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空は愛で満ちている。
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ルシフェルが異世界へと迷い込んでから、はや3日が過ぎていた。
この間、ルシフェルが飲み食いしたものは持ち込んだコンビニ弁当とペットボトルのお茶だけである。
普通ならひもじい筈だ。
けれどもルシフェルはほんの少しの空腹を覚えるのみで、さほど喉も乾かなかった。
「食欲はあるんだけどなぁ」
おそらくは変異した身体の特性なのだろう。
そうルシフェルは納得する。
変異後の身体に対して、違和感は特に抱かなかった。
むしろしっくりくる。
まるでこの高位の天使みたいな姿こそが、本来の自分であるかのように。
◇
ルシフェルの背中には輝ける純白の六翼が生え備わっていた。
一翼一翼が背丈ほどの大きさ。
しかしまるで重みは感じない。
翼は少し背に力を篭めるだけでまるで手足のごとく自在に動いた。
それに意味があるのかはともかくとして、六翼すべてを別個に動かすことも可能だ。
また変異は翼だけではなかった。
黒髪黒瞳で凡庸な顔立ちの標準的な日本人だったルシフェルは、透き通ったプラチナブロンドの髪と黄金の瞳を持つ美少年へと生まれ変わっていた。
そう少年である。
もはやルシフェルは腹回りに贅肉を蓄えた元のうだつの上がらないアラサーではない。
容姿にしても中性的で少女と見紛うような美しい顔立ち。
声なんて鈴の音のように清らかだ。
身長も一回り以上小柄になってしまって、着ていたスーツはぶかぶかである。
ちなみにこのスーツ。
当然ながら背中の部分は翼のせいで大きく破れていた。
◆
「さてと……」
草原に直に座っていたルシフェルは、立ち上がりお尻をパンパンと叩く。
空を見上げると、おもむろに翼を羽ばたかせた。
ばさり、ばさり。
六枚の翼が動くたびに周囲の風が巻き上げられる。
線の細いルシフェルの身体がふわりと浮いた。
ルシフェルはこの3日間というもの、寝食も忘れてずっと飛行の訓練をしていた。
その甲斐あって、いまでは自由自在に空を飛び回ることが出来るようになっていた。
宙に浮かび上がったルシフェルは、今度は少し大胆に翼を動かす。
ゆっくりと加速して空へと飛び立った。
◇
気分が高揚する。
「あは、あはは……!」
思わず声が出た。
福音のラッパでも吹き鳴らしたい気分。
空を飛ぶ。
それがこんなに気持ちの良いことだとは。
重力のくびきから解き放たれ、行く手を遮るものなど何ひとつない大空を飛ぶ。
頬に、翼に、風を感じながら何処にだって飛んでいける。
ルシフェルは自由を謳歌していた。
(ああ、空は祝福に満ちている)
ルシフェルは身を震わせた。
歓喜が全身を駆け巡る。
高く飛べば飛ぶほどに、父なる神の愛がはっきりと感じられるようになっていくのだ。
もっとこの愛を感じたい。
「……よし。もう十分飛べるようになったし、これなら――」
舞うように空を飛び回りながら、ルシフェルは更なる上空を目指す。
もっと高くまで飛んでみたい。
天へと至りたい。
頭上を覆うあの雲を突き抜けて、眼下に雲海を見渡せる高さまで。
それは天使の本能だ。
ルシフェルは神に引き寄せられるように、天界を目指す。
しかし天を目指す為には障害があった。
その障害とはまるで天と地の間に挟まって、蓋をするかのように空を泳ぐあのクジラのような存在だった。
この間、ルシフェルが飲み食いしたものは持ち込んだコンビニ弁当とペットボトルのお茶だけである。
普通ならひもじい筈だ。
けれどもルシフェルはほんの少しの空腹を覚えるのみで、さほど喉も乾かなかった。
「食欲はあるんだけどなぁ」
おそらくは変異した身体の特性なのだろう。
そうルシフェルは納得する。
変異後の身体に対して、違和感は特に抱かなかった。
むしろしっくりくる。
まるでこの高位の天使みたいな姿こそが、本来の自分であるかのように。
◇
ルシフェルの背中には輝ける純白の六翼が生え備わっていた。
一翼一翼が背丈ほどの大きさ。
しかしまるで重みは感じない。
翼は少し背に力を篭めるだけでまるで手足のごとく自在に動いた。
それに意味があるのかはともかくとして、六翼すべてを別個に動かすことも可能だ。
また変異は翼だけではなかった。
黒髪黒瞳で凡庸な顔立ちの標準的な日本人だったルシフェルは、透き通ったプラチナブロンドの髪と黄金の瞳を持つ美少年へと生まれ変わっていた。
そう少年である。
もはやルシフェルは腹回りに贅肉を蓄えた元のうだつの上がらないアラサーではない。
容姿にしても中性的で少女と見紛うような美しい顔立ち。
声なんて鈴の音のように清らかだ。
身長も一回り以上小柄になってしまって、着ていたスーツはぶかぶかである。
ちなみにこのスーツ。
当然ながら背中の部分は翼のせいで大きく破れていた。
◆
「さてと……」
草原に直に座っていたルシフェルは、立ち上がりお尻をパンパンと叩く。
空を見上げると、おもむろに翼を羽ばたかせた。
ばさり、ばさり。
六枚の翼が動くたびに周囲の風が巻き上げられる。
線の細いルシフェルの身体がふわりと浮いた。
ルシフェルはこの3日間というもの、寝食も忘れてずっと飛行の訓練をしていた。
その甲斐あって、いまでは自由自在に空を飛び回ることが出来るようになっていた。
宙に浮かび上がったルシフェルは、今度は少し大胆に翼を動かす。
ゆっくりと加速して空へと飛び立った。
◇
気分が高揚する。
「あは、あはは……!」
思わず声が出た。
福音のラッパでも吹き鳴らしたい気分。
空を飛ぶ。
それがこんなに気持ちの良いことだとは。
重力のくびきから解き放たれ、行く手を遮るものなど何ひとつない大空を飛ぶ。
頬に、翼に、風を感じながら何処にだって飛んでいける。
ルシフェルは自由を謳歌していた。
(ああ、空は祝福に満ちている)
ルシフェルは身を震わせた。
歓喜が全身を駆け巡る。
高く飛べば飛ぶほどに、父なる神の愛がはっきりと感じられるようになっていくのだ。
もっとこの愛を感じたい。
「……よし。もう十分飛べるようになったし、これなら――」
舞うように空を飛び回りながら、ルシフェルは更なる上空を目指す。
もっと高くまで飛んでみたい。
天へと至りたい。
頭上を覆うあの雲を突き抜けて、眼下に雲海を見渡せる高さまで。
それは天使の本能だ。
ルシフェルは神に引き寄せられるように、天界を目指す。
しかし天を目指す為には障害があった。
その障害とはまるで天と地の間に挟まって、蓋をするかのように空を泳ぐあのクジラのような存在だった。
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