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3 魔法学校の聖人候補
380 自主練習
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380
「自習室って、確か許可を取るのが面倒なんじゃなかった?
空いていても、直ぐには使えないんじゃないの?」
トルルは、学生たちが下手な魔法を使っても大丈夫なよう色々と配慮され、更に《保護の結界》までガッチリ施された自習室へ、恐る恐る入ってきた。
普通この特別な自習室を使うには、担当教授のサインをもらい、学生課に書式を提出し、更に予約状況の確認といくつかの部署の確認を得なければならないらしい。基本的に皆勉強熱心なので、ここは常に争奪戦が繰り広げられている。
確かにトルルが訝しむのも当然で、こんな直前予約ができるはずはないのだ……普通なら。
でも私には、大食堂改善成功の報酬として頂いた伝家の宝刀〝学内のすべての研究施設の無制限利用権限〟があるため、空いてさえいれば、どこでも許可要らずのフリーパス。今回も不測の事態のために常に必ず一室用意されている〝予備室〟をちゃっかりお借りした。だがトルルにそれを言うわけにはいかないので、自習のため、以前から予約してあった、ということにしておいた。
(私も言い訳上手になってきたな……)
「マリスさんも、そういう努力をしているのね。私ももっと頑張らないと……」
私が密かに自主練を積んでいると勘違いしてくれたトルルは、ますますやる気になっている様子だ。
私はトルルに改めて聞く。
「《風魔法》は、かなり使ってきているんですよね」
「ええ、私の町は脱穀の必要な植物をたくさん育てていたから、風車が多かったの。でも、風は気まぐれでしょう?思ったように使えないことも多くて、よく私に頼みにきたの。私の家は決して裕福と言うわけじゃなかったから、お礼に貰える小麦や大麦はとても助かったしね」
魔法修行と報酬が得られると言う実益を兼ねて、2つの魔法の練習を続けたトルルが風車がしっかり回せるようになるまでに半年ほどかかったそうだが、そこからはいつでも風を起こし、土を動かすことができるようになったという。
「そのせいなんじゃないでしょうか?」
私の言葉に不思議そうな顔をするトルル。
「ええと、なんて言うのか、トルルさんの場合、魔法を一度教えてもらった後は、自習して強化したでしょう?
その時、風車を動かせるということに標準を合わせて、いきなり強風を起こす訓練をしてしまったため、魔法の発動基準がそこにイメージ固定されているんじゃないかな?」
私の言葉に、トルルは目を見開いた。
「あ、ああ、ああああ!!」
「最初の《風魔法》の授業の通り、小さな力から大きな力へ徐々に慣らしていくことで、繊細な魔法も強力な魔法も使えるように訓練していっているでしょう?
もちろん魔法の消費量のこともあるけれど、力加減の調整を学ぶには、その段階が必要なのよ」
そう、今のトルルは〝強〟のボタンしかない扇風機のようなものだ。そのため、いくら頑張っても〝弱〟の力が出せないのだ。
「一度付いてしまったクセの矯正は大変かもしれないけれど、現状を把握して、今の風力を徐々に下げるイメージを付けましょう。羽を浮かせたら、それを徐々に上から下げていくイメージを作って、少しずつ羽を下方に移動させていってみてはどうかな?」
視覚的に力の入れ加減の強弱が見えるように、そう提案してみると、トルルは素直に早速練習を始めた。
なかなか苦戦しているようなので、イメージを強化するため、私が何度かゆっくりと羽の上げ下げをやってみせると、イメージがしっかりしたのか、徐々に、トルルもできるようになっていった。
「すごい!すごい!」
先ほどの授業であれほど苦労していた操作が徐々にできるようになるにつれ、自分の上達が信じられないトルルはびっくりしながら、それでも練習を続けた。
まだまだぎこちないものの、この調子ならすぐに自身の中に風の強弱のイメージが身につくだろう。
(さて、私も自習しようかな)
一生懸命練習中のトルルの横で、私も今日習った〝風を対象物に纏わせる〟イメージを作ってみた。
すると、空中の羽は絡みつく風の力でクルクルと回り始めた。最初はふわっとした回転だったものが徐々にその速度を上げ、やがてピンポン球くらいの〝風の球〟になっていった。試しにそのまま、自習室にある的に向かって飛ばしてみると、恐ろしいスピードで直線的に飛んでいき、ドンという低い大きな音を立てて的の中央を貫通した。
(これは十分に武器になりそうな殺傷能力だなぁ。封印封印)
今度は、速度を上げすぎないように加減しながらやってみようと考えつつ横を見ると、トルルの顔が見えた。
完全に固まって、目を見開いたまま、こちらを見ている。
「あ、私も今日の授業で初めて知ったことがあって、ちょっとその方法をやってみたんだけど、やっぱり力加減って難しいねー。あー失敗、失敗!」
「え、失敗って、あの威力が失敗な……の?」
「そうでしょ。意図しない威力が出るなんて、失敗でしかないでしょう。恥ずかしいから人には絶対言わないでね。約束よ!」
トルルは頷きつつも、あまり納得はしていないようだ。
私はトルルに練習の再開を促し、さっさと破壊された的を片付けて、話を終わらせた。
だが、思わぬところで新しい攻撃法を得ることになってしまった。
トルルは恐らくこのことを人に言ったりはしないだろうが、強い攻撃魔法を持っていることは、なるべく魔法学校の人たちには知られない方がいい。
私に、強力な攻撃力があることが知れれば、絶対〝国家魔術師〟へのコースを進まされてしまう。
(人前で新しい試みをするのは、控えないとな……)
私は綺麗に穴の空いた的を見ながら、小さくため息をついた。
「自習室って、確か許可を取るのが面倒なんじゃなかった?
