銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 村長が「お待ちを」と言って、部屋の奥へ消えた。
 三人の息づかいしか聞こえない静かな部屋の中を、俺は隅から隅まで眺める。必要最低限のものしか置かれていない簡素な部屋。棚にきれいに並べられた色とりどりの石が、灯りの下できらめいて美しい。
 俺は席を立つと、石の前まで行き顔を寄せた。

「この村で採れる宝石は、とても美しいと他国でも評判です。我が国の重要な収入源です。この村があるゆえ、ラシェット様の領地は王都と並ぶ地位にあるのです」
「ユフィ、それだけじゃないだろ。ラシェット様の優れたお人柄もあるぞ」
「それは言わずもがなだ。リアム様、失礼なことを聞きますが、よろしいですか?」
「ん?構わないぞ。なんでも聞いてくれ」

 ユフィとテラも席を立ち、俺の傍にくる。
 俺は緑色の石を見つけて、指で摘んで持ち上げた。

「美しいな。まるで…」
「なんです?」

 フィーの瞳みたいだ。これを指輪にしてフィーの指にはめたらきっと似合う。ペンダントにしてフィーの白い肌の上で揺れるのも見たい。
 そんなことを考えて口元がだらしなく緩んでしまった。俺は小さく咳払いをしながら「なんでもない」と呟いて石を元の場所に戻す。目線を少し横にずらすと、今度は俺の瞳と同じ紫の石を見つけた。その石に指で触れようとした時、俺の後ろからテラが覗き込んだ。

「わっ、本当にきれいな宝石ばかりですね!あっ、その石、リアム様の瞳にそっくりだっ」
「そうか」
「この宝石を買って帰って、大切な方に贈られたらどうですか?喜ばれると思いますよ」
「ふむ…そうだな。テラとユフィ、おまえ達はこういう物を贈りたい相手はいないのか?」
「「いないです」」

 二人の声が揃う。
 俺はなんだか可笑しくなって、ぷっ…と吹き出してしまった。

「ふふっ、おまえらモテそうなのにな。ユフィは選り好みしてるんだろうが、テラは気性が難点なのか?」
「だからあっ、俺は優しいんですってっ」
「あははっ、悪い。おまえの素直な反応が面白くて、ついからかってしまう。すまない」
「いえ…リアム様が楽しいならいいです」

 からかわれて嫌な思いをしたなら、主が相手でも怒っていいのに。でも怒らずにいいと言えるテラは、本当に優しい青年だ。
 俺はひと通り笑って、ユフィを振り返る。

「そういえばユフィ、聞きたいこと…」
「お待たせ致しました」

 言葉の途中で、ようやく村長が戻ってきた。木の箱を机に置き、中から湯気の立つカップを出して並べる。

「夜の移動は寒かったでしょう。どうぞ温かいお茶を飲んでください」
「ありがとう」

 俺はユフィに「後で」と囁くと、席に戻って腰を下ろした。
 二人も俺の両隣に座る。
 目の前の湯気の立つカップが熱そうだ。そっと両手で包むと、冷えた指先が熱に触れてジンジンとする。
 ユフィが俺に目配せをして、カップを持ち上げて匂いを嗅いだ。そしてお茶を唇につけると、すぐにカップを机に戻した。
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