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「ただいまー」
「涼大、おかえり!」
「涌田部長、ただいま戻りました」
「もー、家ではやめてよ!」
ぱたぱたと玄関まで小走りでやってきて出迎えてくれたのは、涌田 慎一、俺の上司であり、恋人だ。
俺があげた明らかに大きいトレーナーをゆるっと着て、にこにこと会社では絶対に見せない笑顔を浮かべている。
はー、かわいい。
半年前、慎一と俺はマッチングアプリで衝撃的な出会いを果たした。気づけば俺は恋に落ち、口説こうにものらりくらりと躱され、色々あったが最終的には慎一に泣きついて付き合ってもらった。自己肯定感の低い男に本気だと信じてもらうのは、まじで大変だった。
そして当然、会社のみんなにこの関係は秘密だ。
「みそ汁作ってあるよー。おにぎりはいらなかったら明日食べるから」
「うわー、嬉しい。おにぎりもいま食べていい?」
ダイニングの椅子に座ると、さっと温められたみそ汁とおにぎりが目の前に置かれた。みそ汁の具は、アサリだ。
目の前に座った慎一は、夜食を食べる俺を嬉しそうに見つめた。
度の入っていないブルーライトカットの眼鏡は仕事中しかつけていない。長めの前髪もいまはセンターで分けられて、白い額をさらしている。
十人中九人は平凡な顔立ちと評するだろう。でも奥二重の眠たげな目は黒目がちで、キラキラとした瞳で見つめられると俺の胸はときめきで満たされる。
慎一の魅力は俺だけが知っていればいい。恋人を独占できることに、こんなにも幸せを感じる日が来るとは思わなかった。
家庭的な慎一と大ざっぱな俺が上手く行っているのは、慎一の優しさと大らかさによるところが大きい。
慎一は仕事では完璧主義だが部下に対して怒ることがないように、恋人に対しても神経質だったり俺に何かを押し付けることは決してない。
でも俺は知っている。つい頑張りすぎて我慢してしまう癖のある慎一は、ストレスを溜め込みやすい。
それをどう支えていくかが、俺の目下の課題だったりする。
「今日、悪かったな。俺のせいで残業になったりしなかった?」
「あのくらい大したことないよ!他の件でちょっと残業したけど、いつものことだから」
「慎一、ひとりで無理するなよ。なにかあったら、退社後でも呼び戻してくれていいから」
「えー?そんな横暴上司みたいなこと、できないよ」
「彼氏特権だろ?」
「う……」
カァッと顔を赤らめて慎一は目を逸らした。年上だけど些細なことで照れる恋人が愛おしくて、わざと甘い言葉を投げかけてしまう。今まで付き合ってきた男がこれを見たら、驚いて倒れるかもしれないな。
俺はにやにやと口角を上げながら食事を進めた。
シャワーを終えて上半身裸のまま戻ると、ダイニングは片付けられ寝室に薄明かりが点っていた。
俺は促されるように寝室へと足を踏みいれると、ヘッドボードに背中を預けていた慎一が顔を上げた。
間接照明の光のせいか、瞳は少し潤んで見えた。
「待ったか?」
近づきながら尋ねれば、慎一は両手をついてダブルベッドの上を移動してきて「ん。」と唇を突き出した。
うっ……反撃か。言葉には出さない甘え方に内心撃ち抜かれつつ、差し出された唇を受け取る。
はじめはすぐに離して視線を交わす。きっと俺の目には情欲が浮かんでいるのが見えただろう。二度目は深いキスになった。
両手で小さな頭を抱え、唇の隙間から舌を差し入れ、温かい口内を犯す。
「んっ……んぅ」
甘い声が漏れだす。舌をからめ取り、知り尽くした弱いところをくすぐれば、慎一は身体ごとぴくぴくと反応させた。
腕を引かれるままベッドの上へ乗り上げ慎一に覆いかぶさる。トレーナーの襟もとから細い鎖骨を覗かせて、恍惚とした表情を浮かべる恋人が眼下にいた。
(うまそ……)
ときどき食べたいくらいたまらない気持ちになる。思わず鎖骨に吸いついてそのまま首筋を舌で愛撫すると、慎一は大きな声を上げて肢体をくねらせた。
「ひゃぁ!く……んっ……くすぐったいからぁ」
「くすぐったいだけじゃ、ないくせに」
言葉に意地悪な色をのせて告げれば、ひくっと喉を震わせて、よりいっそう目が蕩けた。
ここだけの話、慎一は軽い言葉責めがお気に入りのようだ。俺は行為の最中に喋るのは苦手だったが、慎一が乱れる姿を見るのはけっこう楽しい。
