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夜になり村人達が寝静まったと思われる頃に、僕とラズールは採掘場に向かった。
採掘場は、村長の家の裏手の山にあるらしい。
この家の周りには、家の中に入った直後にラズールが強力な結界を張っていた。
村長とその家族が外へ自由には出られないように、しかし家の中は自由に動けるようにするためだ。
人を脅して強引に指図することが、僕は苦手だ。だけど王となった今、このような場面にたびたび遭遇することがあるかもしれない。情だけでは国は治められない。
村長は人格者で、村長からすれば不審者である僕達にも食事を提供してくれた。
この村は薬草も育てて様々な薬を作っている。薬を作るということは毒も作れるということだと言って、出された料理を全てラズールが毒味をした。毒は入っていなかった。
そんな僕達を村長が呆れた様子で見ていた。日頃の食事に毒を盛られる心配のない人達からすれば、ラズールの行動は不可解だろう。でもそのおかげで、僕は生きている。そして今もありがたく食事を頂くことができるのだ。
食事の後に顔を洗いたいと言うと、ラズールが「水をもらってきます」と部屋を出た。
朝からずっとマントをはおったまま、村長の家に入ってから面もつけたままで疲れた。軍服を見られては困るから皆が寝るまではマントは脱げないけど、カツラと面は外してもいいだろうか…と頭の後ろの紐を解いたその時、扉が軋む音がした。
「水もらえた?」
僕が面を外しながら振り返ると、扉の前に小さな男の子が立っていた。
「あ、しまった…ラズールかと思って油断しちゃったな」
顔を見られた。でも今さら慌てて面をつけても仕方がない。それに相手は四、五歳くらいの小さな子供だ。僕の顔なんてすぐに忘れるだろう。
僕は面を机に置くと、男の子に近づいた。
男の子は逃げなかった。小さな口を開けて、僕を見上げている。サラサラの茶色の髪に大きな青い瞳。この子を見てるとノアのことを思い出す。バイロン国には茶色の髪と青い瞳の人が多いのかな。
「こんばんは。君は村長さんの…お孫さんかな?」
「うん。お兄ちゃんは?お客さま?」
「お客さま…ではないね。君のおじい様に教えてもらいたいことがあって来たんだよ。今日はお外に出られなくてつまらなかったね」
僕は床に膝をついて男の子と目線を合わせると、そっと手を伸ばしてサラサラの髪の毛を撫でた。
男の子がくすぐったそうに首をすくめて笑う。
「どういうこと?お外に出なくても大丈夫だよ!僕、お外で遊ぶの好きじゃないもん」
「そうなの?」
「うん。お絵描きしたり、木を積んで遊ぶのが好き…あれ?これなあに?キラキラしてるよ?」
「え?」
小さな手が伸びてきて、僕の銀髪を引っ張った。結い上げていた銀髪が少し解けてカツラから出ていたらしい。
「なにこれ?髪の毛?すごくキラキラしてる!」
「あー…うん。ねぇ君、このこと、誰にも言わないでくれる?僕と君だけの秘密にしてくれる?」
「僕とお兄ちゃんだけの?うんっ、いいよ!」
「ふふっ、いい子だね。ありがとう」
小さな子供は素直でかわいい。見ていると心が和む。僕は男の子を優しく抱きしめた。
「あのね、僕と一緒に来た大きなお兄ちゃんが怖いことを言うかもしれないけど、大丈夫だよ。君達に怖いことはしない。約束する。だから少しだけ、お外に出るのを我慢してね」
「うん…?わかんないけど…わかった!僕お兄ちゃんのこと好きだからがまんする!」
「ふふっ、僕のこと好きなの?」
「うんっ。かわいくてやさしいから」
「そっか。ありがとう。僕も君のこと好きだよ」
「やったあ!」
「何をしてるんです」
いきなり頭上から低い声が聞こえて驚いた。
