上 下
126 / 168
1章 幸せの花園

43 死に様 (1)

しおりを挟む
「ノアールはどうなの?どう死にたい?」

 突然に振られた話題。
 ノアは思わずぱちぱちと瞬きをした。

 ———死。

 頭の中に浮かんで消えていったのは、ノアを苛む悪魔の声。

 父王が、

 母妃が、

 誉高き騎士たちが、

 ティアラが、

 血に塗れた身体でノアに迫ってくる。
 うめき声のような絶叫をあげながら、白目を剥き、ノアの身体を闇の中に引き摺り込もうと服を、腕を、足を、掴んでくる。掴んで、離してくれない。

「ぼく、は………、」

 真っ白に染まった頭が、青白く血の気が引いた頬が、ノアの思考を奪っていく。
 いつ何時も冷静沈着でいなければならないのに、気がつけば闇に飲まれかける。

 そういう時は必ず———、

「ノアぁ」

 鼻腔をくすぐったのは少し苦味のある薬草の香り。
 ふわっと背中から抱きしめられたノアは、身体から要らない力がふっと抜けるのを感じた。

「………魔女さま………………」

 安堵の吐息がこぼれ落ちる。
 心がふっと軽くなって、世界が色付く。

「大丈夫ぅ?ノアぁ」
「だい、じょうぶです………、」

 魔女の腕にぐずぐずと顔を埋めて深呼吸をしたノアは、ゆっくりと思考をまとめてからリュシエンヌに顔を向ける。
 少し歪な笑みを浮かべたノアは、小さく声を上げた。

「僕は、他人に………迷惑をかけずに死にたい。誰の足も引っ張らず、誰にも迷惑をかけず、ただただ、ひっそりとひとりで死にたい」

*************************

読んでいただきありがとうございます🐈🐈🐈

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

完 あなたに捧ぐメリークリスマス

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:5

俺の妹が優秀すぎる件

青春 / 連載中 24h.ポイント:284pt お気に入り:2

百鬼夜荘 妖怪たちの住むところ

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:704pt お気に入り:16

役目を終えて現代に戻ってきた聖女の同窓会

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,911pt お気に入り:77

会社を辞めて騎士団長を拾う

BL / 完結 24h.ポイント:584pt お気に入り:34

本物の悪女とはどういうものか教えて差し上げます

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:47

処理中です...