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その名もルシフェル教。
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大規模な人間洗脳計画は、実行に移す前に頓挫した。
しかし信仰心集めを諦める訳にはいかない。
ルシフェルは新たな方策を模索する。
「うーん。どうしたものかなぁ」
先の奴隷での結果から、霊子力の効率的な回復には自発的な信仰集めが肝要だと判明している。
その為には――
「……俺、新興宗教でも興してみようかなぁ。なんちゃって」
宗教団体を作って信者を募る。
そして集まった信者に、自発的に信仰してもらうのだ。
ルシフェルの呟きに、グウェンドリエルが賛同する。
「まぁまぁ! それは素晴らしいお考えですわ! さすがはルシフェル様。さしずめ新しく興す宗教は『ルシフェル教』という所でしょうか。私、もちろん入信致します。信者第一号ですわ!」
「ジズも! ジズも入信するの! ジズも信者第一号なの!」
ジズは両手を上げてピョンピョン飛び跳ねている。
そのそばでは、アダムとイヴも控えめに手を上げて入信の意を示している。
「……ふむ。ルシフェル教か」
命名がなんとも気恥ずかしい。
ルシフェルは苦笑した。
「あはは。なんか照れるけど、信仰対象は俺なんだし、まぁそうなるよね。……あ、でもグウェンドリエルやジズに入信してもらっても仕方ないでしょ。これは人間から信仰心を集めるための方便なんだからさ」
「そうですか。残念ですわ」
「むー。信者第一号になりたかったの……」
グウェンドリエルとジズがしょんぼりした。
逆にアダムとイヴはホッとしている。
このふたりは人間なので、ルシフェル教が興った暁には問題なく入信が叶うからである。
ルシフェルはシェバトに尋ねる。
「ねえ、シェバト。いまの新しい宗教を作る案、シェバトはどう思う?」
「素晴らしきお考えかと存じます。しかし一から宗教を興されるのは骨が折れましょう」
「うーん、まぁそうだね。大変かもしれない。俺は宗教を興すノウハウなんてのもさっぱり知らない訳だし……」
「でしたらルシフェル様。私に良い考えがございます。具申お許し頂けますでしょうか」
「うん、もちろん」
「ありがとうございます。一から作るとなると時間も労力も掛かります。そこでルシフェル様におかれましては、この地で今現在、もっとも広まっている宗教を乗っ取られては如何でしょうか」
「はぇ? 乗っ取り?」
またシェバトが物騒なことを言い出した。
さっきから洗脳案といい、シェバトは合理的ではあるものの発案にかなり容赦がない。
ルシフェルはちょっと警戒する。
シェバトが続ける。
「はい。乗っ取りに御座います。私どもが事前に調べましたところ、この地ではマスティマ教なる邪教が広まっている様子。ですのでまずその邪教の教主を排除します。然るのちにルシフェル様はその地位を奪い取り、信者から信仰を集めるので御座います」
「排除ってまた乱暴だなぁ。確かにそうしたら、宗教団体の創立やら布教の手間なんかは全部省けるけど……」
◇
ルシフェルは思案する。
シェバトは邪教というが、よくよく聞いてみるとそれはバーレティン王国の国教らしい。
であるなら、それなりにまともな宗教なのだろう。
それを乗っ取る。
「う、うーん……」
何かこう、ちょっとおかしい気がする。
でもシェバトは乗っ取りくらい当然という態度だ。
ルシフェルは悩んだ。
俺が変なのか?
シェバトがまともで、この世界では宗教の乗っ取りくらい普通なのか?
じゃあ別にいいのかなぁ。
ルシフェルは流されかけた。
この辺り、他人の意見に染まりやすい日本人的感覚と言えなくもない。
けれどもこの提案には、意外な所から待ったが掛かった。
グウェンドリエルが難色を示したのである。
「シェバト、お待ちなさい。今の案はよろしくありませんわよ」
シェバトが応じる。
「これはグウェンドリエル様。御意見ありがとう存じます。して、何故よろしくないのでしょうか」
「それは簡単ですわ。教えて差し上げます。いま貴女の提案した乗っ取りとは、つまり『使い古しの団体をルシフェル様に献上する』と、そういう意味ですわね? つまり中古ですわ。しかも元は邪教でしょう? それは正しいことですの? 私にはとてもそうは思えません」
シェバトはハッとした。
端正な眉を珍しく歪め、苦々しい表情で頭を下げる。
「ああ、グウェンドリエル様! 仰られます通りに御座います。不肖このシェバト。効率を求めるあまり、天使メイドの身にあるまじき不敬を働いてしまう所にございました。使い古された邪悪な団体など、尊きルシフェル様に相応しい筈が御座いません!」
「ふふふ。分かれば良いのですわ」
「御助言、まことに感謝致します」
礼を述べてから、シェバトは考えを改めた。
「それではルシフェル様。ルシフェル教は一から興すことと致しましょう。教義や儀式行事などは私ども七座天使メイド隊の方で用意させて頂きます。残る問題は……布教に御座いますね。さて、如何致しましょう」
