最強の薬師、婚約破棄される〜王子様の命は私の懐の中〜

その6

「ボアジエ・リンプルさん。あなたを逮捕します！」

リンプルとアンナが顔を合わせたのは、学校を卒業して以来のことだった。リンプルは薬師として、アンナは諜報員として、それぞれの道を歩み出してからは、初めてだった。

「アンナ？一体どうしたというの？」

「逮捕令状が出ています。ファンコニー様事故死殺害計画の容疑で逮捕します！」

「ちょっと待ってよ……何をいきなり言い出すのかと思えば……」

この時、アンナは薬師研究所で、新薬合成の実験をしていた。当然、ファンコニーが道端で意識を失って倒れたということを知らなかった。

「ファンコニー様事故死殺害計画ですって？どうして私がファンコニー様をそんな目に合わせなくてはならないのよ？」

「とぼけるつもりですか？証拠は全て押収しています。それに……ファンコニー様の証言も揃っています。あなた、ファンコニー様に通常よりも多い薬を処方しましたね？」

「ええ、最近、ファンコニー様の容体が変化したから……それに合わせて薬の量を増やしたのよ」

「それは故意に増やしたのではないですか？」

「そんなことするわけないでしょう！」

今まで冷静だったリンプルが、ついに声を荒げた。

「あなた、何のつもりか知らないけれど、私はファンコニー様の婚約者なのよ？私がファンコニー様を殺す理由なんてないでしょうが！」

リンプルは、学生時代にも何度かアンナに意地悪されたことがあり、その度に怒りを覚えることがあった。しかし、これほどまでの怒りではなかった。

「人を犯人呼ばわりして！あなた、こんなバカげた遊びをするために、諜報員になったの？」

「バカげた遊びですって？あんまり調子に乗らない方がいいわよ？まあ、いいわ。とにかく、連行しますから。話は後でゆっくり聞きますからね……」

アンナの手下の男たちが、リンプルを取り囲んだ。とりあえず、この場を乗り切ることができないと判断したリンプルは、大人しく逮捕された。