空いていても、直ぐには使えないんじゃないの?」
トルルは、学生たちが下手な魔法を使っても大丈夫なよう色々と配慮され、更に《保護の結界》までガッチリ施された自習室へ、恐る恐る入ってきた。
普通この特別な自習室を使うには、担当教授のサインをもらい、学生課に書式を提出し、更に予約状況の確認といくつかの部署の確認を得なければならないらしい。基本的に皆勉強熱心なので、ここは常に争奪戦が繰り広げられている。
確かにトルルが訝しむのも当然で、こんな直前予約ができるはずはないのだ……普通なら。
でも私には、大食堂改善成功の報酬として頂いた伝家の宝刀〝学内のすべての研究施設の無制限利用権限〟があるため、空いてさえいれば、どこでも許可要らずのフリーパス。今回も不測の事態のために常に必ず一室用意されている〝予備室〟をちゃっかりお借りした。だがトルルにそれを言うわけにはいかないので、自習のため、以前から予約してあった、ということにしておいた。
(私も言い訳上手になってきたな……)
「マリスさんも、そういう努力をしているのね。私ももっと頑張らないと……」
私が密かに自主練を積んでいると勘違いしてくれたトルルは、ますますやる気になっている様子だ。
私はトルルに改めて聞く。
「《風魔法》は、かなり使ってきているんですよね」
「ええ、私の町は脱穀の必要な植物をたくさん育てていたから、風車が多かったの。でも、風は気まぐれでしょう?思ったように使えないことも多くて、よく私に頼みにきたの。私の家は決して裕福と言うわけじゃなかったから、お礼に貰える小麦や大麦はとても助かったしね」
魔法修行と報酬が得られると言う実益を兼ねて、2つの魔法の練習を続けたトルルが風車がしっかり回せるようになるまでに半年ほどかかったそうだが、そこからはいつでも風を起こし、土を動かすことができるようになったという。
「そのせいなんじゃないでしょうか?」
私の言葉に不思議そうな顔をするトルル。
「ええと、なんて言うのか、トルルさんの場合、魔法を一度教えてもらった後は、自習して強化したでしょう?
その時、風車を動かせるということに標準を合わせて、いきなり強風を起こす訓練をしてしまったため、魔法の発動基準がそこにイメージ固定されているんじゃないかな?」
私の言葉に、トルルは目を見開いた。
「あ、ああ、ああああ!!」
「最初の《風魔法》の授業の通り、小さな力から大きな力へ徐々に慣らしていくことで、繊細な魔法も強力な魔法も使えるように訓練していっているでしょう?
もちろん魔法の消費量のこともあるけれど、力加減の調整を学ぶには、その段階が必要なのよ」
そう、今のトルルは〝強〟のボタンしかない扇風機のようなものだ。そのため、いくら頑張っても〝弱〟の力が出せないのだ。
「一度付いてしまったクセの矯正は大変かもしれないけれど、現状を把握して、今の風力を徐々に下げるイメージを付けましょう。羽を浮かせたら、それを徐々に上から下げていくイメージを作って、少しずつ羽を下方に移動させていってみてはどうかな?」
視覚的に力の入れ加減の強弱が見えるように、そう提案してみると、トルルは素直に早速練習を始めた。
なかなか苦戦しているようなので、イメージを強化するため、私が何度かゆっくりと羽の上げ下げをやってみせると、イメージがしっかりしたのか、徐々に、トルルもできるようになっていった。
「すごい!すごい!」
先ほどの授業であれほど苦労していた操作が徐々にできるようになるにつれ、自分の上達が信じられないトルルはびっくりしながら、それでも練習を続けた。
まだまだぎこちないものの、この調子ならすぐに自身の中に風の強弱のイメージが身につくだろう。
(さて、私も自習しようかな)
一生懸命練習中のトルルの横で、私も今日習った〝風を対象物に纏わせる〟イメージを作ってみた。
すると、空中の羽は絡みつく風の力でクルクルと回り始めた。最初はふわっとした回転だったものが徐々にその速度を上げ、やがてピンポン球くらいの〝風の球〟になっていった。試しにそのまま、自習室にある的に向かって飛ばしてみると、恐ろしいスピードで直線的に飛んでいき、ドンという低い大きな音を立てて的の中央を貫通した。
(これは十分に武器になりそうな殺傷能力だなぁ。封印封印)
今度は、速度を上げすぎないように加減しながらやってみようと考えつつ横を見ると、トルルの顔が見えた。
完全に固まって、目を見開いたまま、こちらを見ている。
「あ、私も今日の授業で初めて知ったことがあって、ちょっとその方法をやってみたんだけど、やっぱり力加減って難しいねー。あー失敗、失敗!」
「え、失敗って、あの威力が失敗な……の?」
「そうでしょ。意図しない威力が出るなんて、失敗でしかないでしょう。恥ずかしいから人には絶対言わないでね。約束よ!」
トルルは頷きつつも、あまり納得はしていないようだ。
私はトルルに練習の再開を促し、さっさと破壊された的を片付けて、話を終わらせた。
だが、思わぬところで新しい攻撃法を得ることになってしまった。
トルルは恐らくこのことを人に言ったりはしないだろうが、強い攻撃魔法を持っていることは、なるべく魔法学校の人たちには知られない方がいい。
私に、強力な攻撃力があることが知れれば、絶対〝国家魔術師〟へのコースを進まされてしまう。
(人前で新しい試みをするのは、控えないとな……)
私は綺麗に穴の空いた的を見ながら、小さくため息をついた。
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