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第2部 『華胥の国の願い姫』
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しおりを挟む懐かしの人達との邂逅は、4対1で向かい合い黒髪黒目ではない俺を再認識する事から始まった。
俺にとっては数少ない知り合いだけどジルベルトさん達にしてみればほんの数日でいなくなった宿屋の臨時アルバイト。そんな相手の顔なんてうろ覚で当たり前でそのうろ覚えの相手の一番の特徴が違っていたら分からなくたって仕方ない、俺だって多分同じだ。
そしてジルベルトさん達の興味は黒髪じゃない理由よりも色を変えたポーションに向いた事がちょっと面白かった。
「綺麗な黒髪のトーヤじゃないのは残念だけど可愛いのは変わってないや。」
「……ちゅうはダメですよ。」
腰に伸びたロウの手に慌てて口と頬をガードしたら以前のようにむくれるかと思いきや嬉しそうに笑った。
「わはっホントにトーヤだ。」
うん、ロウもね。人懐っこい笑顔も油断ならないハグも相変わらずだ。
「この方達は僕がマデリンにいる時にお世話になった方々でそちらからジルベルトさん、レオンさん、シリルさんにロウさんです。で、こちらが今お世話になってる桜の庭で院長をしてらっしゃるノートンさんとサーシャにディノ、双子のロイとライ。それから騎士のセオさんです。」
「よろしくな。」
「こんにちは。」
「ウス。」
「オッス。」
改めましての紹介は俺の隣にロウ、銀髪ツンツン頭の無口なシリルさんに栗色の肩までの髪を横結びにした美形のレオンさん、焦げ茶の髪を刈り上げた筋肉ムキムキのジルベルトさん、その横にノートンさんが俺との間に子供達を挟んで輪になる形で座った。
クラウスとセオが立っていても大柄な男が4人も増えると大きなはずのピクニックシートはさすがに手狭だ。
ちなみにジェシカさんは追加のコーヒーを買いに行ってくれていて、何故セオがいるかというと隊長さんが『愛し子の警備』という名目で置いてってくれたから。
あれだけあった人垣は誤解が解けたと同時に騎士達が解散させてくれたけれどお揃いの服を着た可愛い子供達(俺を除く)と冒険者という組み合わはちぐはぐで人目をひく、そこへクラウスにセオという制服の騎士が加われば近くで行われてる演目と同じくらい道行く人の視線を集めていた。
そんな中、見慣れない大きな4人の冒険者におっかなびっくりの子供達がココアラテを飲む手を止めペコリと頭を下げるよそ行きな仕草がなんとも言えず可愛らしい。
「いやぁ今回は身内が大変ご迷惑をおかけしました。」
一番の年長者であろうジルベルトさんがもう一度さっきの騒ぎをノートンさんに謝罪した。
「こちらこそトウヤくんの知り合いとは思わなかったもので誤解して申し訳なかったね。」
「そうだよなのにいきなりあのガキがさぁ!」
「お前は黙ってろ。」
「痛ぁっ!てかなんでソイツまだいるの!?」
ノートンさんの後ろに立つセオを睨み付けながらロウが口を開いたらレオンさんのげんこつが飛んできた。
聞く所によればロウは子供達が『桜の庭』の子供達か確認した後にノートンさんに俺の事を訪ねたそうで見ず知らずの冒険者への対応を考慮していたら通りかかったセオがいきなり取り押さえたらしかった。
「その子はうちの身内でね、私達を心配してのことだから許してやって欲しい。」
「そもそもこの男は子供達への声掛けで問題になってた男です、ノートンさんが謝る必要などありません。」
「なんだよだいたい『桜の庭』に近寄らせない騎士の奴らが悪いんだろ!」
「だから黙れって。」
「はっ、粗暴な冒険者など大切な愛し子に近寄せるわけ無いだろう。」
セオの態度に再び声を荒らげたロウを今度はシリルさんが殴りつけそれを見たセオが鼻で笑った。いつもとまるで違うこんな粗暴なセオの姿はちょっと新鮮でまじまじと見てしまったら気を悪くしたのかふいっとそっぽを向かれてしまった。
それにしても『近寄れなかった』って事は『桜の庭』まで訪ねてくれようとしたのかな?そしたら俺も驚かずに済んだのに。
なんて思ったけど確かにジルベルトさん達の事は話したことなかったから冒険者と俺が接点があるとは思わないよね、俺だって『とまりぎ』のお客さんじゃなかったら怖くて挨拶すらしなかったと思う。
「普段は地方を拠点にという事ですが今回はトウヤ君に会いに王都へ?」
「いやまぁこの状況はもののついでと言うか装備の新調や質のいいポーションやらを手に入れるついでに王都に桜祭りへ来るのがなんとなくうちの毎年の恒例行事みたいなものなんです。ついでに桜の採取依頼を受ければ安くつくし戻る時も上手くいけば割のいい護衛依頼を受けたりなんか出来るんでね。」
「じゃあ今年は採取依頼が無くなってがっかりされたんじゃないですか?」
自虐的な質問だと思うけどジルベルトさん達は間違いなくあてが外れてしまったわけで、ならば当事者である人にそれを聞かずにはいられなかった。
「よく知ってるなトーヤ、確かに王都に着いて驚いたけど俺達ががっかりしたかって?そんなのがっかりするどころか仕事もしてないのに貰えない筈の移動費に王都一泊分の宿代まで貰えたとあったらニヤつく顔をごまかすのに必死だったぜ。新年早々飛び出してきた甲斐があったよな。」
「ああ、マデリンのギルドでも夕方には取り下げられたらしいからソフィアにも感謝しなくちゃ、『枯れないうちに行ってこい』って叩き出されたのが良かったよね。しかも宿代なんか個室シャワー付きの高級宿に泊まれる金額だったから俺らの泊まってる宿のなんと3日分!お陰で随分得しちゃったよ。」
ジルベルトさんもレオンさんもニヤニヤしている。
「本当に?」
「ホントホント。」
「……良かった。」
クラウスの言ったとおりだ。
疑ってたわけじゃないけれど当事者であるジルベルト達の飾りのない言葉は俺の心をより一層軽くしてくれたのだった。
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