「涼大、おかえり!」
「涌田部長、ただいま戻りました」
「もー、家ではやめてよ!」
ぱたぱたと玄関まで小走りでやってきて出迎えてくれたのは、涌田 慎一、俺の上司であり、恋人だ。
俺があげた明らかに大きいトレーナーをゆるっと着て、にこにこと会社では絶対に見せない笑顔を浮かべている。
はー、かわいい。
半年前、慎一と俺はマッチングアプリで衝撃的な出会いを果たした。気づけば俺は恋に落ち、口説こうにものらりくらりと躱され、色々あったが最終的には慎一に泣きついて付き合ってもらった。自己肯定感の低い男に本気だと信じてもらうのは、まじで大変だった。
そして当然、会社のみんなにこの関係は秘密だ。
「みそ汁作ってあるよー。おにぎりはいらなかったら明日食べるから」
「うわー、嬉しい。おにぎりもいま食べていい?」
ダイニングの椅子に座ると、さっと温められたみそ汁とおにぎりが目の前に置かれた。みそ汁の具は、アサリだ。
目の前に座った慎一は、夜食を食べる俺を嬉しそうに見つめた。
度の入っていないブルーライトカットの眼鏡は仕事中しかつけていない。長めの前髪もいまはセンターで分けられて、白い額をさらしている。
十人中九人は平凡な顔立ちと評するだろう。でも奥二重の眠たげな目は黒目がちで、キラキラとした瞳で見つめられると俺の胸はときめきで満たされる。
慎一の魅力は俺だけが知っていればいい。恋人を独占できることに、こんなにも幸せを感じる日が来るとは思わなかった。
家庭的な慎一と大ざっぱな俺が上手く行っているのは、慎一の優しさと大らかさによるところが大きい。
慎一は仕事では完璧主義だが部下に対して怒ることがないように、恋人に対しても神経質だったり俺に何かを押し付けることは決してない。
でも俺は知っている。つい頑張りすぎて我慢してしまう癖のある慎一は、ストレスを溜め込みやすい。
それをどう支えていくかが、俺の目下の課題だったりする。
「今日、悪かったな。俺のせいで残業になったりしなかった?」
「あのくらい大したことないよ!他の件でちょっと残業したけど、いつものことだから」
「慎一、ひとりで無理するなよ。なにかあったら、退社後でも呼び戻してくれていいから」
「えー?そんな横暴上司みたいなこと、できないよ」
「彼氏特権だろ?」
「う……」
カァッと顔を赤らめて慎一は目を逸らした。年上だけど些細なことで照れる恋人が愛おしくて、わざと甘い言葉を投げかけてしまう。今まで付き合ってきた男がこれを見たら、驚いて倒れるかもしれないな。
俺はにやにやと口角を上げながら食事を進めた。
シャワーを終えて上半身裸のまま戻ると、ダイニングは片付けられ寝室に薄明かりが点っていた。
俺は促されるように寝室へと足を踏みいれると、ヘッドボードに背中を預けていた慎一が顔を上げた。
間接照明の光のせいか、瞳は少し潤んで見えた。
「待ったか?」
近づきながら尋ねれば、慎一は両手をついてダブルベッドの上を移動してきて「ん。」と唇を突き出した。
うっ……反撃か。言葉には出さない甘え方に内心撃ち抜かれつつ、差し出された唇を受け取る。
はじめはすぐに離して視線を交わす。きっと俺の目には情欲が浮かんでいるのが見えただろう。二度目は深いキスになった。
両手で小さな頭を抱え、唇の隙間から舌を差し入れ、温かい口内を犯す。
「んっ……んぅ」
甘い声が漏れだす。舌をからめ取り、知り尽くした弱いところをくすぐれば、慎一は身体ごとぴくぴくと反応させた。
腕を引かれるままベッドの上へ乗り上げ慎一に覆いかぶさる。トレーナーの襟もとから細い鎖骨を覗かせて、恍惚とした表情を浮かべる恋人が眼下にいた。
(うまそ……)
ときどき食べたいくらいたまらない気持ちになる。思わず鎖骨に吸いついてそのまま首筋を舌で愛撫すると、慎一は大きな声を上げて肢体をくねらせた。
「ひゃぁ!く……んっ……くすぐったいからぁ」
「くすぐったいだけじゃ、ないくせに」
言葉に意地悪な色をのせて告げれば、ひくっと喉を震わせて、よりいっそう目が蕩けた。
ここだけの話、慎一は軽い言葉責めがお気に入りのようだ。俺は行為の最中に喋るのは苦手だったが、慎一が乱れる姿を見るのはけっこう楽しい。
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