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くだんの彼女とバッタリ遭遇※またの名を【夜会事件】

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 エイダンは、グレーゲルとシャリスタンが女性限定の協力関係を築いていることを知っている。

 だからこう続けたかった。「シャリスタンが見たら、口説かれちゃうかもね」と。

 けれどもユリシアは、違う意味に取ってしまい、オロオロとグレーゲルとエイダンを交互に見る。

 その結果、グレーゲルが苦々しい顔で口を開いた。

「……ユリシア」
「はい」
「今、こいつが言ったことは忘れろ」
「?……あ、はい」
「いいな」
「はい!」

 否と言ったら天変地異が起こりそうな迫力に気圧され、ユリシアは元気よく返事をした。

「それと、エイダン」
「な、なんだい」
「今、あんたが言ったことは」
「え?僕、何か言ったっけ??」
「よし」

 小刻みに首を横に振りながらとぼける演技をしたエイダンに、グレーゲルが及第点を出す。

 そんな3人のやり取りを最年長のブラグストは、じっと傍観していた。

 だがあまりの空気の悪さに、無意識に懐から葉巻を出す。そして先端に触れ、己の魔力でジッと火を付けた途端、鋭い視線を感じた。

 グレーゲルが鬼の形相で睨み付けていた。

「陛下、金輪際、ユリシアの前では葉巻は吸わないでいただきたい」
「へぇ!?」

 間抜けな声を出すブラグストは、国王の威厳は無かった。だが取り乱すのは仕方がない。

 だってこれまでのグレーゲルは、ヘビースモーカーだったから。しかも図々しくも国王陛下に向かって「1本よこせ」と強請ることもたびたび。

 それに魔法大国原産の葉巻は、魔力を補うために吸うもの。嗜好品とはちょっと違うし、吸ったところで人体に悪影響は無い。

 だから婚約者が部屋に煙が充満することや、独特の香りを嫌ったとしても、そこはちゃんとマルグルス国民として諭さなければならない。

 ……などと思ってみたものの、ブラグストは黙って葉巻の火を消した。

「すまんかったね、ユリシア嬢」

 小さな反抗としてグレーゲルではなくユリシアに詫びの言葉をかければ、言われた側は涙目になる。

「……とんでもないです。あの……どうぞ、わたくしのことは気にせずお吸いになられて」
「やめろ、ユリシア。陛下だってそろそろ健康を考えた方が良い年だ。そうだろ?」
「ソウダネー。ソウダヨネー」

 あまりのグレーゲルの変わりように、ブラグストは片言になりながらも同意する。

 そんな中、エイダンがそそそっと気配を消してバルコニーに移動する。どうやらこっそり一服しに行くようだ。

 ちゃっかり者の息子と、捕虜としてやってきた女性にベタ惚れの甥を見て、マルグルス国王は色々思うところがある。

 しかし彼は国の頂点に立つ男。喉まで出かかった言葉をぐっと飲み込んで、ユリシアににこりと笑いかける。

「出会い早々に、色々悪かったね。ま、気を取り直して、今日は楽しんでくれたまえ」
「……はい」

 重ぐるしい空気を変えようとわざと明るく声をかけたというのに、その思いは届かず……ユリシアは涙目になりながら小さく頷いた。
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