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第2章 魔法の使える世界

第33話 初めての県外遠征 第二夜 その4

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 そして立ち上がると、
「大丈夫そうだから、行こうか」
 と教えてくれる。
「えっぃいまの何?」

 にへっと笑い、
「企業秘密だ。フレイヤ先に行ってかたづけといて。人間はだめだぞ」
〈はいにゃ〉「にゃ」
 猫と会話する。

 勢いよく猫ちゃんが走っていく。かたづけるってなにを……。
 そこからは、なにも現れず。ただ歩いた。
 まるで、二人で歩いているとデートみたい。ダンジョンだけど。 

 神崎さん。髪の毛とか真っ白いけれど、脱色している感じでもないな。
 ちょっと背が高い…… 王子さまってこんな感じなのかもしれない。
 出会いは、私にとっては最悪の格好だったけれど、それにふれることなく、さらっと魔法できれいにしてくれたし。
 何も言わずに、みんなの食べ物とか、くれて……。
 あれっ、どこから? 出会った時も手ぶらだったよね。

 ひょっとして、アイテムボックス? ひょっとして勇者様。
 でも黒猫ちゃんを連れているから、魔法使いの方が正解なのかな。

 恐怖から解放されて気が緩んだのか、馬鹿な考えが次々と浮かんでくる。
 少し気になるのも吊り橋効果というものなのかもしれない。
 あっ。まって、私は何を聞くつもりなの?
「改めて、助けていただいて、ありがとうございました。それにみんなに食事までいただいてしまって」
 私が、そういうと、神崎さんはさわやかな笑顔と共に、
「ああいいよ。仕事だし。それに救助だからね」
 と答えてくれる。

「私、神地玲己(かみちたまき)20歳です。神崎さんはおいくつですか?」
「いま、23かな」
「ちょうどいいくらいですね」
 そう言うと、さわやかさに少し陰りが?
「……ちょうどいいって何が?」
 王子様感が消えていく。眉間にしわが。
「えーと、付き合うのに?」
 そう言うと、完全に表情が消えて、
「あーすまん、婚約者がいる」
 とサラッと答えてくれた。

「婚約者…… まだ、結婚していないんですよね」
 食い下がるが、困ったような表情をして、
「結婚はしていないが……。まあモンスターにつかまっていて、気が抜けたから、そういう思いも、出るのかもな。とりあえず、現状を踏まえて。救助とモンスター退治に集中しよう」
 と、言われた。
「はい。すみません」

 やがてあの場所にたどり着く。
 ダンジョンの20階に穴を開けて、ほかの蜘蛛とは違い横方向に部屋がある。
「これはすごいな。内側にびっしりと糸が張り巡らせてある。センサーのつもりか保温の為か?」

 繭のサイズはいろいろあるが、ここはすでに、蜘蛛のダンジョンだ。システムに介入して、もう少し先……。

 神崎さんが、指差し、
「この繭と、それとそれが多分お仲間だろう」
 多数並んでいる繭の中で、3つの繭を指し示す。
「わかるんですか」
「企業秘密だ。さて」

 そういうと俺は、繭の天辺を空間断でちょっとだけ開き、手を差し込んで破く。
 うん? なるほどね。中に睡眠系のガスが充填されているのか「浄化」。
 ほかの二つも開き、中に浄化をかけていく。

 起きだした彼らは、周りを見て首をひねっていたが、やがて思い出したのか、あわてて立ち上がろうとする。
 繭をもう少し開き、出やすいようにしてあげると、這い出して来て何かを言いかける。だが俺の横に立つ、玲己を見つけて何かを納得したようだ。

 一人ずつ、スポーツドリンクを渡す。

「さてと、周りの繭はモンスターばかりだ。あっちのダンジョン側に避難しといてくれ。そうだこれも渡しておく」
 サンドイッチをいくつかと、追加のスポーツドリンクを渡す。
 救出された連中は、まだ意識がはっきりしないのか、少しボーっとしているが、玲己に連れられて移動をしていく。

「さて、フレイヤはどこで遊んでいるのかな?」

 さらに、蜘蛛のダンジョンを奥へと向かう。次の部屋も壁まで蜘蛛の巣で覆われている。
 そこの真ん中にモンスターが居るが。人面蜘蛛? よく見る美人なアラクネーじゃなくて、大きな蜘蛛の額に人間の顔のような模様がある。

 少し残念。それでフレイヤは、クイーンアラーニェから次々と生みされる、子蜘蛛を殺しては魔石を食っている。
 まるでわんこそばのような、わんこ魔石を楽しんでいるようだ。
〈何を遊んでいるんだ?〉

〈いやちょっと遊んでいたら、楽しくなっちゃって。てへ〉
〈何がてへだよ。さっさと終わらして帰るぞ。外の繭に包まれたモンスターも、何とかしなけりゃならんしな〉

 そんなことを、フレイヤに念話しながら、クイーンアラーニェに向かって空間断を使った。



 時間は少し戻る。
「しかし、社長の魔法から逃げるの、これで2回目かな?」
「前回は凍ったんだよな、今回は火だけど空気の膨張と収縮でダンジョンの中で強風が吹くってどういう事よ」
「信じられるか? あれで本人。人間だと言い張っているんだぜ」

〈小僧ども、遊んでいないで、主のもとへ行くぞ〉
「はい」

 フェンさんについて駆けだす。横目で見るとダンジョンを切り取ったように、丸く何もないところがある。

「やっぱり社長って、ラスボスクラスだよな」
「ああ、あんな魔法を食らって、生き残れる気がしねえ」

 しばらく走っていると、社長が出したと思える、見覚えのある椅子とテーブルに突っ伏した6人を発見。

「お疲れ様です」
「君たちは、あのカン何とかさんの所の社員? ずいぶん若そうだけれど」
「そうです。特別指定外来種対策会社。冬月と」
「少林(わかばやし)です」
「年はいくつ?」
「おれら15と16です」
「高校生か」
「高校生って、ダンジョンで働かしていいんだっけ?」

「ああ逆です。社長に拾われて仕事しだしてから、高校に通いだしたので。それで社長はどこに?」

「ああ。奥へ仲間を探しに行ってくれた」
「どうする?」
「追いかけて来いっていう命令だから、行こうぜ」
「そうだな、皆さんもう少し待っていてください。追加でお茶とかお菓子出しておきますので」
「あれ? お前いつから?」
 俺が亜空間収納を使ったのを見て、一翔がぼやく。
「内緒だ」
「ちくしょう」

「それじゃあ」
 そう言い残して、奥へ向かって、走り出す。


「あの社長もアイテムボックス持っていたけど、あの子もか? どこかに宝箱でもあってスキルオーブでも使えばいいのか?」
「分からんが、あのスピードはすごいな。それとさっきは猫で、今度は犬。ダンジョン探査でなんか流行っているのかね?」

「救助で来たって言っていたから、警察犬みたいなのかもよ」
「ああ、そういうのもあるか」
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