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第四章 世界との関わり

第31話 リギュウムディ(神の国)

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「此処が市場か。すごいな」
 両脇に受付と同じようなブース。

 日本人が見ると、コンテナハウスが、一つに繋がっているようなイメージと言えば良いだろうか。むろん土魔法なので材質は石。
 幅六メートルほどで奥行きは三メートルほど。
 高さも、三メートルほどある。布製のロールタイプの庇がのび、商品を日差しから守っている。五軒一組のようだ。大体商品もその組で分かれている。野菜のブロック、肉屋、魚屋。別の所では、魔道具や細工物。

「これって、お金?」
 マリーが貰った小袋から、コインをつまみ出す。

「そのようだな。うん? これは金剛石? 信じられん」
 クリスティーヌが驚く横で、マリーも驚く。
「皆、お金を払っていない」
「えっ」
 驚くのは無理もない。現に目の前に、支給されたコインがあるのだから。

「そこのあなた、どうしてお金を払わないのです?」
 正義感を出し、マリーが野菜を抱えた人を捕まえて問い詰める。

「ああ、新人さんだね。ここは、物を買うためではなく、感謝のためにそのコインを払うのさ。沢山持っている人は、この町に貢献した人だね。王様は将来的にどう使うのか分からないけれどね。むろん品物は必要な分だけ持っていって良いし、もっと良いものが欲しければ、畑で収穫をしてきな。肉と魚は精霊様からの施しだから、お礼は捌いている職人さんにするんだよ」

 それを聞き、口を開けたまま立ちすくむ二人。

「えっ。畑から? 精霊様の施し?」
 呆けていると、荷車を引っ張る人がやってくる。
 新しい野菜と、古い野菜を積み直し、綺麗に整頓する。
 そしてどこかへ消えていく。

「よく見ると、野菜の所には売り手がいない」
「人がいるのは、肉とかと、工芸品。肉も普通みたいに積んであるのでは無く、透明なケースに入れられている。言うと必要な分だけ切ってくれるのか?」
 そして、クリスティーヌが気がつく。

「あの肉や魚を入れて帰る箱。さっき氷を入れたぞ」
「えっ、この時期に氷? 魔法かしら?」
 この二人が驚くのはこの世界、確かに魔法があり一部の人間は氷も創れる。

 経験的に、冷やせば良い事は商売人も知っているが、ホイホイと魔法も使えるわけもなく。商品となる肉などを仕入れて、露店で販売。
 傷めば廃棄ロスで、その分商品が高くなる。
 傷んだ肉などは、それこそ孤児院が引き取り、食べてみたり、肥料を創ってみたりしている。

 それが常識として頭にある二人は、持ち帰る箱にまで氷を敷き詰め、当然のように氷を使っている風景に驚愕をする。
 だがこれも苦肉の策。

 実は各家庭にも、魔道式冷凍冷蔵庫が備わっている。
 だが、教育が行き届いていなくて、すぐに冷蔵庫へ移してくれない。
 そのため重くはなるが、商品を氷に詰めて渡すようにした。
 肉や魚は、冷やせ。野菜は冷暗所。それをいま教えている最中。

 ちなみに、持って帰った氷を冷凍庫で保存する人たちもいる。
 字が読めない、というのはあらゆる面で非常に手間が掛かる。
 いま、説明の文字を見せながら、読み上げる人も居るが、その人自体も文字を理解していなかったりする。

「まだまだ、できたばかりこれからさ」
 望はそう叫んでいるが、先は長そうだ。

 市場から、帰ってきた二人。
 聞いた話の通り、冷蔵庫を探す。
 見ると台所の壁に取っ手があり、開く。

「これですね」
「確かに、涼しい。こっちは、うわっ手がくっついた」
「濡れた手で触るからですよ。冬場に鎧に手がくっついたと叫んでいる、新人兵士と同じ事をしないでください」
 言われて、毎年恒例の騒ぎを思い出す。

「たしかに。よく知っているな?」
「手の皮をはがしたりする人も居るので、治療に来られたりもするのです」
 クリスティーヌはその光景を、はっきり思い浮かべる事ができた。
 その位定番。
 逆に夏は火傷だ。

 マリーが言うように、神官達は簡単な治療魔法が使える。
 治療院へ行くよりも安く上がるため、兵士達は利用するのだろう。
 そう考えればマリーは後悔をしていたが、教会も捨てたものじゃない。
 実際孤児院の出身者は、教会がないと死んでいた可能性が高い。

「ライト」
 クリスティーヌが考えていると、マリーがキーとなる言葉を発する。
「消灯」
 さっき明るくなった天井が暗くなる。
 天井自体が、光源となっている。

「おもしろいな」
 クリスティーヌが、マリーの読んでいる説明書を見つめる。

「お風呂という物があり、一日一回は入りなさい。入らないと臭くなったり皮膚の病気になるですって」
 説明書は、冊子となっており、この町で暮らす注意も書いてあったようだ。

「他にも、トイレ以外で用を足さない。みだりに屋外で男女のまぐわいをしてはならない。騒動が発生したときは、まず話し合え。話が付かなければ王城にて審議をする。色々と書いてあるわ。あっ市場の利用についても書いてあった」
 てへっという感じで、マリーが舌を出しながら片目をつぶる。

 そして、浴室やトイレで使う用具や洗剤トイレットペーパーを確保するため再び市場へと赴く。日が暮れても、夜七時に鳴る鐘までは開いているようだ。

 そして、市場へ向かう道中が、夕暮れなのに明るい事に気がつく。
 道路脇と家の軒先から、魔道具による明かりが道を照らしている。
 道路脇に明かりの魔道具を設置したのは、立ち小便防止の鳥居感覚。

 この辺りのことについて、この世界の人は緩い。
 適当な間隔で公園を作り、公衆トイレも配置をした。
 だが昔からの習慣で、適当に用を足す人が多かった。
 男女ともに。

 その対処としての苦肉の策だが、さすがに魔道具に引っかける奴はいない。
 当然周りにあふれているため、持っていく奴もいない。
 金も食料もあふれ、後は男女間の問題や酒の上での騒動などだが、もめているといつの間にか。背後に精霊がたたずみこう告げる。
「説明なさい」

 説明し、無理矢理などがばれた瞬間。そいつは国外追放。二度と教会へは入れなくなる。
 商売の問題などは、城の審議場で審議。
 中央にテーブルを挟み被告と原告。
 双方で言い分を聞き、精霊の誰かが問う。
「その内容、本当か?」
 何もかも、見透かしてしまうその目で。

 当然、嘘は見破られて、追放。
 

 まだ、できて一年も経たず、すべてが手探りで、発展途上のちぐはぐな王都であった。
 ただ道行く人たちは、無事に救われたのか笑顔だ。
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