これにはジズが応じた。
「はいはい、はーい! ジズ、いい事思い付いたの!」
話し合いは続く。
しかし信仰心集めを諦める訳にはいかない。
ルシフェルは新たな方策を模索する。
「うーん。どうしたものかなぁ」
先の奴隷での結果から、霊子力の効率的な回復には自発的な信仰集めが肝要だと判明している。
その為には――
「……俺、新興宗教でも興してみようかなぁ。なんちゃって」
宗教団体を作って信者を募る。
そして集まった信者に、自発的に信仰してもらうのだ。
ルシフェルの呟きに、グウェンドリエルが賛同する。
「まぁまぁ! それは素晴らしいお考えですわ! さすがはルシフェル様。さしずめ新しく興す宗教は『ルシフェル教』という所でしょうか。私、もちろん入信致します。信者第一号ですわ!」
「ジズも! ジズも入信するの! ジズも信者第一号なの!」
ジズは両手を上げてピョンピョン飛び跳ねている。
そのそばでは、アダムとイヴも控えめに手を上げて入信の意を示している。
「……ふむ。ルシフェル教か」
命名がなんとも気恥ずかしい。
ルシフェルは苦笑した。
「あはは。なんか照れるけど、信仰対象は俺なんだし、まぁそうなるよね。……あ、でもグウェンドリエルやジズに入信してもらっても仕方ないでしょ。これは人間から信仰心を集めるための方便なんだからさ」
「そうですか。残念ですわ」
「むー。信者第一号になりたかったの……」
グウェンドリエルとジズがしょんぼりした。
逆にアダムとイヴはホッとしている。
このふたりは人間なので、ルシフェル教が興った暁には問題なく入信が叶うからである。
ルシフェルはシェバトに尋ねる。
「ねえ、シェバト。いまの新しい宗教を作る案、シェバトはどう思う?」
「素晴らしきお考えかと存じます。しかし一から宗教を興されるのは骨が折れましょう」
「うーん、まぁそうだね。大変かもしれない。俺は宗教を興すノウハウなんてのもさっぱり知らない訳だし……」
「でしたらルシフェル様。私に良い考えがございます。具申お許し頂けますでしょうか」
「うん、もちろん」
「ありがとうございます。一から作るとなると時間も労力も掛かります。そこでルシフェル様におかれましては、この地で今現在、もっとも広まっている宗教を乗っ取られては如何でしょうか」
「はぇ? 乗っ取り?」
またシェバトが物騒なことを言い出した。
さっきから洗脳案といい、シェバトは合理的ではあるものの発案にかなり容赦がない。
ルシフェルはちょっと警戒する。
シェバトが続ける。
「はい。乗っ取りに御座います。私どもが事前に調べましたところ、この地ではマスティマ教なる邪教が広まっている様子。ですのでまずその邪教の教主を排除します。然るのちにルシフェル様はその地位を奪い取り、信者から信仰を集めるので御座います」
「排除ってまた乱暴だなぁ。確かにそうしたら、宗教団体の創立やら布教の手間なんかは全部省けるけど……」
◇
ルシフェルは思案する。
シェバトは邪教というが、よくよく聞いてみるとそれはバーレティン王国の国教らしい。
であるなら、それなりにまともな宗教なのだろう。
それを乗っ取る。
「う、うーん……」
何かこう、ちょっとおかしい気がする。
でもシェバトは乗っ取りくらい当然という態度だ。
ルシフェルは悩んだ。
俺が変なのか?
シェバトがまともで、この世界では宗教の乗っ取りくらい普通なのか?
じゃあ別にいいのかなぁ。
ルシフェルは流されかけた。
この辺り、他人の意見に染まりやすい日本人的感覚と言えなくもない。
けれどもこの提案には、意外な所から待ったが掛かった。
グウェンドリエルが難色を示したのである。
「シェバト、お待ちなさい。今の案はよろしくありませんわよ」
シェバトが応じる。
「これはグウェンドリエル様。御意見ありがとう存じます。して、何故よろしくないのでしょうか」
「それは簡単ですわ。教えて差し上げます。いま貴女の提案した乗っ取りとは、つまり『使い古しの団体をルシフェル様に献上する』と、そういう意味ですわね? つまり中古ですわ。しかも元は邪教でしょう? それは正しいことですの? 私にはとてもそうは思えません」
シェバトはハッとした。
端正な眉を珍しく歪め、苦々しい表情で頭を下げる。
「ああ、グウェンドリエル様! 仰られます通りに御座います。不肖このシェバト。効率を求めるあまり、天使メイドの身にあるまじき不敬を働いてしまう所にございました。使い古された邪悪な団体など、尊きルシフェル様に相応しい筈が御座いません!」
「ふふふ。分かれば良いのですわ」
「御助言、まことに感謝致します」
礼を述べてから、シェバトは考えを改めた。
「それではルシフェル様。ルシフェル教は一から興すことと致しましょう。教義や儀式行事などは私ども七座天使メイド隊の方で用意させて頂きます。残る問題は……布教に御座いますね。さて、如何致しましょう」
これにはジズが応じた。
「はいはい、はーい! ジズ、いい事思い付いたの!」
話し合いは続く。
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