仮面も完全には被れまい。その泳ぐ目を眺め、俺は心が満たされて行くのを感じた。

  困惑の表情のまま立ち尽くしているメイド姿の龍に横に座るように促す。逡巡の後、龍は視線を合わせぬまま、少し距離をあけて隣に座った。仕方ないので俺の方から詰め寄ると頑なに目をそらせたままかすかに震えた。眉をひそめ、目元の縁を恥辱に赤く染めた横顔に俺の興奮は否応なく高まっていく。俺は赤く染まる耳元に顔を寄せ、そっと囁いた。

「龍ちゃん、接客接客。こっち見てる怖い人、オーナーなんでしょ」

  龍はびくりと身を引きつらせ、俺に向かって引きつった笑顔を見せた。よほどあのオーナーが怖いらしい。屈辱に潤む瞳がオレンジ色の薄暗い照明に光った。取り敢えず酒を作らせ、一杯龍にも奢ってやった。ありがとうございます、と相変わらず固い声で言い、吹っ切るようにぐいと一息で呷った。喉元に結ばれたリボンの下で喉仏が上下する。

  自分は税理士の卵になってばりばり働いてると、一方的に努めて明るく話して聞かせた。首謀者のみへの復讐を頼んだクライアントとやらのおかげで、かつてのリーダーは男娼に堕とされ、他のメンツは龍のことも「遊び」のことも忘れて何事もなかったかのように生活しているのだ。致命的な紙一重の差に笑うしかない。

  俺の話に龍の目が暗く翳りだし、俺は愉悦に笑う。ここで更に仲の良かったあいつが自殺したと教えたら一体どんな顔をするだろう。考えただけでもぞくぞくする。だが、それは後の楽しみにとっておこう。俺は指を伸ばし、露わな太ももに手を置いた。引き締まった内腿をなぞると身体を震わせ、きゅっと脚を閉じたのがいじらしい。

「ま、そんなことはどうでもいいとしてさ。なあ龍ちゃん、下は何履いてんの?」
「下……とは?」
「下着だよ。スカートの下。やっぱ女物のパンティ履いてんの? な、めくって見せてよ」

  俺のセクハラに龍は頬を紅潮させ、ふわふわの心許ないスカートを握り込んだ。ここは金次第では何をやってもいい「そういう店」だ。それだけの金は既に払っている。こんなスキンシップは挨拶程度にすぎない。俺はニヤニヤしながら恥辱と義務の間で葛藤する龍の鼻筋の通った横顔を眺めた。

  龍は俺から顔を背け、屈辱に頬を染めながら、そっとスカートを持ち上げた。そんなんじゃ見えないよ、と何度も駄目出しをして、自らしっかりとスカートをたくし上げるように仕向けた。引き締まった太ももの奥には、正面にレースを施した艶のある薄ピンク色の女性用下着が、カリの段差も露わにみっちりと膨らんでいた。手を差し入れ、カリを指先で撫でてみると、龍は身体をびくりと震わせて固く目を閉じた。

「シルクかな? こんなエッチなパンティ履いてるとかすっげえ変態っぽくてマジウケる。いつもこんなの履いてんの?」
「……はい」

  心底嫌がりつつも従順に頷く龍の姿に俺は熱い溜め息をついた。興奮に息が荒くなっているのが自分でも分かる。スーツの上着に隠れて今は見えないが、固くなった雄竿がスラックスを持ち上げていた。肩を抱き寄せ、龍の手を取って自分のガチガチの股間に導くと、耳元で囁いた。

「もう俺、我慢できねえわ。オーナーに申告してきて。これからお客様に抱かれます、ってさ」

  龍は屈辱に目を細め、身体を強張らせた。この店はそういうシステムになっていた。ホストの側から申告することで、あくまでも双方合意の上の行為であると言い張るわけだ。早く、と促すと強張った表情のままゆっくりと立ち上がった。パニエで膨らんだミニスカートが揺れる。ぎりぎり尻肉のラインが見えるか見えないかぐらいの長さがそそる。服は着せたまま犯そう。衣装を汚すと特別料金がかかるかもしれないが知ったことじゃない。それだけの金は払っているのだ。

  強面のオーナーの前で二言三言話し、頬を紅潮させた龍が腹でも痛いような表情で戻ってくる。

「……お部屋にご案内いたします」

  蚊の鳴くような声で目をそらせたまま龍が言った。
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