男の子も驚いたらしく、小さな身体がピクンと揺れた。
採掘場は、村長の家の裏手の山にあるらしい。
この家の周りには、家の中に入った直後にラズールが強力な結界を張っていた。
村長とその家族が外へ自由には出られないように、しかし家の中は自由に動けるようにするためだ。
人を脅して強引に指図することが、僕は苦手だ。だけど王となった今、このような場面にたびたび遭遇することがあるかもしれない。情だけでは国は治められない。
村長は人格者で、村長からすれば不審者である僕達にも食事を提供してくれた。
この村は薬草も育てて様々な薬を作っている。薬を作るということは毒も作れるということだと言って、出された料理を全てラズールが毒味をした。毒は入っていなかった。
そんな僕達を村長が呆れた様子で見ていた。日頃の食事に毒を盛られる心配のない人達からすれば、ラズールの行動は不可解だろう。でもそのおかげで、僕は生きている。そして今もありがたく食事を頂くことができるのだ。
食事の後に顔を洗いたいと言うと、ラズールが「水をもらってきます」と部屋を出た。
朝からずっとマントをはおったまま、村長の家に入ってから面もつけたままで疲れた。軍服を見られては困るから皆が寝るまではマントは脱げないけど、カツラと面は外してもいいだろうか…と頭の後ろの紐を解いたその時、扉が軋む音がした。
「水もらえた?」
僕が面を外しながら振り返ると、扉の前に小さな男の子が立っていた。
「あ、しまった…ラズールかと思って油断しちゃったな」
顔を見られた。でも今さら慌てて面をつけても仕方がない。それに相手は四、五歳くらいの小さな子供だ。僕の顔なんてすぐに忘れるだろう。
僕は面を机に置くと、男の子に近づいた。
男の子は逃げなかった。小さな口を開けて、僕を見上げている。サラサラの茶色の髪に大きな青い瞳。この子を見てるとノアのことを思い出す。バイロン国には茶色の髪と青い瞳の人が多いのかな。
「こんばんは。君は村長さんの…お孫さんかな?」
「うん。お兄ちゃんは?お客さま?」
「お客さま…ではないね。君のおじい様に教えてもらいたいことがあって来たんだよ。今日はお外に出られなくてつまらなかったね」
僕は床に膝をついて男の子と目線を合わせると、そっと手を伸ばしてサラサラの髪の毛を撫でた。
男の子がくすぐったそうに首をすくめて笑う。
「どういうこと?お外に出なくても大丈夫だよ!僕、お外で遊ぶの好きじゃないもん」
「そうなの?」
「うん。お絵描きしたり、木を積んで遊ぶのが好き…あれ?これなあに?キラキラしてるよ?」
「え?」
小さな手が伸びてきて、僕の銀髪を引っ張った。結い上げていた銀髪が少し解けてカツラから出ていたらしい。
「なにこれ?髪の毛?すごくキラキラしてる!」
「あー…うん。ねぇ君、このこと、誰にも言わないでくれる?僕と君だけの秘密にしてくれる?」
「僕とお兄ちゃんだけの?うんっ、いいよ!」
「ふふっ、いい子だね。ありがとう」
小さな子供は素直でかわいい。見ていると心が和む。僕は男の子を優しく抱きしめた。
「あのね、僕と一緒に来た大きなお兄ちゃんが怖いことを言うかもしれないけど、大丈夫だよ。君達に怖いことはしない。約束する。だから少しだけ、お外に出るのを我慢してね」
「うん…?わかんないけど…わかった!僕お兄ちゃんのこと好きだからがまんする!」
「ふふっ、僕のこと好きなの?」
「うんっ。かわいくてやさしいから」
「そっか。ありがとう。僕も君のこと好きだよ」
「やったあ!」
「何をしてるんです」
いきなり頭上から低い声が聞こえて驚いた。
男の子も驚いたらしく、小さな身体がピクンと揺れた。
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