銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹

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 村長はラズールを見上げるのに疲れたのか、視線を机の上に落として続けた。

「その結界が破られた。そして採掘場の奥深くの、宝石の原石が盗まれたのじゃ」
「結界を破った?では犯人にも魔法を使える者がいたということですか」
「そういうことになる」

 ラズールが親指と人差し指をあごに当てる。何かを考えているのだ。
 僕が見ていることに気づくと、面で表情がわからないけど微笑んだように感じた。

「それが何日も続いた?」
「そうだ。最初に結界が破られてすぐに、更に強い結界を張った。でも夜には破られた。その次の日にはもっと強い結界を張り、見張りもつけた。だが見張りは眠らされ、三度結界は破られた」
「それは…並の人物ではないですね」
「わしは魔法が使えんからよくわからんが、結界を破るということは、魔法が使えるということだろう?だとすれば、その者はある程度の位の人物ということ…」
「まあ…そうなりますね」

 僕は膝に置いた手を見つめた。
 魔法を使えるのは、王族と王都に仕える大臣か騎士。もしくは各地にいる領主とその家族、領主に仕える大臣か騎士だ。もしもその者達が関わっているとしたら、これは謝って済む問題じゃない。バイロン国との間で本当に戦が起こるかもしれない。
 しかし賢王だと言われた母上の目が厳しく行き届いてる国内で、そのような悪事を働ける者がいるとは考えられない。
「それで?」と促すラズールの声を、僕は俯いたままで聞く。

「強力な結界を張っては破られるという日が続き、かなりの石を盗まれた。しかし数十日前に、ピタリと盗みが止まった。見張りに立つ者も眠らされないし、結界も破られなくなった」
「それは充分に石が手に入ったことで、満足したのでは」
「そうかもしれぬ」
「では村長、なぜ隣国イヴァル帝国の民だと思ったのですか?」
「村人の何人もが見たんじゃ。結界が破られなかった最後の夜、怪しい男達が国境を越えていくのを」
「そんな…っ」

 僕は勢いよく顔を上げた。声も出した。もう我慢できなかった。
 本当に?宝石を盗んだ犯人達が、イヴァル帝国に入ったの?

「それは…それだけでは、イヴァル帝国の民だと断定できないです。イヴァル帝国の者のせいにするために、他国の者がわざと見せつけるように国境を越えたのかもしれない…」
「おお…ようやく口を開いてくれたな。優しく、よく通る声じゃ。だがな、イヴァル帝国の民だという確かな証拠がある。国境を越えた後も様子を見ていた村人がいてな。国境の向こう側で、イヴァル帝国の軍服を着た男が、ご苦労だったと怪しい男達をねぎらっていたらしい」

 
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